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永遠の旅路  作者: 朔良
約束
8/24

会いたい

11 

 はっとして飛び起きる。

 

「ここっ」

 

 見慣れない部屋、隣にいないジュン。

 心臓がひやりとする。

 ふたつの違和感に軽くパニックを起こす。

 

「やだ、なんで…。…ああ、そうか」

 

 強く頭を振る。

 

 そう……そうだった。

 多少クリアになった頭で、自分の置かれている状況を思い起こす。

 …結局、睡魔に負けて眠ってしまったらしい。

 メイファがベッドに寝かせてくれたのか、いつの間にか毛布の中だ。

 サイドランプをつけて時計を確かめると、もう午前四時だった。

 四時間もベッドで眠れば休息は十分だ。

 ジープの助手席での八時間とは比べものにならない。

 

 …さすがにもうジュンの治療は終わってるだろうか。

 確かめようにも部屋にはだれもいない。

 少なくとも、あたしの感じることのできる気配はここにはない。

 メイファ…。あのむかつく美人のそれも。

 もっとも、彼女がその気になれば、あたしじゃ気配なんか読めないだろうけど。

 

 だれも、いない。

 

 突然。

 本当に唐突に、あたしは泣きたいほどジュンに会いたくなった。

 意識がなくてもいい。

 ジュンの顔を見て、無精髭に触って、その呼吸を……生きていることを確かめたい。

 そう思ったら、もう押さえられなかった。

 あたしは、よく眠ったのに奇妙な気だるさの残る身体をせき立て部屋を出た。

 ジュンの寝かされていた治療室を捜して、妙につるりとした印象の薄暗い廊下を足音を潜めて徘徊する。

 「部屋の外に出るな」と警告されたわけじゃないって、いくら自分にいいわけをしても、自然にびくびくびくしてしまう。

 助けてもらった恩人の地下施設の中を探るなんて、趣味のいいことじゃない。

 だから、見覚えのある銀色の扉を見つけたときはほっとした。

 きっと、あそこだ。

 

「あれ…? ちぇっ」

 

 思いっきり舌打ちする。

 苦労して重い扉を開けたのに、中にはだれもいなかった。

 整然と片付いていて、血の香りすらしない。

 まるでなにもなかったみたいに。

 

「ジュン、どこにつれてかれたんだろ」

 

 小さく呟いてみる。

 考えてみれば、治療と療養は別の部屋だってのは当然だ。

 なのに、なぜかわかんないけど、腹が立つ。

 あたしはジュンの顔を見たい、一緒にいたいだけなのに、どうしてこんなに邪魔が入るの?

 

「ふぅ…」

 

 ひとつため息をついて苛立ちを押さえつける。

 仕方ないよね、こっちは助けてくださいと縋った身だ。

 そうそう勝手ばっかり言うわけにはいかない。

 日が昇ってからフェイかメイファに頼めば、ジュンに会わせてくれるだろう。

 …戻るしかないか。

 諦めて踝を返す。

 

 途中で、細い明かりが漏れている部屋に気づいた。

 行きは見覚えのある扉を探すのに夢中でわからなかった。

 ……もしかして。

 甘すぎる期待を胸に、足音を忍ばせて近づく。

 こっそり中を覗いてみる。

 ジュンにバレたらきっと、行儀が悪いと叱られるに違いない。

 

 まず最初に、緋色のチャイナ服が見えた。

 抜群のスタイル、燃えるような赤毛のベリーショート。

 後姿でもわかる。

 簡素な部屋に設えられたベッドの傍らに立つチャイナ服の女性は、間違いなくメイファだ。あんな綺麗な赤毛はそうそうない。

 ってことはあそこに寝てるのってやっぱり…。

 声をかけるかどうか迷っていると、メイファと思しき女は、しなやかな動きで身体を折り、ベッドに顔を寄せた。

 眠っている相手に口づけしているようにも見える。

 

 そんなの、やだっ。

 

 立場も忘れてドアに手を掛けようとした瞬間、メイファがはっとして顔を上げ、ベッドの側から身を引いた。

 

 まずい! 気付かれたっ!


 一瞬ひやりとしたが、そうではなかった。

 

「……メイ、ファ?」

 

 いぶかしむ調子の掠れ声。

 

 ビンゴ!!

 ジュンだとわかった途端、身体がカッと熱くなり、心臓が普段の倍の早さでリズムを刻み始める。

 さっさとドアをノックすればよかった。

 とん、と凭れるように右肩を壁につける。

 出ていくタイミングを逃したあたしは、凭れたまま覗き見を続けた。

 よくないことだと思いつつも、好奇心を押さえられなかった。



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