片隅で蹲る事実
そいつは闇の隅に
顔の無い黒い姿で蹲っている
目の隅に見るともなく見えてしまう
そいつは
まるで後悔しているふりをしているようで
一言かけられるのを待ってるふうでもあり
それでもいじけてこちらを見ない
わたしはそいつに対して
やり場のない怒りを何度もぶつけてきたし
殺してやろうかとも何度も思いもした
火のつくほどに睨み付けてやりもしたし
こころのなかでどろどろと恨みもした
それでも
決着のつかないままに
歳月は経ち
新たな命が生まれ
大切な人が亡くなり
落ち着きそうになっていることを
そいつは横目で見て
嗤っているのだろうか
わたしの甘さを嗤い
弱さを見下して
そいつは暗い隅で
少し姿勢を緩めただろうか
許せはしない
認めることも出来ない
そんなことを引き受ける故もないのに
事実だけが進み
わたしをその渦中に押しやるのだ
この全体を爆破するような突破力が欲しい
わたしそのものもばらばらにしてしまう
無暗やたらな馬鹿馬鹿しいほどの暴力で
この事実を破壊してしまいたい
しかし
片隅で蹲る事実は
そんなわたしをまた横目で見て
そんなことはできないだろうと
口の片方を歪めて嗤っているのだ
そうやって
また今夜も
許せない事実を片隅に置いて
知っていながら諦めたように
同じ部屋で眠るのだ
わたしの後悔の服を着て
追憶を齧るそいつは
どうにも収まらない胸のつかえを引き起こし
夢の中まで浸食してくる
恐ろしい破滅の夢
寒々とした一本道の夢
届かないことを知らされる夢
悪夢と許せない事実と
現実と果たせない自分と
結局はそういう事なのかも知れない
待っているのは私の方なのかも知れない




