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世界最優秀民族が異世界にやってきました  作者: mk-3
第一部 世界最優秀民族が異世界にやってきました
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勇者覚醒、殺人ショー

「やめて……」


 小さな悲鳴が道彦の耳に入った。

 道彦は闇に紛れながら声の主を探す。

 草むらで小さな人の姿とそれ覆い被さる大人が見えた。

 見えなくてもわかった。

 兵士が子供を強姦しようとしているのだ。

 そしてさんざんおもちゃにしてから苦しめて殺すのだ。

 時が来た。

 道彦は息を吸い吐いた。

 わかっていた。

 これから何をすべきかを。

 『演出』の出番だ。


「エレイン、たとえ僕に何があっても撮影し続けろ。他は援護」


 道彦はエレインに命令を出した。

 エレインはスマートホンのカメラを道彦に向けた。

 道彦はもう一度大きく息を吸うと駆け出した。

 エレインに渡された剣を抜き振りかぶる。

 振りかぶったまま走る。

 不思議なことに声は出なかった。

 男は道彦に気がつかなかった。

 道彦はそのまま男の頭に剣を振り下ろした。

 兵士はヘルメットを着用してなかった。

 剣は頭蓋骨に当たり弾かれる。

 道彦は容赦なくもう一度剣を叩きつける。

 今度はガツリとした手応えがあった。

 もう一度振りかぶると、どろっとした血が剣にこびりつき糸を引いた。

 男はまだ動けた。

 反射的に道彦から逃げようと背中を向けた。

 それで道彦の剣の狙いはそれ、首の下から背中のあたりを斬りつける。

 男は悲鳴を上げなかった。

 いやもう絶命しかかっていたのかもしれない。

 道彦は男の背中を蹴飛ばす。

 男はよろけて地面に手をつく。

 首だ。

 道彦は思った。

 道彦は肩に剣を背負うと、一気に振り下ろす。

 道彦は剣豪ではない。

 首を切断できるはずがない。

 しかも狙いははずれた。

 道彦の剣は男の肩と首の間に深々と突き刺さる。

 道彦は男の背中に足を置き、足で男の背中を押しながらムリヤリ剣を引きはがす。

 手が血で滑る。

 道彦はさらに振り下ろす。

 今度は首に直撃した。

 血がどばっと噴き出した。

 さらに道彦は剣を振り下ろす。

 血まみれになった男の首に何度も何度も。

 めちゃくちゃに振り回したせいで、首だけではなく頭にも剣が当たった。

 男の耳がちぎれ頭の皮が剥がれた。

 五度ほど剣を振り下ろすと首が変な角度に曲がった。

 口から小さくうめき声が漏れていた。

 道彦は男の背中に剣を突き刺す。

 意外なことに簡単に突き刺さった。

 道彦は男の背中から剣を抜こうとするが、血で滑って引き抜けなかった。

 男はまだピクピクと指を痙攣させていた。

 それでもちぎれた首から絶命しているだろうことは推察できた。

 ここでようやく道彦は攻撃の手を止めた。


「大丈夫?」


 白々しい声で道彦は少女に言った。

 男に襲われていたのは小さな少女だった。

 小学生くらいに思える。

 服は引き裂かれ、肌は傷だらけだった。

 陵辱する前にナイフで面白半分に斬りつけたのだろう。

 茶色いズボンは引き裂かれていない。

 まだ最後まではされていなかったのだろうが顔は恐怖で蒼白だった。

 それは一生分の殺戮と暴力、陵辱を見た表情だった。

 少女はどこか遠くを見るような目をしながら頷いた。


「エレイン、俺を撮れ。アリアとフィーナは彼女を頼む」


 道彦は返り血を浴びた姿で指示を出した。

 エレインは道彦を撮影する。

 道彦はスマートホンに向かい静かに言った。


「今、僕は人を殺しました。子供を殺そうとした兵士を殺しました。皆さんが証人です」


 道彦はなぜこのような凶行に及んだか?

 単純にもう我慢ができなかったという側面も確かにある。

 人類の醜さをこれでもかと見せつけられて精神の均衡が崩れたのだ。

 だがそれは理由の一つに過ぎない。

 理由の大部分を占めるのは生きて帰りたいという思いだった。

 海外での拉致事件で日本人が帰ってくる確立は驚くほど低い。

 たいていは死体になってもなお帰って来られない。

 拉致事件解決の難易度が高いのと、犯人の安全を考えれば始末してしまうのが定石だからだ。

 拉致事件では人質の存在自体が証拠になってしまうからだ。

 ゆえに犯人が身代金を要求した時点で生きている可能性はゼロに近い。

 しかも今回は韓国が関わっている。

 なぜか政治家は彼らに異常に甘い。

 しかも北朝鮮との兼ね合いもあって非常にめんどうくさい相手だ。

 彼らは日本人には何をしてもいいと思っている。

 すぐに政治問題化して謝罪と賠償を要求するに違いない。

 道彦を取り戻すのに数十億円からもしかすると数百億円という金額が必要になるだろう。

 逆に道彦が殺されたとしても政府が払う賠償金は1億円以下だろう。

 (犯罪被害給付金を例に取ると学生である道彦の命の価値は1,210万円である)

 だったら道彦が死ぬのを待って遺族に金を払った方が政府にも政治家にも都合がいい。

 それどころかうまく立ち回りさえすれば、韓国に対する日本人殺害への糾弾という外交カードを得ることができるのだ。

 道彦を救うメリットはどこにもない。

 政府を動かす価値など道彦にはないのだ。

 いや政府は道彦の死を望むだろう。

 それもなるべく無残に死ぬことを。

 見殺しにされるのはわかりきっている。

 韓国軍に捕まればあのエルフたちのように犯されてからさんざんおもちゃにされて飽きたら丸焼きにされるだろう。

 道彦はそれだけは嫌だと身震いした。

 だからこそ日本国が動かざるを得ない状況に持っていく。

 自身の存在そのものを国際問題にしてやるのだ。

 道彦に都合か良いことに韓国軍はヘマをした。

 虐殺をしたことも道彦に生中継されたこともだ。

 道彦が正義の味方として受け入れられる余地がある。

 政治家も官僚も世論をコントロールできないのは嫌だろう。

 国内の韓国人勢力より厄介だと判断されれば日本政府が回収しに来るかもしれない。

 それはとてつもなく可能性の低い。

 それは道彦が一番よくわかっていた。

 だがこのままでは確実に見殺しにされる。

 道彦にはその計画に望みを託すしかなかったのだ。

 だがまだ道彦は気づいていなかった。

 すでに道彦は逃れられない運命のレールに乗ってしまったのだ。

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