花火大会の埋め合わせ パート麗香
翌日、土曜日。
今日は、花火大会の埋め合わせ(麗香のために)の約束の日だ。
あの極限(今後一切ない事を願う)の死闘から早一週間が立った、長いような短いような微妙な感覚で。
「・・・・」この頃、涼花と話してない事に気づく。
「・・・大丈夫だよな?」俺は通信処理がどうたらで、回収されていた携帯を開く。
「なんじゃこりゃ!!」メールボックスに100通近い件数のメール。
「・・・全部涼花からじゃねぇか・・」冷や汗が頬を伝う、今なぜ携帯を開いたかというと麗香と連絡を取るためだ。
「え・・あ・・え・・」俺はともかく一番真新しいメールの中身を見てみる。
『件名:愛する秋良さんへ。 こんなにメールしてるのに返信しないなんて最低ですね、本当に最低ですね、まったくもってけしからん、というわけで私は画策させてもらいます、土曜日、覚悟してくださいね☆』
「・・・・」俺は携帯で曜日を確認する、土曜日
「・・・」愛華に曜日を確認する、土曜日
「・・」ニュースキャスターの声から曜日を確認する、土曜日
「・」麗香との約束の曜日を思い出す、土曜日
「今日じゃねぇかあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」そして叫ぶ。
「うっさいなぁ!」「痛いっ!」俺が叫ぶと同時にハイキックを繰り出す愛華。
「さっさと行ってきなよ、麗香さんと」不機嫌に頬を膨らませつつ、出発を促す愛華。
「あ・・ああ、そうだな」俺は麗香に連絡を取らないまま、最初の予定地へと向かった。
夏、太陽の光が煌々と地表を照らしつけ、アスファルトからはボンヤリと陽炎が浮かび上がる。
そんな中に、暑さを感じさせない涼しげな人物がひとりいる。
柏木麗香だ。
夏日だというのにキャスケットを被り、薄めのワンピースを着る麗香は、妖精のようにも見える。
「秋良、遅いな・・」ポツリと呟く、一応約束時間までは後5分あるのだが。
「・・・あれ?」背後に視線を感じて麗香は振り向く が、そこには誰もいない。
「気のせいかな?」「おーい」その時だった、桜田秋良が駆けつけてくるのは。
「あ、秋良!」「悪い悪い、少し遅れたかな」「ううん、大丈夫だよ」にこやかに麗香は告げた。
「んじゃ、行きますか」「うんっ」二人は並んで歩き出した。
「心結さん、ちゃんと予定場所は分かってますよね?」「勿論」一方、麗香を見つめていた影の人物達。
「まったく、秋良さんが私を放置プレイで弄ぶのが悪いんです」「すごい不健全なワードが飛び出たね」ボケ専門の涼花と、ツッコミ専門の心結がタッグを組んで、麗香達を追う。
「(女子の裸体を見ておいて、次は放置プレイですか、不健全なのは秋良さんじゃないですか、あぁ・・けど筋肉は最高ですね・・・)」憤怒と恍惚の混じった、気持ち悪い顔を浮かべつつ涼花は考える。
「あ・・動いた」「むっ! 早速追いかけましょう」彼女らは建物の影に隠れつつ、麗香・秋良ペアを追いかける。
「で・・今日はどこ行くんだっけ」俺は質問を投げかけた。
「今日はね、少しショッピング、その後ランチを取ったら、海水浴にでも・・・」丸一日俺は付き合わされるのか、まぁ、今に始まった事じゃないが。
「海水浴? 俺海パン持ってきてねぇけど・・・」「貸出してると思うよっ」麗香は焦り始めた、なんだろう、すごく嫌な予感がする。
「そ・・そっか」俺は二度目の冷や汗をかきつつ、麗香と目的の場所へと向かった。
そこは約束予定地から徒歩で10分程の場所、案外軽い道のりに見えるが、炎天下の中じゃ結構きつい。
だから、俺と麗香は洋服専門店であるし●むらに入ると、ホっと一息ついた。
「涼しいぃ・・・」「はぁ~・・・」二人して店内のひんやりした温度に安堵する、もしクーラー効いてなかったらどうしようかと思った。
「で・・・何をご所望なんでしょうか、お高いものはダメですよ」俺は執事口調で麗香に忠告しておく。
「あ・・別にそんな高価なものを買うつもりはないの、カジュアルな、お出かけの際に便利な私服を一着か二着買おうかなって・・」「あ・・・そうなんだ」俺と麗香は会話しつつ店内を周る。
女子用の洋服売り場あたりまで来ると、やはり男性客は少ない、カップルや夫婦ばかりだ。
「この組み合わせも・・・」麗香は入念に上下の組み合わせを考えながら、絞りに絞っている。
スカートとティーシャツ、デニムと薄めの長袖、ハーフズボンとV字襟の半袖・・・と、ともかく二着の組み合わせを練っている。
試着はせず、脳内構想だけで決めているらしく、その場でうんうんと唸っている姿はよく見かける女子の姿そのものだ。
「決まったか?」それから2時間、じっくりと考え込んだらしい麗香は二着の服を持っていた。
「はいっ」俺には良くわからない種類の服を両手にもって、満面の笑みを浮かべている。
「よし、会計だな」俺は若干ビクビクしながらレジへ。
「合計で3000円となります」「お?」あれ、安い・・・のかな?
俺は野口さんを三枚出して、会計を終わらせる。
「少し時間かかっちゃったね、昼食でも取ろっか」服の入った紙袋を片手に持ちつつ麗香は振り向きざまにそういった。
その振り向く姿がやけに可愛くて、俺は少し見とれてしまう。
「・・どうしたの?」「あ、悪い・・昼食だっけ」俺はだらし無い顔をシャキっとさせて、路線に戻る。
「心結さん」「なによ涼花」一方し●むらの店内からずっと追い掛け回していた二人組。
「昼食だそうですよ、私たちもとりませんか」「そーねぇ、お腹空いたし、そうしましょ」「(ククク、計☆画☆通☆り)」涼花は内心でニタリと笑いつつ、心結と足取り軽く、秋良・麗香ペアと同じお店へ。
「(作戦パート1、『店内でバッタリ会っちゃった、テヘ☆』始動ですっ!!!)」涼花がだけが知る真実に心結は気づかず、操られるがままに飲食店へ。
そこで起きる、偶然による偶然の為の偶然な出来事が、波乱を呼ぶ。