あえたらいいな
ベッドをでて
部屋を出て
こっそりと玄関を出て
足音をころして庭を出て
道ばたのいしころをよけて
みなみへあるこう
カーブミラーに映らないように
近所の人にみつからないように
イヤホンからながれるテクノもどき
スマホから再生されているクラシック
こころの穏やかになればなるほど
目線はさまよい足取りはふらつく
晴れているのか曇っているのか
雨をぽつりと感じたら
冷たい涙みたいだと思う
いまごろまだあの川の中で
小さな鮫は待っているだろうか
なんどかのぞいてみたものの
姿はなかったから
静かに一人泳いでいって
今ごろ冬の海にいるのだろうか
凍えながら海辺を散歩する
女子高生の詩人が
小さな鮫をみつけたら
砂浜にしゃがみこんで
鮫の小さい黒い目を見つめながら
とっても残酷な言葉を吐きつける
おまえは鮫なんかじゃないんだよ
おまえは暑い国の王様の末っ子なんだよ
今から遠く遠く海を泳いでその国へ行き
子どもだけれど年老いた魔法使いに
魔法を解いてもらいなさい
小さな鮫は驚いて
びしゃっとはねてひと潜り
小さな鮫には分からないから
また川をさかのぼってきて
わたしの顔を見に来るだろう
今からわたしは川へ行くけれど
うまくあえるといいけれど
あの日わたしが置いてきた
小さな鮫にあえるといいけれど
そうしてうまく
説明してやれればいいけれど
おまえはおまえでしかないと
どうしようもないおまえでしかないことを
おまえはむねのなかには
大きく無限にはじけるおまえを持っていることを
おまえのからだの中には
白く輝くつばさが眠っていることを
おまえは時間も空間も命さえも飛び越えて
そのつばさでどこまでも飛んで行けることを
虚空の宇宙を光を連れて飛び回り
深海の暗黒へマッコウクジラと共に潜り
幽玄の境を薄らと輝く亡霊の群れに交じり超えていく
放たれた者にのみ叶う真実を
潰れた胸の下でのみ羽ばたける呻きの空を
爛れたこころだけが掴む先の夢を
止まらない連鎖の悪意からも
泥だらけの善意を晒す吹雪からも
血塗れの眼で見る喪われた未来からも
目をそらさずに
あまりに小さい鮫がいる
置き去りにされたままで
少し震えて腹を減らして
まっている
あまりに小さい鮫にあえたらいいな