ノーマル・ベストエンディング 共通部分1
◇ノーマル・ベストエンディング 共通部分1
殺す。殺してやる。
道彦は明確な殺意を持って拳銃の引き金を引こうとしていた。
この男は異世界を侵略した悪魔だ。
この男は癌だ。この男は調和を乱す癌細胞なのだ。
――ちょっと待て……癌細胞……僕はどこの視点からそう思っている。自分自身かそれとも……神の視点なのか?
道彦の手が震えた。
これは本当に自分の意思なのか?
なぜキムを殺したいと思ったのだ?
憎い。そうだ憎い。
こいつのせいで村人が大勢死んだ。
子どもも大人もみんな苦しんで死んだ。
だが自分は兵士を殺したときどうした?
生き残った兵士は現地で裁判にかけたはずだ。
自分が一時の感情でキムを殺すのはおかしいことだ。
キムを殺していいのは被害に遭ったこの世界の住民だけだ。
道彦自身にはキムを裁く権利はない。
道彦の感情ではない部分は冷静な答えを出した。
では……誰がキムを殺そうとしたのだろうか?
道彦か? それとも……
「キムを殺すことを望んだのは門なのか……」
この抗いがたい殺意は門の思惑なのだ。
それに気づいたとき道彦の殺意は一気に冷めた。
そうだ。韓国の法で裁けばいい。
大統領はこちらにある。
大義名分はできている。
処刑スタイルで殺すなんて世論がひっくり返りかねない愚かな手だ。
キムに全ての罪を押しつければ四方丸く収まるのだ。
そのためには口封じなどもってのほかだ。
むしろ全てをぶちまけて醜態を晒してもらわなければならない。
それに万が一、裁判がキムの有利に運んだとしても、それは道彦や日本には有利に働く。
財閥の力で裁判に圧力をかければキムへの悪というイメージは加速するからだ。
日本に逃げた村人たちもキムが生きている間は哀れな被害者という政治カードとしてとてつもない価値を生み出すだろう。
今後日本で生きる助けになるはずだ。
殺すな。絶対に殺すな。
それなのに殺そうとするなんて。
これは自己犠牲でもなんでもない。ただの暴走だ。
道彦は拳銃を捨てようと手の力を抜く。
だが道彦の指は意思に反して力をこめようとする。
操られるな! 自分の意思は自分だけのものだ!
ピクピクと指が動く。
道彦はもう片方の手で指をむりやり引きはがす。
拳銃が床に落ちた。
パコが安堵のため息をついた。
キムががばりと起き上がる。
そう、キムはこの時を待っていたのだ。
キムは拳銃をつかみ道彦に向ける。
だが甘かった。
道彦はキムの拳銃をつかむと自らの体を射線から外す。
そしてキムの顔面を空いた手で何度も殴りつける。
何度か殴りつけキムの手の力が弱まると拳銃の引き金にかかった人差し指をむりやり引っこ抜き、関節と反対側に曲げた。
「ぎゃああああああッ!」
悲鳴など気にしない。
次に道彦はキムをナイフで刺したその横っ腹をブーツのつま先で蹴っ飛ばした。
今度のは悲鳴にもならない。
「ああああん……えぶ……」
武道の技など知らない道彦は、持っているキムの指をどうするか迷ったが、とりあえず捻った。
まるで武道の達人がやったようにキムがだらしなくごろんとひっくり返った。
道彦はまだ動けそうな気がしたのでだめ押しにキムの脇腹をもう一発蹴る。今度は体重をかけて踵をぶつける。
キムは小さく悲鳴を上げるとひっくひっくとえずいた。
おそらく戦意は喪失しただろう。
「エレイン、行こう。キムはもう動けない」
道彦は勇者の墓を出ようと思った。
大統領は確保した。
キムも後から来る兵士に引き渡してしまえばいい。
あとは堂々と済州島につながる門から帰ればいい。
勇者の墓はなんとか入り口を閉じる方法を考えよう。
勇者の墓はその存在自体が有害だ。
なあに勇者の墓でのやりとりは全て中継されている。
韓国も北朝鮮も自分たちが滅びると思い込むはずだ。
他の国はそこに付け込み、滅ぼしもせず生かしもせず中途半端に生かす道を模索するだろう。
確実に未来は変わるに違いない。
それでいい。上出来だ。
未来を見るのは破滅に直結している。
その証拠にキムは絶望的な未来を知ったせいで、異世界を侵略し大勢の人を殺した。
常人には手に入れられない全てを持っていたキムが自ら破滅の道を突き進んだのだ。
たとえ確定した未来だとしても、現在の決定に対して不確かなノイズをもたらすのであれば、それは有害な情報だと言えるだろう。
未来を知る技術があってもそれを受け入れて建設的方向に持っていくだけの文化は生まれていない。
人類には過ぎた技術だ。だから道彦は泉に触らないことにした。
「エレイン。泉に触らないで勇者の墓を閉じる方法はある?」
「はい道彦様。本殿の外に黄泉国……天界とも言われていますが道彦様の世界に通じる穴が空いています。そこで帰還の儀式をすれば勇者の墓は次の勇者様の降臨まで封印されます」
「わかった案内して」
「はい!」
道彦は大統領を連れて教会の外に出る。
「う、ううう。うう。」
うめき声がしていた。
教会の外には男たちが倒れていた。
キムの側近だろう。キムに置いていかれたようだ。
なぜか彼らはもがき苦しんでいた。
目から血を流し、口から泡を吐いている。
足を緩慢にじたばたさせ、ぜいぜいと浅い呼吸をしていた。
「どういうことだ……?」
「勇者の墓には勇者と魔王、そのお仲間しか入れません。おそらく魔王の仲間ではないと門に判断されたのでしょう」
道彦はどうしようか迷ったが、女性のエレインと怪我人である道彦では連れて行くことはできない。
道彦が悩んでいると、大統領はキムの側近の手を取りオーバーアクションで言った。
「医療班をよこすから、わかったな。大丈夫だ。君らはキムの被害者だ。あのキムという売国奴にだまされていたんだ!」
側近は涙を流しながら力を振り絞って首を縦に振った。
道彦は韓国語はわからないが大統領のゲスな笑顔を見ればなにを言ったかは理解できた。
道彦は大統領にイラッとしたがそれは顔に出さないようにしていた。
一緒にいるのは長くないだろう。
それにしても気にかかる……
――何かがおかしい。
道彦は違和感を持っていた。
ゲートは道彦の意思に介入した。
今度は側近を排除しようとしている。
ゲートには意思があるのだろうが、その目的がわからない。
しばし道彦は考える。
その姿は世界中に中継されていた。
キムとの戦いもその結果の制圧もなにもかも中継されていたが、道彦が殺人を思いとどまりキムを生かしたことで道彦を悪者扱いする声はなかった。
パコ大統領もまるで最初から道彦の仲間だったかのように「自分たちの民主主義側の勝利だ」とカメラに訴えかけていた。
「みなさん。ゲートにはなにか意思があり、今回の戦争はその意思によって引き起こされた模様です」
道彦はカメラの前で断言した。
「世界中の皆さん! この韓国大統領であるパコも鈴木くんに同意いたします! 全て我が国民には非はなく、全てはゲートと悪漢キムによる国家反逆の大罪なのです!!!」
大統領はカメラをつかむと大声で演説をはじめた。
この時のドアップは様々にコラージュされて世界中で拡散されることになった。
ちょっと裁判制度の間違いがあったので細かいところを習性いたしました。
……と言うか刑期満了してるのに仮釈放になっていました。
感想お返事コーナー
>裁判
裁判は……裁判官全体の考え方が周回遅れなんです。
なので新しい出来事とかには対応ができないケースが多いんです。
最高裁判例で有名な尊属殺人のケースとかですね。当時は国会が裁判所を叩いて凄かったそうで……
直近では痴呆症の徘徊老人がJRの電車とぶつかって死亡、遺族に責任があるのかを問われたケースが思い浮かぶかと思います。
道彦の場合は少年審判ではなく、刑事裁判ですので起訴された時点で99%負けます。詰んでます。
実際だったら戦地なので起訴は難しいと思うのですが、傭兵と違って軍には所属してませんし、場所は(むりやりな解釈だと)韓国国内、目立ってしまったということで物語としては起訴してみました。
(小野田寛郎さんのケースではフィリピン政府は30件の殺人の免責をして起訴しなかったそうです)
特に道彦の場合は全てカメラの前での犯行ですので、法律を犯した事実そのものは争いがないと思います。
争うとしたら戦地に拉致されて仕方がなかったから無罪か減刑してよという線だと思いますが、そういうのが得意なのは圧倒的に左翼系弁護士なので、左翼を敵に回してる道彦は詰んでいます。
今は強制起訴の制度があるので本当に起訴されるかも……
>ここまで酷くなる?
なるかも。ならないかも。ですね。
憲法改正は無理ゲーの極みなのでまずないなと思います。
(今の状況だと計算上では6年も圧倒的な支持率を保って衆院選と参院選2回を大勝利しなければできません)
憲法改正でも基本的人権は改正できないはずですし。
でも社会の価値観の変化って凄く怖いんです。
ある日突然、新しい罪が生まれたりしますから。
それを今、成そうと工作してるのが国連に乗り込んだあやしいNGOです。
彼らは嘘で社会を動かそうとしてます。
本当に怖いですよ。気がついたら文化大革命とか嫌ですね。




