依頼
メイファは我が意を得たりって表情で首を振り、
「いいえ、他の方法ではダメ。フェイに会うつもりならね。フェイは今、グレート・マザーのトップ、ルキーノの屋敷に軟禁されてるわ。晩餐に招かれた帰路に消息を絶ったの。それっきり連絡もない。グレート・マザー側はフェイが迎えの自動車に乗ったと言い、目撃者もいるけど、信用できないわ。目撃者なんかいくらでも用意できるもの。……フェイを救出したいの。手伝ってちょうだい」
「それだけじゃないだろう」
「ええ、もちろん。ルキーノには消えてもらうつもり」
艶やかな、でも凄みのある笑みを浮かべ、メイファ。
「グレート・マザーには最近また不穏な動きがあるの。それでなくとも、ボスがうずうずしてたし、この際認めることにしたのよ。攻撃は最大の防御って言うでしょ? グレート・マザーとペルソナには因縁が多すぎる……。そろそろ決着をつけるべきだわ。もちろん、ペルソナには傷の残らない方法でね。これ以上“昏い夢”の幹部に警告を受けるのはもうたくさんよ。
その方法を検討している時に、フェイがこの街に滞在しているのはあなたに会うためだって情報が入ったの。私がどんなに喜んだかわかる? ヤブキの力が借りられれば安心だもの。
……ヤブキにとっても悪い話じゃないはずよ。終わらせたいのはあなたも同じでしょう?」
「アダチが…」
「この件に関しては私に全権が任されてるの。もちろん、意向は確かめたわ、あなたのことも。この件がクリアできたら、ペルソナへの復帰も認めるそうよ。
ふふ。……あなたにその気がないなんて考えもしないあたりがボスらしいでしょ? わかってる。私はビジネスだとしか考えてないわ。」
もう一度自分の前の椅子を手のひらで示すと、
「……お嬢ちゃんには別室を用意するわ。子どもには参加させたくない話でしょう」
やだ。冗談じゃない!!
そう口にする前に、ジュンが、
「必要ない」
「そう?」
「断る。いくらなんでも、フェイに危害を加えるほどルキーノは愚かじゃない。時がたてばフェイは帰ってくる。“昏い夢”の内部の軋轢は、俺には関係ないことだ。フェイがいないのなら、俺たちは帰らせてもらう」
決然と言い、ジュンはメイファに背を向けた。
「……Rプランが絡んでいても?」
その言葉でジュンが足を止めた。
ジュンが振り向いた隙に、いつの間にか背後に忍び寄っていた黒服の男に腕をつかまれる。
「やだ、放せっ」
「触るな」
すらりとジュンが動き、あたしをつかんだ黒服の手を払った。
「彼が生きてたわ」
メイファのその一言が、ジュンの意識を釘付けにしたのが、あたしにもはっきりわかった。
ジュンは完全に動きを止め、メイファの顔を凝視している。
「……どういうことだ」
「聞こえたでしょ? イレイザープロジェクトは失敗だったってことよ。…だって死んでいるはずの人間がふたりも生きているんですもの」
いきなり口をふさがれる。
ジュンっ!
男の筋肉質な腕で強引にジュンから引き離されたあたしは、口を覆う掌に思い切り噛みついた。
「このガキっ」
「ジュン!!」
呼んでるのに、聞こえないはずないのに、ジュンは微動だにしない。
凝然とメイファ……いや中空の何かを見つめている。
なんで?
すっと身体が冷たくなる。
「大切なお客様よ。丁重になさい」
メイファは男たちを鋭く叱咤し、
「ごめんなさいね、お嬢ちゃん。これからは大人のビジネスの話なの。お部屋で休んでおいてちょうだい」
「ふざけんなっ」
歯ぎしりする。
「再見」
メイファの目顔の指示に応え、男は小猫でも摘むように軽々とあたしを持ち上げた。
「くそっ、放せってばっ」
目茶苦茶に暴れる。
でも、踵で蹴っても、肘を入れても、男には堪えた様子がない。
足場がなくて不安定だから力が入らないとは言え、化け物か機械並みの反応だ。
結局あたしは、もう一度ジュンを呼ぶこともできないまま、部屋から連れ出された。




