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世界最優秀民族が異世界にやってきました  作者: mk-3
第一部 世界最優秀民族が異世界にやってきました
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勇者「鈴木道彦」

 容赦のない虐殺。

 その真っ只中に不幸な少年がいた。

 名前を鈴木道彦。

 道彦は日本人の高校生で、家で寝ていたはずだった。

 道彦は第一話で姫様の裸を見るラノベの主人公になりたいと常日頃から思っていた。

 だがこれは断じて望んだストーリーではない。

 断じて違う。

 彼のまわりにいるのは耳の長い女たち。


「勇者様。この森を韓国軍の兵士が取り囲んでいます」


 なぜか彼女たちは日本語で道彦に報告をした。

 ここまではいい。

 道彦がこの世界にやって来てからすでに4時間が経過していた。

 この世界に放り出された直後、道彦は兵士に見つかりいきなり発砲された。

 「チョッパリ」だの「ウェノム」だのと怒鳴られながら追い回されたが道彦には意味がわからない。

 幸いにも極めて練度の低い兵士だったようで、道彦はなんとか五体満足で逃げ延びた。

 そこを召喚した勇者を探しに来た彼女たちに保護されたのである。

 「何が勇者だ」と道彦は毒づいた。

 運動部員ではない道彦は痩せぎすな体である。

 勇者にはほど遠い。

 精神の方も勇者にはほど遠かった。

 緊張のため過呼吸になるんじゃないかと思うくらい深く呼吸をしていた。

 それは当たり前だった。

 道彦がこの世界にやって来て早々に見たもの。

 それはこの世のものとは思えない悲鳴をあげる子どもを殴りつけ、その腹を割き臓物を掻き出しながら笑う兵士の姿だったのだ。

 あのペプシ国旗があちこちに設置されているのが見えた。

 道彦はあの国旗を知っていた。

 そう彼らは韓国軍だったのだ

 道彦は韓国軍に保護を求めようなどとは思わなくなった。

 道彦は理解していた。

 この虐殺が世界に知られたら非常にまずい。

 彼らにとっては致命的なはずだ。

 そんな彼らが道彦を生かして返すわけがない。

 見つかったら殺されてしまうのだ!


 道彦は戦争などしたことがない。

 不良に殴られたことはあるが、怪我をするほどの暴行を加えられたこともない。

 そんな彼がいきなり虐殺の現場に放り込まれたのである。

 確かに最近のニュースで韓国軍が異世界の調査に出るという話は聞いていた。

 だがそれは宇宙飛行士の月面着陸のように遠いところで起こっている科学的な話のはずだった。

 それなのに、まさか韓国軍があまりにも文明レベルの違う相手を容赦なく虐殺しているとは思っていなかったのだ。


「ふー、ふー、ふー……」


 道彦は震えながら息をしていた。

 恐怖で筋肉が痙攣をした。


「勇者様……勇者様の召喚に同胞10名の命を捧げました」


 静かに耳の長い女、おそらくエルフと言われる存在の一人が言った。

 10名の命とはおそらく生け贄なのだろう。

 人命軽視も甚だしい。

 道彦は軽い嫌悪感を憶えた。

 軽かった原因は道彦の目の前で虐殺を繰り返す韓国軍に大きな嫌悪感を抱いているからだ。

 だがそんな事は道彦には関係ない。


 道彦はスマートホンを取り出す。

 まだ手は震えている。

 虐殺を見たせいだ。

 道彦は助けを求めようと思っていた。

 彼女たちを助けるのは後回した。

 そもそもなにができるというのだ?!

 勝手に呼び出したのは彼女たちだ。

 道彦に責任はない。

 彼女たちの願いを叶えてやる義務はない。

 むしろこれは拉致だ。

 損害賠償を請求できるだろう。

 裁判所があればの話だが。


 道彦はスマートホンのホーム画面から通信状態を確認した。

 道彦の冷静で論理的な部分では繋がるはずがないと判断していた。

 だが実はこの時点で自称IT先進国の綻びが起きていたのだ。


「無線が来てる……つ、繋いでみよう……」


 普通ならキーを入力しなければならないはずだ。

 だがフリーWI-FIスポットのごとくなにも入力せずに繋がる。

 この時、相手は野蛮人だと侮った軍部が費用を浮かせるために民間のフリーWI-FIを持ち込んでいて、それがたまたま繋がったのだがそれを道彦は知らない。

 道彦は連絡のために韓国製SNSアプリを起動する。


「つ、使える……」


 道彦は安心した。

 これで親や友人と連絡ができる。

 だが通話は使えない。

 警察に電話することができない。

 しかたなく道彦は母親とSNS経由で通話しようとした。

 だが母親は通話に出ない。


「クソッ!」


 しかたなくメッセージを送ろうとするが、何を書いていいかわからない。

 「気がついたら異世界にいた。助けて」

 頭が悪そうだ。

 しかたなく道彦は母親への通信をあきらめた。

 今度は友人と通話する。

 コンタクトリストから『遠藤』へ通話する。

 数コールで遠藤へ繋がった。


「おう。どうした学校サボったことか? ハゲ(せん)怒ってたぞー」


「バカ! 今それどころじゃない! 気づいたら戦場にいたんだよ!」


「はあ? お前なに言ってんの?」


「いやマジで。本当だって! 助けて! 警察に電話してくれ!!!」


「お前……薬でもやってるのか?」


「本当だって!!!」


 必死になって道彦は訴えた。

 だが遠藤からしてみれば道彦の訴えは荒唐無稽な妄想にしか思えなかった。

 うざい。

 それが遠藤の偽らざる本音であった。

 そこで遠藤はこの会話を終わらせるべく、条件を出すことにした。


「んじゃ、写真撮って送れよ」


 もちろん遠藤ははなから信じていない。

 からかわれているのだろうとさえ思った。

 だから冷たくあしらったのだ。

 一方、道彦からすればそれは死刑判決に等しい。

 だがこの道彦は、ただ者ではなかった。

 道彦は少し考えると静かに言った。


「わかった……」


 そしてにエルフの少女の一人へ携帯を向けると写真を撮影した。

 そのままSNSで遠藤に送信した。

 すぐに遠藤から呼び出しがかかる。


「おいマジか。耳が長いってエルフなのか!?」


 遠藤は興奮していた。

 なにせ日本の漫画やアニメで出てくるような美少女エルフである。

 本当に異世界にいるかどうかなんてもはやどうでもよくなったのだ。


「わからん」


 道彦はそっけなく言った。

 道彦からすれば命がかかっているのである。

 エルフが美少女だとかは優先順位が低い。

 当たり前である。


「本当に異世界にいるんだな?」


 遠藤は期待を膨らませてながら聞いた。


「本当だ。助けてくれ」


 道彦は泣きそうな声で懇願する。


「俺に何ができるよ?」


「ああ、考えてある……」


 そう、道彦は勇者として召喚された男である。

 少し、いや……かなり思考がぶっ飛んでいた。

 偉人や英雄と呼ばれる人たちにはある共通点がある。

 それは常人を遙かに超える行動力である。

 彼らは一見無謀にも思える壁を行動力だけで乗り切っていくのだ。

 道彦も同じだった。

 自分が今なにをするべきか、それを一瞬ではじき出したのだ。


「ああ、そうだ。準備頼む……」


 そう言って遠藤との通話が終わると道彦は大きく息を飲み込んだ。

 そしてエルフたちに言った。


「僕は今から動く。僕が生き残るためだ。でも僕の行動で君らを助けることができると思う」


「ゆ、勇者様! 本当ですか!?」


 彼女は金髪で色白、お姉さんといった印象の女性が言った。

 エルフたちのリーダーなのだろう。


「でも条件がある」


「条件とは?」


「命をかけてくれ。正直言って僕も含めて生き残ることができるかわからない。でも作戦には君らの力が必要だ」


「はい! かしこまりました」


 道彦は携帯のバッテリーを確認する。

 まだ電池は充分にある。

 そこまで確認すると、道彦の心にほんのわずかな余裕が生まれた。

 心に余裕ができると道彦は、まだ誰一人としてエルフたちの名前も知らないことに気づいた。

 名前を聞かなければならないだろう。


「僕は鈴木道彦。君の名前は?」


「エレインでございます」


「他の子も名前を名乗ってもらえるかな」


 これから彼女たちは運命共同体だ。

 その名前を知らないのはおかしい。


「フィーナです」


 銀髪ロングで物静かな印象の娘が言った。


「アリアです」


 赤髪で気の強そうな娘が言った。

 道彦はこの3人と生き残らなくてはならないのだった。


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