本たちの踊り
たくさんの本が群れになって
呼び出されるのを待ちきれずに
天井近くから床近くまで
漂い出してきた
マンガや文庫やノベルズやハードカバーや
雑誌や写真集や辞書や図鑑や小さい子どものための本や
さまざまな紙の束が
躍り始めた
蛍光灯の白さに思いがけない光を浴びて
隅でいじけていた淀んだなにかも
浮かれ出してしまって
店員は呆れたような曖昧な笑顔で見ている
これは抵抗でも反乱でもなくて
無邪気な軽やかさであって
なんにも食べることのない本たちの
たった一つの楽しみ
誰かの手に取り読まれること
作者の思い考え感覚を誰かに伝えること
そんな地味でつまらないことに
あきてしまって
本たちは躍る
まったくことなる種類の本たちが
手を携えて
ステップを交わして
目と目を合わせて
何を語っているのだろう
もう書き手にも読み手にも
創造のつかないような
新しい物語が続々と語られている
やがて本たちは静まり
素知らぬ顔で書棚に並んで
誰かに手に取られるのを
待っているふりをしているけれど
あなたがそれを手に取れば
気をつけなさい
書かれている文字はそのままでも
読み終えた後には
なんだか踊り疲れたように
脚が棒になってしまうから
そうして
全く関係のない本のことが
大好きで仕方なくなっているから




