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2015年/短編まとめ

嫌い嫌いも

作者: 文崎 美生

あの飄々とした笑顔が嫌い。

見透かしたように喋るのが嫌い。

土足で人の内側に入るような態度が嫌い。


反吐が出そう、と口が動きそうになったけれど、キュッと結んで言葉を飲み込んだ。

飲み込んだ言葉は胃の辺りに、ボチャンッ、と落ちて嫌悪感を広げる。


そんな私の気持ちを察しているはずなのに、目の前の男はいつもと変わらない飄々とした、私の嫌いな笑顔を浮かべていた。

何を考えているのか分からないところも、嫌い。


「ははっ、怖ぇ顔」


こういう失礼なことを普通に言う口も嫌い。

嫌いと言うか縫いつけてやりたい。

胃の辺りで広がっている嫌悪感を隠すこともなく、私は顔を歪めて目の前の相手を睨む。


そもそもそこはお前の席じゃないだろう。

読み掛けの本は開いたまま、そこから進むことはなくて机の端に置いてあるお菓子は、彼の胃の中に次から次へと吸い込まれていく。


「これ、美味いな。新作?」


「そーね」


基本的に学校に持ち込むお菓子は、うちの家で作られているものだ。

ケーキ屋なんて女の子らしい家に生まれたけれど、まともにお菓子作りをしないままに育った私は、三つ上の兄よりも女子力というものが低い。


「いつ、店に並ぶの?」


「さぁ」


彼がいるせいで全く読書が進まない。

ずっと同じページの同じ行を見つめ続けるせいで、読み終わる気配が一向にしないのだ。

イライラし始めて自然と溜息が漏れると、彼が「幸せ、逃げるぞ」なんて言って地雷を踏みに来る。

誰のせいだ、と叫び出したくなるのを押さえて、お菓子へと手を伸ばす。


今回の新作は果物を使った焼き菓子だけれど、これは兄が作ったもので、これまた女子力の高い可愛らしいラッピングをしていた。

だがしかし私が触れたのは焼き菓子ではなく、ラッピングの部分で、カサッ、と音を出す。


「アンタ……全部食べたの?」


信じられない、と思い切り顔に出して聞けば、目の前の彼は「え?」と首を傾げて、お菓子の入っていたラッピングを見た。

それから沈黙。


「ご馳走様」


テヘペロ、とでも言うように言った彼に対して、殺意にも似た何かが湧き上がる。

誰が全部食べていいって言ったんだよ。

そういう意味を込めて睨んでも、彼はヘラヘラと笑っていて全く堪えていない。


これしか持って来てないのに。

グシャッ、と音を立ててその可愛らしいラッピングを握り潰して、席から立ち上がる。

彼は座ったまま私を見上げた。


「でも俺、お前が作ったの食いてぇな」


真意の見えない目を隠すように細めて笑う。

その笑顔も嫌い。

本心が分からないのが一番嫌い。

グッ、と奥歯を噛み締めてゴミを捨てるために床を蹴った。


じんわりと後頭部が熱くなる。

熱が頭や顔の方に回るのが分かって、嫌いだっ、と吐き捨てておいた。

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