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旅立ち

「こらぁー」

「うわぁ、逃げろー」

ダダダダダぁ。

「ったく!すばしっこくなりやがって」

「まぁまぁ、元気に育って良かったじゃない」

「そうなんだが、まだまだ無邪気で心配になるよ」

そして黒髪青年と青い髪の女性は走って行った少年を微笑ましく見つめた後、10年前の事を思い出していた。



この世界は人間や亜種族、精霊や妖精がいる剣と魔法の世界。広大な大地が広がる大陸、ユグドラシル。辺境の島の精霊を奉る一族。そこでの青年は一本の刀で、精霊を静める為、社に納められていた。管理は巫女の家系が行われていた。

…いつもはのどかで静かなのに騒々しいな俺は久しぶりに起きた …

今日は現巫女の静に子が生まれる日だったなと思ったが、歓喜よりも、困惑の方が大きい事が気にかかった。

…?…

「静の子が双子で、片方が男だぞー」

「不吉な…あの家は代々女子しか生まれんはずだぞ」

「明日から男子の事で長達が議論するそうだ」

…フム、生まれるはずがない男子が生まれたことでこの騒々しさか、不憫だが良くて流刑、悪くて贄にされるだろうな。

俺は所詮刀の精霊だ。成り行きを見守るしかないな…

…あれから3日か、どうやら結論が出たらしいな。

「流刑に決まったらしいよ。3か月後に川から流すらしい」

「災いがないといいけど、やっぱり贄にした方が良かったんじゃないのかい?」

「静がどうしてもと聞かないそうだよ。巫女はあの娘しかいないから、強気には出れないみたい」

…村人達の話を聞きながらやはりかと興味を無くし俺は眠りについた…

「精霊様、どうかあの子を優斗が無事に育ちますように。私はどうなっても構いません、あの子に精霊の加護を…」

…静が祈っているな…

「あの子は何も悪くないのに、掟?そんなの関係ない、生まれてきて悪い子なんていないのに…ぅぅ。鏡花といっしょに元気に育ってくれたらそれだけで良かったのに…ぅぅ」

…どうやら明日が流刑の日らしい…

「あなたには…グス、優斗の守刀としていっしょに行ってもらいたい…」

…俺に守れとも言ってるのか、俺がいなくなるとお前の立場も危なくなるぞ…

「大丈夫…ッス、代わりの刀を準備してるから…そちらに移ってもらえるかな?」

…分かった、何故か惹き付けられるものを感じるからな。俺が守ってやるよ…

「ありがとう。みんなにばれないように別の精霊にお願いして、ここを守ってもらうから。この刀に移ってもらえる?」

一振の刀を差し出して来た、刃渡り40㎝、小振りだが業物である刀を。

…俺を入れるのに大業物ではないようだが…

「ごめんなさい、あまりにも立派過ぎると怪しまれるから…」

…くっ、まぁいい。子どものことは任せておけ…

「ありがとう。あの子を、優斗をお願いします」


ザザ、ザザア、ザン。

海の上を一艘の小舟、その上では。

…刀の中だと優斗の面倒が見れないじゃないか…

ザァザ、ザ、ザザ。

…神にお願いするか、代償が大きいが静の願いだしな、仕方がない…

…この地に住む神よ、我が願い叶えてくれまいか。この子の事がどうしても守りたい、生きていくことの素晴らしさを知ってもらいたいんだ…

『なんです?精霊が神に願うとか珍しすぎて出てきてしまいましたよ』

絶世の美を誇る一柱の女神が出てきた。

…女神よ。願いがある、この子を生かしたい。俺に実体をもらえないか…

『無茶を言う。代償も無しにそんな願い叶えてあげれる訳ないだろう』

…代償があればいいんだろう?なんでも聞く…

『今から10年後お前の力を全て私に捧げてもらうよ』

…く、分かった。それまでにこの子を育て、生きる術を残す…

『クスクス、お前程の精霊の力がもらえるならお安いご用よ』

キィーン。辺りは光に包まれ徐々に光が収まると

「これは!」

小舟には中肉中背、黒髪でよく整った顔の男が黒の着流しに身を包んで立っていた。

『身体はお前の精神を反映して具現化しておいたよ。虎鉄』

「ありがたい。よく名を知ってたな?」

『仮にも神だからね。手はここまでしか、貸さないよ。10年、好きに過ごしてみなさい』

いつの間にか女神は消えていた。

「…分かった。この恩は必ず」

まずは目的地だな。西の方に向かいたいのだが、知り合いの精霊に手伝ってもらえるんだが。

「ん?勝手に西に向かいだした、どうなってる?」

この小舟には舵も帆もないのに…

「水の精霊がこんなに沢山集まってる!なぜ?それに風の精霊も!」

ふと優斗の方を見てみると

「精霊に囲まれてる!」

そうか!俺がこいつを守ろうとしたのも神と契約したのも、優斗は精霊に好かれるんだ、異常なほどに…

「まぁ、助かった。西のユグドラシル大陸の東側にある精霊の森まで頼む!」

精霊達は了解したのか凄まじい速さで小舟を運んでくれた。

「飯を食わすか、まだ流動食だよな」

小舟の中を探すと静が隠すように準備していた食料が出てきた。

「悪くならないように凍らせてるな」

あいつは中位の精霊なら全属性契約してたからなぁ

「まずは解凍だな、火よ」

俺は刀精霊だけど火属性は持ってるんだよ。打つ時に使われるんだからな。

「そろそろか、優斗今から食べさせてやるからな!」

俺は優斗に流動食を食べさせてやりながらこれからの事を考えてた。


あれから1日、俺達は精霊の森に着いていた。

普通なら2週間はかかるのに、脅威的な速さだ流石精霊達。

「泉を目指すからな、あの精霊なら俺達の力になってくれる」

俺は優斗に話しかけながら進んだ、聞こえてないし、理解出来ないだろうが話しかける事は大切だろう。

森の最奥に泉を認めた俺は直ぐに呼び掛けた。

優斗は泣かないなぁいつも笑ってるか寝てるかだって思いながら。

「おーい、ウィンいるか?助けて欲しんだが」

…なに?虎鉄ですか?どうしたんですか?っと言うか実体化してるの?…

「色々あってな、この子を育てるのに神に実体化出来るようにお願いしてきた」

…無茶をしましたね。代償は大きかったでしょうに、、それで私に何の用ですか?…

「俺と一緒にこの子の親代わりになって欲しい。ウィンは上位精霊だから実体化出来るだろ?」

…私にそれをする理由がないのですが?とりあえずその子を見せて下さい…

「あぁ、優斗って名前だ。巫女の家系に生まれた男子」

…愛らしいわね。何故かしらこの子を放っておけない気分になるわ…

「だろうな、優斗は精霊に好かれる体質みたいだ。だから俺がこんな無茶したんだぜ?」

…分かったわ。この子の母親になりましょう。…

キィーン。辺りは光に包まれ徐々に消えると青い髪の美しい女性が現れた。

「助かる。俺は10年後神に力を渡す。だから10年この子に生きる術を一緒に育てるのに力を貸してくれ。」

「分かりました。10年ですね。私もそこまで人との干渉は出来ないのですが、特別ですよ?」

「ありがとう」

そして、精霊が人の子どもを育てる奇妙な家族が誕生したのだった。




「ただいま~!」

「お帰りなさい、優斗、虎鉄父さんが大切な話があるからって呼んでるわよ」

「父さん、ただいま~!」

「お帰り、今日は何して遊んだんだ?」

「んーとね!風の精霊と一緒にかけっこして野菜取ってきて、それとビッグボア狩ってきたよ~」

「そうか、優斗も強くなってきたな」

「うん。父さんに教えてもらった刀術と母さんに教えてもらった精霊術のお陰だよー♪」

「優斗、大切な話がある」

「なにー?」

「父さんも母さんも精霊なんだ、で今日までしか一緒には居られない」

「えっ!精霊だったの?それに今日までしか居られないって…?」

「そうだ、これから優斗には一人で生きてもらわないといけない。父さんは神との契約で居なくなる」

「私は10年実体化して5年は休眠に入ります」

「…えぐっ、ヒック、ズズ。寂しいよ。どうしても?」

「聞き分けてくれ。お前は一人でも生きて行ける術をもってる。それに俺も母さんもお前の傍にいつまでもいるよ」

「嫌だよー、寂しいよ。ヒック」

「聞いて頂戴。母さんは優斗が大人になったらまた会えます」

「父さんはこの刀に込めれるだけの力を込めた。いつまでもお前を守るよ。それに精霊の友達が一杯いるだろう?」

「でも、グス、それでもやだよー」

「聞いて、優斗は一人じゃない、これから人の町に行って友達が沢山できるよ。冒険者になりなさい、頼もしい仲間に出会えるよ」

「そしてお前には双子の妹がいる。名前は鏡花だ」

「優斗、これから沢山の苦難がある、でもそれを上回る楽しい事が沢山あるから。いつまでも笑顔で精一杯楽しみなさい」

「グス、グス、うわぁぁぁぁん!ァァァァわがっだよぉ」

「すまん」

「ごめんね」

「父さん、母さん、僕二人のこと絶対に忘れない、二人の事が大好きだから」


次の日目覚めると父さんと母さんは居なかった、嘘だと言って欲しかったけど。本当だったんだ。

「グス、グス、ウゥ」

…泣くな、一緒にいるって言っただろ…

刀から父さんの想いが伝わってきた。

「うん。僕、笑ってるから。いつまでも一緒だよ」

…そうよ。私達は家族なんだから…

胸の奥から母さんの想いも伝わってきた。

「うん」

…今日は優斗の門出だ、泉で泣き顔洗ってこい…

「うん」

僕は泉に行って顔といわず、全身水浴びして戻ってきた。

…その刀と服は優斗のよ身に付けて…

服を着るとすごく暖かい、母さんに包まれてるみたいだ。

…この服には母さんの加護を目一杯詰めてるわ、いつまでも清潔で丈夫、優斗の成長に合わせて大きくなるから。刀は父さんの力が目一杯込められてるから…

「うん。僕頑張るよ。父さん、母さんありがとう。友達と仲間沢山作るから安心してね」

僕はその日初めて森の外に出た。

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