虐殺実況生ライブ
遠藤はこの時点でもまだ事態の深刻さを全く理解してなかった。
道彦が地下アイドルのプロデュースでも手伝っているのだろう。
今回の生放送も地下アイドルのイベントに違いない。
手伝えばおこぼれがもらえるだろう。
そう思い込んでいた。
だからアイドルオタク、いわゆるドルオタのSNSを中心に生放送が行われる旨を宣伝していった。
さらに「もしかするとミリタリーな趣味の方たちをターゲットにしているかもしれない」と、気を利かせてミリタリーな話題のグループにも話を伝播して行った。
とは言っても無料の放送があふれるこのご時世、そんなに簡単に人は集まらない。
生放送が始まる前に予約した人数はわずか50人だった。
それも半数は同じ学校の生徒である。
そして放送が始まった。
煌々としたたいまつの光が村の外から見えた。
道彦の声が聞こえる。
「いま、村まで来ました……」
道彦は努めて冷静な声で説明をはじめた。
「虐殺はもう数日も続いています」
たいまつが燃えさかる。
煙が道彦たちの方にまで漂ってきていた。
肉の焼けるにおい。
これが焼き肉ではないことを道彦は知っていた。
人肉の焼けるにおいなのだ。
韓国軍はさんざんおもちゃにしたあと死体を火にくべたのだ。
「韓国軍は無抵抗の村人を殺してから焼いています。人の肉の焼けるにおいがここまで漂ってきています。僕もこの世界に呼ばれたところ、韓国軍の兵士に問答無用で攻撃されて逃げまわりました。いずれ僕も殺されてあそこで焼かれることになるでしょう」
道彦はそれを極めて冷静に言った。
日本のマスメディアのように面白おかしく脚色することはできた。
だが道彦はそれを避けた。
不謹慎なジョークでも言おうものなら炎上するだろう。
まずはネット上で信頼を築かなくてはならない。
演出とは面白おかしくすることではなかったのだ。
そのまま道彦は村へ忍び込む。
向こうは兵士で、見つかれば虫のように殺される。
そのような合理的思考は数時間前に消え失せていた。
あまりにも残虐なものを見過ぎて、道彦の脳内では脳内麻薬が大量生産されていたのだ。
村を占領したのは小規模な部隊のようだ。
月明かりしかない村を明るくするライトすら設置していない。
道彦の足に何かが当った。
それは子供だった。
爆発に巻き込まれたのだろうか手足がちぎれている。
道彦は悲鳴も上げずにそれを撮影する。
「もう一度言います。韓国軍は無抵抗の村を襲って皆殺しにしています」
道彦はせめてと思い、子供の空いたままの目をそっと閉じ、手を合わせた。
それを全て撮影していた。
「お、おい。ちょっと待て、なんだこりゃ……」
一方、遠藤は動画を見て震えが止まらなかった。
ネットではアクセス数が異常なまでに跳ね上がっていたのだ。
感覚が麻痺した道彦は気づかなかったが、子供の死を撮影することはプロパガンダの基本である。
戦争反対、難民の受け入れ、児童ポルノの撲滅、全て子供の死を発端として世論を動かした例である。
世界最大の募金団体も広告でハエのたかる子供の写真を使っているくらいだ。
それほどまでに世界は子供の死を嫌う。
道彦のこの行動はインパクトという意味で最大の効果を上げたのだ。
この間、遠藤の携帯は鳴りっぱなしだった。
みんな知りたかったのだ。
異世界で何が起こっているのかを。
さらに道彦の生放送は続く。
「あそこで虐殺した村人を焼いています。エレイン、あそこの黒い固まりを映して」
エレインは黒い固まりを撮影する。
「赤ちゃんです。生きたままあそこに放り込まれました」
この数分後、全国で救急車が大量に出動することになった。
生放送を見て具合が悪くなった人が続出したのだ。
噂が噂を呼び、物見遊山の視聴者が殺到した。
超至近距離からの戦争の生ライブ。
命知らずの戦場カメラマンでも避ける距離である。
誰も見たことのない映像がそこにはあった。
◇
実はこの生放送が行われていたとき、ちょうどパコ大統領の会見が行われていた。
大統領は異世界の軍隊が国民を虐殺したと涙ながらに訴えていた。
実際は滅ぼした村のごく少数の生き残りが門の外へ出て暴れただけなのだが、犠牲者数は最低100倍は盛るのが半島の常識である。
30分で逮捕されたにもかかわらず1万人が殺されたと主張していた。
「我々は異世界との全面戦争に突入する!」
と、パコが泣女のごとく叫ぶ。
実際はこの時、心の内では「パコパコしてえ」と思ってたのだが、パコはゴールデンラズベリー賞ものの演技で泣き叫んだ。
この裏で韓国軍の殺戮が生中継されているとは知らずに。