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永遠の旅路  作者: 朔良
最後の場所
20/24

スローモーション

 

「マーガレット」

 

 ジュンと睨み合ったままパパ。

 

「よくやった。さすがは私の娘だ。……生きていたんだね、可愛いお前が無事でよかった」

「…パパ」

「私を恨んでいるのかい? ずっと案じていたんだよ。忘れたことはなかった。しかし、五年前の傷は深く、私はほとんど死にかけた。記憶にも障害が残った。だから大事なお前を捜すこともせず諦めてしまったんだ。すまなかった。……許してくれるね?」

 

 あまりに穏やかな。

 幼児に言い聞かせるような優しい口調。

 それが、小さい頃の記憶を呼び覚ます。

 大好きなパパの記憶を。

 

「…パパを恨んだことなんかないよ」

「お前は優しい娘だ。さ、持っている銃でその男を殺しておしまい。パパを助けてくれ」

「お願い。殺し合いなんて止めようパパ。ジュンは今まであたしを育ててくれたんだよ!」

「お前も騙されているんだ、マーガレット。ヤブキは五年前私を撃ち、マリアを殺した。そして今また私を殺そうとしているんだよ」

「…ママを撃ったのはパパだ」

「誤解だよ、マーガレット。そんなはずがないだろう。」

「違う。あたしは五年前見た」

 

 それが、あたしの記憶の混乱と喪失の元凶。

 

 優しいパパが大好きなママを撃つ。

 その、信じられない出来事を消し去るために、あたしはその場で昏倒し、それを忘れた。

 覚えていては生きていけなかっただろう。

 忘れていてさえ、ジュンと旅を始めてから半年の間、あたしは言葉も失い、悪夢に苦しみ続けた。

 普段、ママに比べてパパのことが意識に上らなかったのも、無意識に制御してたからに違いない。

 

「……嘘はついてない。確かに私はマリアを撃った。ママは悪い女だったからね。だが、殺したのはヤブキだ」

「嘘だ!!」

 

 否定が欲しくて、ジュンの顔を見る。

 なのに、ジュンはなにも言わない。

 そのあまりにも苦い表情…。

 

「……嘘」

「その男のおかげですべて台無しだ。せっかくRプランの全貌を餌にルキーノに取り入り、アダチを抹殺したというのに。

 だが、ヤブキがいなければ、まだやり直すことができる。アダチの権力を継ぐのはあの女のはずだ。あの女には貸しがある…。

 さあ、マーガレット、ヤブキを撃つんだ。パパと一緒に行こう。パパを助けておくれ、可愛い娘よ」

 

 あたしが、ジュンを?

 

「できない……。できないよ!!」

「マーガレット! 早くするんだ!」

 

 ぶんぶんと首を振る。

 だって、そんなこと、できるはずが!

 

 突然、背後でカタっと小さな物音がした。

 

 一瞬の間隙。

 それが張り詰めていた緊迫と均衡を破る。

 

 双方が動いた。

 パパはジュンを、ジュンは思わぬ方向……あたしを狙って!?

 

 いやだっ!

 

 考えるより先に身体が動いた。

 

「やめてっ!」

 

 両手を広げてパパの前に踊り出る。

 

 やめて! ジュンを殺さないで!

 それ以外は何も考えられなかった。

 

 ジュンのM92とパパのパイソンが同時に火を吹く。

 

 錯綜する銃声。

 

 ジュンを狙った.357マグナム弾があたしの左腕を掠める。

 焼けるような痛み。

 着弾の衝撃で吹き飛ばされ、そのまま倒れ込む。

 

 廊下の方で女の呻き声が聞こえた。

 痛みを堪えてそちらを見ると、メイファが立っていた。

 銃を握っていたはずの右手から血が滴っている。

 

 メイファが殺そうとしていたのはあたしなのか。

 だからジュンは。

 

 再び銃声。

 

 相手が構える暇を与えず、ジュンは走りながらパパを撃った。

 

 パパが倒れていく…。

 そのスローモーションの光景が、薄れていく意識の中で網膜に深く焼きついた。


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