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雪
地の湿潤に
天から
沈黙と静寂が落ちてくる
あいだに立つ我らの
姦しさと喧噪を白く覆い
つかの間の決め事をもたらす
一つだけなのだ
それは一つだけの色なのだ
何色でもなく
真っ白に全てを覆う
白だけの色なのだ
許されぬ冷たさ
全てに沁みる柔らかさ
音の全て消され
止めどなく
天のはらはら落ちて
この時だけは
色とりどりの愚かさも
喧々諤々の傲慢も
ひとは白く染まり
街は白く静まり
かつて天を慕っていた
憧れの吹雪く渓谷に
真っ白な雪の塊のようになった
カモシカが
畏れながらつぶやいている
地の底で眠る龍の尻尾が
突き出ている頂上は
つかの間晴れて
遠くにキラキラと海が望める
洞窟で眠る子熊の夢には
雪の中で踊る妖精の
髪の先に揺れる
鈴の音が聞こえている




