家に帰ると・・・!
その日は夕飯を心結の家で食べた。
愛華と母さんには事前連絡をしておいたので安心だろう。
心結はというと、お粥を食べるとまた自室へ戻っていった、当然ながら俺も連れて行かれた。
心結は俺の腕を抱きしめるように持ち、そのまま静かに眠りに落ちた。
「ったく、これだから困るんだよ・・・」あどけない表情ですーすーと寝息を立てる心結は綺麗というより可愛い感じだ。
「さて・・俺もそろそろ」いつまでも眠っている女子の部屋に居ると色々と後々ヤバそうなので早めに退室。
「むにゃ・・・待ってよぉ・・」「んあ?」一瞬本気で起きてるかと思ったが瞼は閉じられたまま、やはり寝息を立てている。
「心臓に悪い寝言いいやがって」適当に毒づくと、俺は静かに立ち上がった、抱きしめていた俺の腕の代わりにヌイグルミを挟めておく。
「早くよくなれよ」俺は寝ている心結にそう告げて自分の家へと帰宅した。
そしてそこには修羅が沢山いた。
「秋良さんは夕飯を心結さんのお家で頂いたと」静かに淡々と語るのは涼花だ。
「秋良はそんな淫らな男の子だったのっ?」身を乗り出して顔を赤くして問うのは麗香
「兄ちゃんの女ったらし!」怒声と罵声を交えながらクロスチョップを繰り出す愛華。
「え・・・何で俺の家に集結してるんすか?」呆けた顔で俺は愛華のクロスチョップを止めながら問う。
「むきいいい!」無理やりにでも食らわそうと頑張る愛華は足をジタバタ、だがテーブルの角にガンとぶつけると静かになった。
「お母さんにも・・・ぶたれたことないのに・・・」「今のはお前のミスだろっ!?」俺に責任擦り付けるな!
「愛華さんから聞きましたよ」「愛華ちゃんが『兄ちゃんが心結さんと一線を超えたぁ!』って騒いだ時は心臓が止まったあとに再稼働した感覚に陥りましたよ」「え・・結局心臓動いてんじゃん」ってか愛華の野郎、文面だけ見ればタダの変態じゃねーかよ俺。
「愛華・・・!」「に・・兄ちゃんが悪いもん!」「何がだ!見舞いに行ったのをどう間違えればアッチ方向に捉えられるんだ!メールでもそう書いたろ!」俺の送信履歴を見ると、件名「心結の家で飯を食うことになった」というメール。
「愛華さん?」「愛華ちゃん、どういうこと?」修羅は偽修羅に問いかかる、やっぱ怖えわ。
「あ・・・ああ・・・」愛華は固まった、直後麗香と涼花のくすぐり攻撃が始まった。
愛華の弱点その一、くすぐり攻撃。
アイツはめっぽう弱い。
「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!!」奇っ怪な笑い声を上げながら転げまわろうとする愛華、それを涼花が押え付ける。
「い・・いやぁっ!や・・やめ・・あはは!ちょっ・・!そこ・・・らめぇ!」文面だけ見ればタダの変態行為です、読者様、お願い最後まで見てください。
それから数十秒、愛華くすぐり攻撃が続いた、何かこう色っぽい声に少しドギマギしながら俺は冷静に構えていた。
「気が晴れたか?」「ええ」「勿論ですよ」「きゃ・・ははぁ・・いひっ」まだ少し痙攣気味な愛華のおでこにデコピンを繰り出し、痛みによる笑いの回避を試みる。
「あぁぁぁぁ・・・トイレ行ってくるぅ」どうやら笑いすぎてダムが決壊しそうになったらしい。
「やりすぎたかも・・」「ちょっと反省です」「いや、気にしなくていいぞ」今回の悪は完璧に愛華だ。
愛華が少し汗をかきながら頬を上気させて色っぽい声を上げていた事で少し憂さ晴らしができた。
「変態か、俺は」「「?」」俺の独り言に首を傾げる二人。
「あ・・いや、別に何でもねぇ」「そうですか?」涼花が人差し指をあごに当てて思案する。
「ってか、そろそろ帰ったら?親御さん心配すんだろ」それも男子の家に居たら余計にだ。
「あー・・面倒だから今日泊まりますね」「はぁっ!?」意味不明、理解不能、思考停止。
「私も泊まろっかなぁー」「いや待てコラ!」「何かダメな事でも?」「ダメな事しかないわ!」今自然に帰る雰囲気を醸し出したのにちゃっかりスルーして最悪な展開に持っていこうとすんなや!
「今日親どっちも出張ってて居ませんし」と涼花、 「昨日から結婚30年で旅行だもの」と麗香。
「いんじゃない?兄ちゃんが変なことしなきゃ」とトイレから帰ってきた愛華。
・・・これが女の連帯感なのか、困るね・・・。
少し口ずさみそうになりながら俺は意識を集中させる、ダメだ 自我崩壊を起こせば甘んじてこの状況を受け入れてしまう。
「・・・・そ・・そうだ、俺の母さんが・・」「何言ってんの?今日から明後日まで帰らないって」「あああああああああああ!聞こえなぁぁぁぁぁぁい!!」愛華め、忌まわしい奴! 俺がじっくり考えた策を一瞬で粉々にしやがって。
「とゆーわけで」ニヤっと笑う涼花、何故か悪巧みした時の笑顔がアイツには一番似合う。
「お泊まり会だぁぁ!」「「ひゃっほーう」」「愛華まで喜んでどうすんだよ!?」もう、止まらない。
「あ・・そ・・そうだ!飯、飯はどうしたんだ!」「食べてきましたけど」と涼花、背後では「うんうん」と二人も頷いている。
「あー・・戸締りとか確認すべきじゃー・・」「秋良さんじゃないんですから」「え!?俺そんな無用心?!」「ある意味で」「「うんうん」」「何なのお前ら、頷くだけじゃなくて会話に参加しろよ!」コクコクと頷くのが彼女らの定位置になりかけている。
俺は泣きそうになりながら最後の抵抗を見せた。
「もし・・もし・・・、俺が襲ってきたら?」「「「大歓迎っ!」」」「いやあああああああああああああああ!」最悪な打ち壊され方だ、今心にビキリと嫌な音がした、ってか絶対本心じゃねぇだろ、それと愛華には絶対襲いかからねぇよ 妹だもんさ。
「・・・もう、好きにして」半べそになりながら俺は声を絞り出した。
「お風呂っ♫お風呂♫」「お風呂って広い?」「そこそこかなー、5人くらいなら一辺に入れるよ」「「広っ!」」
「ってちょっと待てええええええええええ!」いきなり何難易度高いプレイしてくれちゃってんのぉ!
「何ですか、秋良さん」「私たちだって汗かいてるから、早く入りたいの」「兄ちゃん、殺すよ?」「いや・・・その弁解は分かる・・っておいコラ!愛華テメェ何さらっと殺人予告してやがんだ」自分の妹ながら、恐ろしい奴だと思わざるを得ない。
「いーから、いーから!」「く・・くそぉ!」俺が涼花に押されてふらついた瞬間に洗面所へと入室する3人。
俺の家は洗面所と風呂場、トイレが繋がっている、脱衣所も兼ねている。
「やられた・・!」だがしかし。
「俺は二階にいれば安全だ、興味本位とかで近づかなきゃ大惨事は回避できるぜ!」俺は自分の予備案にうっとりとしながら二階へと勢いよく上がっていく。
だが、二階の一番奥、俺の部屋の更に奥の壁から変な音がする。
愛華と俺の部屋は一つ、母さんの部屋を隔てて点在する、俺が一番奥で愛華が一番手前だ。
俺の部屋の更に奥の壁、そこで変な音がした。
「二階ニ上ガリヤガッタラ殴ラセテモライマス」「・・・は?」機械音声の声がする。
「はっ、ハッタリでもかまそうってか、愛華らしいが そんなのお見通」シュン、俺の真横を何か細いものが通り抜ける。
「・・・へ?」「殺傷力ハ低イデスガ、矢デス」「殴るんじゃねぇのかよ!!」飛び道具とは卑怯なり。
「ってか・・アイツ何作ってんだよ・・・」自宅に防衛装置作って何する気だよ、何だ?いつかこの家に誰か侵入するってか?中二病もいいとこだぜ。
ともかくあの防衛装置(壁に取り付けられた矢発射装置)は自動でターゲットをロックオンするから回避不可能だ、つまり簡単に言うとゲームオーバー 階下で待つしかない。
「・・・・アイツ工学系の大学じゃ引っ張りだこだろ」愛華の隠されたメカ技術にただただ驚くだけだ。
「・・いや、自律式とか個人で作れるレベルじゃねぇ・・」そこで思いつく顔が一つ。
「母さんか・・・!」母さんは仕事の詳しい内容を教えてくれない代わりに『多種多様なジョブの人達のツテがあるのよ』と豪語していた、工学関連のスゴイ人に特注で作らせたに違いない。
「・・・なんて日だ」俺はトボトボと階下へと降りていった。