花火大会の埋め合わせ パート涼花
今日は日曜日、今は朝の6時30分 何故俺がこんな早く起きているかというと昨日の一件のせいだ。
「・・・」心結にはメールや電話を行ったが返信もなく、通話も遮断されている。
「くそ・・」妙な目覚めだ、昨日とは違う微妙に居心地の悪い感覚。
「・・・まぁ、気にしても意味ないか」どうせ明日には学校で顔を合わせるのだから。
俺は自室で私服へと着替え、階下のキッチンで朝ごはんを作る、母さんと愛華はまだ起きてこない。
「いただきます」俺は某美食屋のように律儀に手を合わせて朝食を食べた。
食べ終わって数分すると俺のケータイからメール着信時の音楽が鳴る。
「えーっと・・なになに」『今日は映画館に行きますからね?チケットはそっち持ちでよろです、映画名はぁー・・・『マスモン劇場版、筋肉の化身マスルー』です、昭栄映画館前で会いましょう♡』最悪なメールだった。
「この暑苦しい時期に何が悲しくて女子とマッスル映画見なきゃなんねぇんだよ・・・」マスモンとはマッスルモンスターの略で、任●堂がゲームとして売り出すほどに人気だ。
出てくるマスモンは大体可愛らしい風貌なのだが、技使用時のみマッチョ化するという意味のない設定が売りだ。
「面倒・・・」集合時刻は10時、今は8時なので結構余裕がある。
「はぁ・・・」溜息がこの頃多くなった気がする、幸せ逃げてるのかな・・・。
「お待たせしましたぁ!」俺が昭栄映画館前でチケットを買って待っていると、私服姿の涼花が現れた。
薄黄と紺の混じったミニスカと黒の柄入りティーシャツという大会当日のようなラフスタイルだった。
「ほらよ」「どうもです」チケットを受け取り、俺と映画館入口へと入室する。
「ごゆっくりどうぞ」チケットを渡すと売り文句であるその言葉を言われ、館内へ。
中は案外広く、席は500程度、スクリーンは車が横に7台、縦に8台位の広さだ 簡単に言うと超広い。
俺と涼花は中央列のど真ん中へと座った、勿論相席だ 暑苦しいったらありゃしない。
満員御礼、とまでは言わないが5分の4位は席が埋まっている、クーラーが無ければ乾いて消え果てているところだ。
「楽しみですね」「・・・そうか?」不審気な瞳で俺は涼花を見るが、涼花の瞳はキラキラと輝いていた。
ブー!というブザー音が聞こえて館内は静寂に包まれる。
映画直前の他作の番宣が行われる中、涼花は必死に折りたたみ式の携帯ゲーム機をピコピコいじっている。
「何してんの?」「映画館限定のマスルーを入手しているんです」カチカチと静かな館内に響くボタン音。
恥ずかしいな・・・とか思ってたらその直後に館内はボタン音で埋め尽くされた。
「え・・なにこれ、皆やってるの?」「勿論ですとも、大人気ですよ、マッスルモンスター背筋・腹筋シリーズ」「ぜってぇ売れてないと思う」どんなシリーズだ、背筋と腹筋とか有名な筋肉挙げただけじゃねぇか。
けどマスルーは案外愛らしかった、小柄な体でハリネズミみたいな格好のキャラ。
「映画館内特別の必殺技『脳天砕き』は威力150ですからねっ!」「その技のせいでキャラ崩壊が起きる」あの愛らしいハリネズミがムッキムキになって相手の脳天にハンマーパンチ繰り出すとか、想像したくないわ。
そんな感じで久々の映画はグダグダな状態で始まった、できればもう少し面白いのを見たかった。
「いやー、面白かったですね?」「ごめん、主人公の名前から既に分からなかった」サトルとヒカルとタケルというル三人組によるマスモンバトルと少し感動シーンのある面白い映画だった、と涼花は語っている。
「そうだねー」俺は適当に流しつつキョロキョロと周囲を見回す。
「何してるんです?」「いや・・腹減っただろ」上映時間は2時間程だったので今は昼の12時。
「あそこ寄りましょ、マクゴナルド」「・・・・」某メガネ少年の魔法映画の女性教師と某バーガー店の名前がかぶりまくってるパクリバーガーショップ。
「そ・・そだな」だが近場に昼飯を食べれそうな店はなかった、あるとしたら高級料亭みたいなところ。
マクゴナルドではハンバーガー2つとコーラを1つ注文した、涼花はバーガー1つとポテトのSを一つ注文した。
「ふう」「お腹いっぱいです・・・」幸せそうに目をトローンとさせる涼花、相当楽しかったんだな。
「今日はもう帰るか?」「いえー・・どうせですから少し寄りたい場所が」「どこだ?」「すぐそこのスーパーのゲームコーナーなんですけどね」「ゲーム好きだなお前」マクゴナルドの目の前にあるのは有名チェーンのスーパーだった。
「行きましょ♫」「はいはい」俺は涼花と共にスーパーへと出かけていった。
「ここですぅ!」着いた場所はゲームコーナー、とかいっときながら結構な広さだ。
見回す限りゲーム、というゲーマーには死ぬほど嬉しい状況なこのコーナー。
クレーンゲームやパチンコ、某太鼓ゲームやガチャガチャ・・・と子供心をくすぐるゲームばかりだ。
「これやりますー!」手始めにクレーンゲームから開始し始めた涼花。
「次はこれー」パチンコ、某太鼓ゲーム、どんどんゲームを制圧していく涼花。
数十分後には最低限のコストで全機種を回り終えて満足している涼花がいた、手には袋が二つ。
クレーンゲームでフィギュアを3つ程、それも各100円ずつで手に入れ、お菓子等もかなりの数手に入れている。
「すげぇなお前」「伊達に2年も通ってませんよ」「2年間通ったんだ」何かかっこよさそうでカッコ悪い。
「あ・・それと」そう言って俺は涼花に手を引かれてある機械の前へ連れて行かれる。
「プリクラ、撮りません?」目の前には垂れ幕のような布、その奥にはプリクラが存在する。
「まぁ・・いいけど」俺は涼花と共にプリクラを撮るために中へと入った。
「これでいいですか?」写真は一般的なやつ、目を大きくとか何か色々オプションがあるらしいがハッキリ言おう、いらない。
「いきまーす」その後3秒ほどするとパシャっとカメラのライトみたいなのが焚かれた。
格好は涼花が俺の目の前で中腰になりながら片目ウィンクでピース、俺は無愛想な顔で仁王立ち。
「あーん・・、秋良さん もう少しニコニコしましょーよ」「ごめん、俺そういうの苦手でな」カメラとか集合写真とかそういうのはもっぱら苦手だ、愛想笑い浮かべてウフフアハハしてる自分を想像すると怖い。
「まー・・いいかなぁ」そのプリクラを半分俺によこして、もう半分をバッグへしまい込む涼花。
「これでいいか?」「ええ、満足しました」涼花がニコっと微笑む、その微笑みに俺は一瞬ドキっとするが すぐに冷静な表情で取り繕ってスーパーを出た。
「今日はありがとうございました」「いやいや、俺が元はといえば悪いからな」律儀に礼をする涼花はとても清楚で可愛らしい、趣味が筋肉フェチじゃなきゃの話しだが。
「んじゃー・・お礼に」「ん?」チュ と俺の頬にくちづけをする涼花。
「お・・おまっ!」「それじゃまた明日、秋良さん」悪戯する時のように目を細めて笑う涼花はその後すぐいなくなってしまった。
「なんだってんだ・・・」やっぱり俺の日常は壊れかけている、何か得体の知れないものによって!
「まぁ・・・何だ、あれは完璧悪戯、唇同士じゃないから許容範囲内だ、うん」涼花の一件はそれほど気にしなくてもいいだろう、けどまだ顔が赤く火照っている くそ・・・恥ずかしい。
「心結は・・・やっぱり」本当なのかも知れない・・・と思った瞬間頭を振って思考を遮断。
「そんなわけない、まずは家へ帰ろう」涼花のせいで妙な事を思い出してしまった、くそ・・悪戯にしても度が過ぎるぞ・・・。