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永遠の旅路  作者: 朔良
約束
11/24

夜明けの光 1

13

 錆び臭いフェンスに背中を預けてうつむいていたあたしは、最初の光を感じたような気がしてゆっくりと顔を上げた。

 遠い朝の太陽に目を細める。

 唯一の幸い。

 どんな時にもどんな場所にも、太陽だけは平等に昇る。 

 あたしは、二十階建のビルの屋上で、玩具みたいな街並みの遠くから少しずつ姿を現し始めた太陽を、じっと見つめた。

 いつもの元気を取り戻すための儀式。

 だけど一向に気分は晴れない。

 

 …せっかく上ったんだけどな。

 ビルの屋上に忍び込むのはそう難しくはない。警備員の目を盗んで非常階段に飛びつけば簡単だ。

 どこも、オフィスの中ならまだしも、外に対する警戒はかなりずさんだ。

 鍵だって、ジュンにレクチャーを受けたから、ちゃちなものならすぐに開けられる。

 非常階段を屋上まで足で上るのは少々骨だけど。

 

 無性に高い場所に上りたくなるときがある。

 なるべく空に近いところに。

 そこに神様なんかいやしないってわかってても。

 

「……はぁ」

 

 思わずため息が漏れる。


 ……元気になるはずないか。

 だって、悪いことだらけだ。

 みっともなくも立ち聞きなんかして、罰が当たったみたいに知らないでいいこと聞いて、情けなくも見つかって逃げ出して、ジュンの怪我は全部あたしのせいで、しかも、行くところまでない。

 自業自得過ぎて、涙も出やしない。


 目を細めて、ミニチュアみたいな街並みを見下ろす。

 昨日はたった三階から飛び降りるのを怖がったあたしなのに、今は二十階から見下ろす遥かな地上が近く恋しく見える。

 そこまでは、きっと一瞬だ。

 

「ここにいたのか……」

 

 背後から聞こえた思いもかけない声に驚き、あたしは慌てて立ち上がった。

 途端に身体がぐらりと揺れ、錆びたフェンスをつかむ。

 

 どうして……。

 

「こっちにおいで」

 

 突然現れたジュンに動揺して声も出ず、あたしはぶんぶんと首を振った。

 

「そこは危ない」

 

 わかってる。

 屋上のフェンスを乗り越えた狭い空間。

 目眩でも起こせば、あっという間に地上に墜落する。

 

「来るな。来ちゃダメ!!」

 

 近づいてくるジュンを制止する。

 

「なんで、ここがわかったの」

「……もぐり込みやすい高層ビルを教えてもらった」

「ごめん、怪我してるのに捜させたりして」

 

 端正な顔には微塵の苦痛も浮かんでいないが、ジュンの顔色ははっきり悪い。

 包帯に滲んだ朱は、きっと傷口が開いたせいだ。

 結局ジュンに無理させてしまっていることが辛く苦しい。

 

「帰るんだ、メグ。こっちへおいで」

「できない」

 

 強く首を振り、あたしは大きく息を吸ってから懺悔した。

 

「あたし……、ジュンの携帯に触ったの。ごめん」

「いいんだ」

「怪我だって、あたしがすくんで動けなかったせいだ」

「そうじゃない」

「ううん、全部あたしが悪い! あたし…これ以上ジュンに迷惑かけたくないよ。でも、行く場所がないんだ、どこにも…。どうしたらいいかわかなくて、だから…」

 

 いや、本当は違う。

 迷惑をかけたくないっていうのは本心だけど、行く場所がないって言うのは嘘だ。

 行く場所なら、きっといくらでも見つかる。

 むしろ喜んでジュンはあたしを預ける場所を探すことだろう。

 ただ、あたしがジュンから離れられないだけだ。

 あたしの居場所は、ジュンの隣しかない。

 ジュンのいないところに行くのなんか、想像するのもいやだった。

 

 傍にいて、またジュンを傷つけるくらいなら…。

 そして、ジュンと離れるくらいなら…。


 無意識に、遥か彼方の地上を見る。


「何を考えてる?、やめるんだ、メグ」


 ジュンが声を荒げた。

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