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「こころは空いていた」「無人島」「日本一」「切り株」
「こころは空いていた」
見上げる前から
空はあった
口を噤む前から
言葉はあって
見惚れる前から
色はあった
わたしたちは
産まれる前から
鳴き声を上げていて
読書に耽る前から
こころは
大きく空いていた
「無人島」
遠くて近い闇のなか
ぽっかりと
目の前の画面の光に浮かぶ
ここは無人島
かたわらで
黒猫は眠りこける
ときに小さな
いびきをかく
闇を越えて
言葉が伝わってきた
――元気ですか
闇に向かい挨拶を
――はい ありがとう。
「日本一」
好い天気に
両手をいっぱいに広げて
着物が干されている
柄には「日本一」とある
「あなたには無理ね」と
妻が笑った
「まぬけとばかの日本一?」
妻はそのまま言うけれど
「上には上がいるんだよ」
わたしは謙遜して
お茶を啜った
「切り株」
花梨の切り株に
しいたけとなめこが生えてきた
槿の切り株に
霊芝が生えてきた
紅梅の切り株には
何も生えてこないから
何時か紅白の梅を揃えて
その根元に
キノコのように座わり
ぼんやりとした
昼の空を見上げて
「ホーホケキョ」と
鶯を呼んでみる




