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【詩集】果てしない扉  作者: につき
琥珀の横顔
50/100

本たちの踊り

たくさんの本が群れになって

呼び出されるのを待ちきれずに

天井近くから床近くまで

漂い出してきた


マンガや文庫やノベルズやハードカバーや

雑誌や写真集や辞書や図鑑や小さい子どものための本や

さまざまな紙の束が

躍り始めた


蛍光灯の白さに思いがけない光を浴びて

隅でいじけていた淀んだなにかも

浮かれ出してしまって

店員は呆れたような曖昧な笑顔で見ている


これは抵抗でも反乱でもなくて

無邪気な軽やかさであって

なんにも食べることのない本たちの

たった一つの楽しみ


誰かの手に取り読まれること

作者の思い考え感覚を誰かに伝えること

そんな地味でつまらないことに

あきてしまって


本たちは躍る

まったくことなる種類の本たちが

手を携えて

ステップを交わして

目と目を合わせて

何を語っているのだろう


もう書き手にも読み手にも

創造のつかないような

新しい物語が続々と語られている


やがて本たちは静まり

素知らぬ顔で書棚に並んで

誰かに手に取られるのを

待っているふりをしているけれど


あなたがそれを手に取れば

気をつけなさい

書かれている文字はそのままでも

読み終えた後には

なんだか踊り疲れたように

脚が棒になってしまうから


そうして

全く関係のない本のことが

大好きで仕方なくなっているから




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