男子バスケ部とファンクラブ
第3体育館前
「遅いわよ、吉岡」
「う、うるせーぞ、棗。こちとら、げほっ、本校舎の屋上から、全速力で来たって、いうのによ」
息を切らせ肩で息をする吉岡に私はほんの少しの罪悪感を感じた。
「うっ、そこは、ゴメン」
「・・・反省してんならいいよ。ま、早く取材終わらせようぜ」
「うん」
「すみませーん、新聞部です。通してくださーい」
「甘夏通信の取材です、ご協力お願いします」
私と吉岡でそう声を上げれば体育館の入口を塞いでいたバスケ部のファンクラブ(男女共通)の会員の皆さまは脇に避け道を開けてくれた。
その様子はまさしくモーゼが海を割ったようであった。それにしてもうちの学校のファンクラブは素晴らしい、一部以外。
佐藤のファンクラブは本当に嫌いなのよね、取材申し込みは事前にしてあるのに邪魔はしてくる。廊下に溜まり他の人の通行の邪魔になるし、佐藤が何か行動するとキャーキャー言って授業の邪魔よ!!
「棗、戻って来い」
ごめんなさい、吉岡。彼の一言で私は現実に戻ってきた。
私もファンクラブに入っているけれど、本来、私はアンチなのよね。
「わかった、わかった。取材が始まるまでに気分を落ち着かせろよ?もうすぐ休憩になるから」
頭を撫でるな。そんなことで私は幼子ではないのです!
「こんにちは、新聞部です」
「ん?あ、天城と吉岡じゃん。取材?」
「はい、レギュラーの確認をしたいのですが」
「お、情報早いなー。山橋たちは舞台前にいるからいってきな」
「ありがとうございます」
休憩に入ったところで男バスの先輩に声をかければレギュラーたちのいる場所を教えてもらえた。
我が新聞部は学校内のこと記事にする甘夏通信の他に部活動関連の記事を載せる号外を発行している。載せる記事は主に大会の勝敗や各運動部のレギュラー情報や文化部のお知らせ、部活動中に事故が起これば注意を呼びかけるものなど、多種多様である。
そのため大抵の部は協力してくれるのです。
それはさておき、隣のコートで活動中の女バスの皆さまからかけられる声に返事をしながら舞台の前にやってまいりました。
「こんにちは、山橋部長。レギュラーが決まったとの情報があったため、確認をしにきました」
相変わらずレギュラーたちの背は高いなー、などを考えながら男バスの部長、山橋満先輩に挨拶をする。
「棗がきたのか。どうせ新しくレギュラーになった転入生を今月の目玉にするため号外のついでに取材に来たんだろう」
ギクッ、バレてる。流石は校内一鋭い男、厄介です。
「いいじゃねぇか、満。それよりあまなっちゃん、俺に挨拶は?」
「大和先輩、いい加減“”あまなっちゃん“”って呼ぶの止めてください。だから彼女出来ないんですよ」
副部長である大和零一先輩の言葉は私を苛立たせるだけであった。自分のあだ名を呼んだ先輩に冷たくそう言えば「あまなっちゃんが反抗期に入った、だと!?どうしよう、満!!」と山橋部長に泣きついた。
「山橋部長、レギュラーは」
無視!と叫ぶ大和先輩を剥がした部長は撮影と取材のためにレギュラーを並べてくださった、流石です。そして泣き真似をしながら部長の横に並ぶ先輩、またレギュラーだったんですね。
私が一人一言ずつコメントをいただきながら吉岡が写真を撮っていく。
「2年、門崎太陽」
「あの、それだ「それだけだ」・・・そうですか」
最後となった転入生の言葉はそれだけだった、何か言いましょうよ。てか、山橋部長よりも無愛想な人がいましたね。