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虚しい言葉
巧な
あるいはいい
または爽やかな
映画や番組や動画は
印象はくっきりとしているだけに
どこかぼんやりとしていて
狙いを絞って切り取られた
または効果を狙った
写真の
ぐさりとくる
あるいはじんとくる
のとはまた違って
獣たちがテリトリーに
己の匂いをつけるように
音楽には込められた薫りがあって
出会ってしまった感傷の曲は
わたしのこころを
引っ掴み
または押し出してしまう
あるいはその輪郭をぼやかして
幻想の直截に染み入ってしまって
わたしは音楽を求めて
薫りを記憶してしまって
馥郁とした音の
流れて消えた後に残された
遺産を
わたしは
自分勝手に
受け継ごうとして
接近しようとして
遂に
接触を試みて
迫れば迫るほどに道に迷って
図らずも
巨大な六角の氷の柱に氷漬けになっている
姿も曖昧な己自身に出会ってしまって
止むに止まれず
またその周りを
ぐるぐると歩き回りながら
虚しい言葉を吐き続けている




