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【詩集】果てしない扉  作者: につき
深緋 (こきひ)の裏側
78/100

逆らえないこと

きこえますか

湿り気を帯びた刺さない風に

まだ穏やかではないけれど

確かに昨日と違う華やかさ


みえていますか

陰鬱な雲の下

無骨な裸の樹の梢に灯る

春の灯


かおりますか

雨に沁みた地面から立ち上る

喜びに満ちた体温に温められて

卵たちをくすぐっている土の薫り


やってきたのです

季節はニンゲンの混乱をよそに

確かに酷薄の季節を過ぎたのです


招待状は津々浦々に満ちて

目覚めのワルツの演奏会が

足もとの小さな雑草の声から始まり

やがては山々を震わせ海を轟かせる


絶望は同時に降り注ぎ

乖離の寂しさと痛哭は

与えられない人々を刺していく


残酷な物語がまた始まる

取り残される哀しみの低い響きに

枯れた涙をまた思い出す


消えてしまった

失ってしまったことごとが

欠損した肢体の先のごとく疼くのです


それでもそれでも

身体の奥では春を喜んでいることに

許せなく思いながらも

季節と言うものを

受け入れざるを得ないのです


これが生きているという事です

生かされているという事です

自律的でありながら受動的であり

自発でありながら他発であるのです


雨が降れば濡れるほかなく

腹が減れば食べるほかなく

一人になれば寂しがるほかなく


どうしたって逆らえないことなのです

大きな命の中で

ぽつんと

取り囲まれているのです

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