マスゴミ
有川は歯ぎしりをしていた。
ネトウヨが生き残ってしまったのだ。
ネトウヨは死ぬべきだ。それも無残に。
それが有川のルールだった。
そもそもネトウヨとはネット上の右翼のことであり、ただ巻き込まれただけの道彦はネトウヨではない。
だが近年ネトウヨの定義はどこまでも広く拡大し、いまや共産主義政党や当の韓国人までもネトウヨ扱いである。
『ネトウヨとは遠足におやつを300円以上持ってくる極悪人である』とまで言われる始末である。
だが有川にはそんなことは関係ない。
有川は今までイスラム国に日本人の情報を密告して二人を葬った。
日本人を殺すこと。
それが有川の存在理由だった。
だが薄汚い日本人が生き残ってしまったのだ。
そしてこの世でもっとも先進的でリベラルな韓国様に危害を加えようとしている。
実際は巻き込まれた道彦が過剰防衛で三人殺したが一番中立な物の見方だがそれは有川には関係ない。
有川は常に韓国や北朝鮮側から世界を見ているのだ。
歯ぎしりした有川はある作戦に出る。
これが道彦たちの運命を変えることになる。
長い長い夜が終わり朝がやってきた。
太陽が黄色く輝いていた。
世界中の人々が活発に議論をし眠れぬ夜を過ごした。
世界中のSNSはは異世界に紛れ込んだ少年、道彦の話題で持ちきりだった。
それに同調して各国のニュースもトップで道彦の話題を取り上げているほどだ。
鈴木道彦は今やハリウッドの俳優よりも有名人だった。
道彦に関する議論は主に法律的な扱いや報道として『アリ』なのかだった。
ほとんどの意見は同情的なものであった。
それ以外にも心理学や社会学、人類学的にもモラルが高い地域の少年が容易く殺人に手を染めた例として議論が行われていた。
学術とは無縁のグループでは道彦がランボーなのか地獄のヒーローなのかで議論が行われている。
ほとんどが『ヒーローではない』と口では言いながら道彦が次に何をやらかすかを期待していた。
悪人を殺す正義のヒーローという筋立てなのに、その映画では再現できない妙な生々しさに彼らは興奮していたのだ。
彼らは自分自身でも人道に外れた興奮をしているのを自覚していた。
それをごまかすためなのか、それとも純粋な善意からか『道彦を救え!』と繰り返し叫んでいた。
叫びは怒り、喜び、哀しみ、憎しみがない交ぜになったものだった。
そして彼らは自分たちを糾弾するかのようにその矛先を韓国へ向けた。
韓国の方はたまったものではない。
世界各国の韓国大使館の前には抗議のデモ隊が集い「この犯罪者!」と叫んでいた。
韓国大統領のパコは一夜にして救国の英雄から戦争犯罪者へ堕とされた。
パコは各国の指導者に電話会談を要求し自らをかばうように求めた。
パコからすれば世界の首脳は韓国をかばう義務があるからだ。
結果はほとんどの国にきっぱりと断られた。
特に日本の芥川首相はまるで汚物と話しているかのような冷たい声だった。
なぜ世界最優秀民族として世界に君臨する韓国大統領の命令に従わないのだ!
世界大統領より偉いのだぞ!
(※世界大統領とは国連事務総長のことである)
なぜ世界最優秀民族ではなく異世界人なんかに感情移入をするのだ!
パコは嘆き悲しんだ。
大韓帝国が日本軍に踏みにじられたときもこんな気持ちだったに違いない。
そして非常に短い時間を韓国人独特の思考に費やすと恨む相手を見つけた。
そう……これも全て……全てが薄汚い日本人のせいなのだ。
異世界人とつるんで汚い金を使って世界各国を買収したに違いない。
許せない。
根絶やしにしてやる!
パコは憎しみを募らせ歯ぎしりをした。
だが同時にパコは知っていた。
日本に見捨てられたら韓国は滅びることを。
日本を滅ぼすのは世界が望む自明の理である。
それは人類普及の真理である。
だが今は日本を刺激するべきではない。
当面は韓国の国内世論を抑えなければならない。
それにはパフォーマンスが一番だ。
李明博元大統領は独島(竹島)にヘリで駆けつけるというサプライズを果たした。
薄汚い日本人へ一撃を加え、同時に世界は韓国にひれ伏したのだ。
パコは自分も同じようなことをすればいいはずだと結論づけた。
それにだ、世界で最も革新的な我が軍が野蛮なことをするはずがない。
世界中のマスコミを連れて異世界へ訪問すればいいのだ。
今ごろ我が軍は微笑みながら現地の子どもたちと我が国が生んだ文化であるサッカーでもしていることだろう。
悪逆非道な日本になど負けない。
負けてたまるものか!
パコは微笑んだ。
それがかつてベトナム戦争でアメリカが失敗した戦略だとは気づかぬままに。
◇
結局、遠藤は一睡もしなかった。
炎上するネットとは違い日本の朝は静かなものだった。
マスコミ各社は「報道しない自由」を行使することを選択した。
新聞は野党による芥川総理への漢字クイズを大きく取り上げた。
漢字が読めるのが政治力だとでも言いたいのだろう。
それなら辞書の編纂者がもっとも優秀な総理のはずだ。
そう思っているのだからはっきりと言い切ればいい。
だがそれを言わないのが彼らの品性というものを表していた。
あとはいつものように慰安婦がどうとかアメリカ軍がどうとかの記事で埋め尽くした。
韓国軍の虐殺には一文字も触れない。
また朝のニュースは芸能人の不倫放送からはじまり、国内の事件報道、上野動物園のパンダのニュース、お笑い芸人の私生活、そしてアイドルの宣伝と盛りだくさんだった。
お笑いタレントが話すたびに、女性アナウンサーがケラケラ笑っていた。
まるで鈴木道彦という人物が存在しないかのようにすっぽりと異世界での虐殺だけが報道されなかった。
マスコミの本音は簡単だった。
誰でもわかる。
クソガキさっさと死ねよ。
それは北京オリンピックの前にチベット虐殺を全く報道しなかったころの空気とどこか似ていた。
普段は政府の圧力がうんぬんと偉そうに言っているが、マスコミなどこの程度だった。
マスコミなど最初から知る権利には貢献していないし、すでに自らの主張する存在意義など粗大ゴミに出していた。
公正中立とホザきながら中韓の足の指をしゃぶる豚でしかなかったのだ。
それに反して日本のネットニュースは道彦の話題で持ちきりだった。
ありとあらゆる場所で道彦と遠藤、それとその家族への殺害予告が書込まれるほど人気だったのだ。
ありとあらゆる場所に「俺ならもっとうまくやる」と書き込みがあり、「テメエみたいなクズは永遠に呼ばれねえよ!」と返信されていた。
「暴力はいけないよ」と生ぬるい意見に、「鈴木道彦はXX教の信者」とか「フリーメイソンがうんぬん」とお約束の陰謀論が隙間を埋める。
道彦が見たら代わって欲しいと本気で思うに違いない。
遠藤はため息をついた。
世間は残酷だ。
イデオロギーのためには人殺しもいとわない。
だがそれでもよかった。
道彦には敵が必要だ。
韓国軍では相手が強すぎる。
まともに戦ったらあと数日の命だろう。
だからもっと卑怯な悪党を用意する。
マスコミだ。
じきに彼らに怒りの矛先が向かい炎上するだろう。
彼らが意地になって無視して、世間が騒げば騒ぐほど道彦の生還の可能性は上昇する。
そして道彦を利用した連中が動くはずだ。
世間を飽きさせてはいけない。
世界をも巻き込んでの祭りを炎上させなければならない。
煽って煽って煽って煽って……炎上した先に道彦の生還があるはずだ。
ニュースを見る人たちを道彦に感情移入させ、自分たちが異世界人と共に戦っているように思わせるのだ。
だから村人に肩入れしてもいい。
なるべく生々しく、苦しみ、傷つける。
それが必要なのだ。
一方海外のマスコミも似たようなものである。
もしこれが自国のタブーに触れるニュースだったら報道する勇気はない。
特にアメリカのマスコミは、ボストンマラソンへの爆弾テロ事件で無責任なネットの流言を信じて無実の人を晒し者にするという失態で、その権威はすでに地に墜ちていた。
どこもマスゴミは似たようなものである。
だがこれは遠い朝鮮半島で起こったことだった。
遠慮するいわれはないし、責任を取る必要もない。
ほとんどの局は道彦の生放送をそのまま垂れ流した。
そして生放送休止中の現在では様々な角度から好き勝手に意見を述べていた。
遠藤の部屋の目覚まし時計が鳴った。
そして全員が固唾を飲んで待つ中、二日目の放送が始まった。
・応援メッセージありがとうございます!
がんばって書きます。
ストックちょっとしかありませんけど……
・『死ね』という心が温かくなるたくさんのメッセージありがとうございます。
スクショ撮ったのでそのうち晒しますね♪
・レビューありがとうございます!
腹筋崩壊しました。
それと某議員さんのツイートまとめを貼るのは自重しました。
だって別人ですし。
>グロくね?
グロいって意見がたくさんあって驚いています。
なろうの作品って子どもの背中の皮剥いだり首チョンパしたりが普通にある印象だったので……
不死の肉体を持ついじめっ子の顔を焼いて毒で修復しないようにするとか見ましたし。(去年の今ごろの日間一位かな?)
アウトーでしたか……
>犯罪者を送るのはおかしくね?
フラグなのであとで回収します。




