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「春の気配」「もうそこにあること」
「春の気配」
まだ山は笑っていないけれど
こころの中には春が流れてきた
山は今年も焼かれただろう
夜が明けたら黒い山が見える
吐く息はまだ白く
背中が痛むほど寒いのに
体内に満ちてきた気配に
鼓動は少しずつ速くなってきた
「もうそこにあること」
白い息の立ち昇る湖には
ヒレのある首長竜がいて
時々湖面から顔を出して
虹の泡を吐く
泡は弾けて霧になり
空想的な詩人に着想を与える
静かな柔らかい闇の中で
すっかり作曲は完成されている
流れていく波紋のような
漂う焼野の煙のような
きーんとした
冬の空の下でも
それはもうそこにある
春の歌は歌われることを待っている