第八話
僕たちが入学してから早くも1ヶ月が経過した。
新入生が待ちに待ったクラブへの入部が可能となり、既に多くの生徒が希望するクラブへの入部を決めている。
そんな中、僕たちはザール君が魔闘部に、リュラン君は不明、僕は迷いに迷ってザール君と同じ魔闘部に決めた。
リュラン君は教えてって頼んでも教えてくれなかった。
むー。
そして今日、入部してから初めてとなる顔合わせの日がやって来た。
「皆さん、初めての方も既に顔を合わせた方もこんにちは。知ってるかとは思いますが、魔闘部の副部長を務めるケリー・ニコランジェルです。よろしくお願いします」
僕を含め、新入部員から盛大な拍手が送られる。
拍手が鳴り止み、次の人が前へ出てきた。
「俺の名前はグラル。この魔闘部の部長を務めている。……初めに言っておこう。魔闘部には軟弱者は必要ない。もし、中途半端な気持ちで入部を決めた者がいるのならば、今すぐ他の部へと移るがいい。以上だ」
拍手が――鳴らない。
皆、部長のグラルさんに言われた言葉に困惑しているみたいだ。
実際、僕も混乱している。
隣のザール君は動じてないみたいだけどね。
「えー、グラルの言葉は少し厳しいかと思いますが、私からも注意しておきます。このクラブは他のクラブと比べ、毎年かなりの怪我人が発生しています。理由は様々ですが、全てに共通しているのは戦闘による怪我であるということです。模擬戦であったり、クエストであったり、探索であったりしますが、基本的に無傷はあり得ません。故に、ある程度は覚悟しておかないと死に至るかもしれません。そのところを注意してくださいね」
笑顔で爽やかにとっても危険な事を言われた。
空気が凍ったようにひんやりしてる気がする。
「では、今日も活動を始めましょう。…そうそう。忘れるところでした。今日から1ヶ月間は1年生諸君は先輩の指導がメインですので、必ずここに集合してください。クエストや探索は基礎を作ってからにしてくださいね。それでは解散!」
ケリーさんの後ろにいた先輩たちは次々にこの闘技場を出てどこかへと向かっていく。
そして、先輩たちがほとんどいなくなったあと、ケリーさんが紙を読み上げ始めた。
「では、新入生諸君は基礎練習を始めます。最も、全員で一斉に行うのではなく、4,5名につき1人上級生を付けますので、彼らの指示に従ってください。振り分けはこちらで行いましたので、名前を呼ばれましたら前に出て来てください」
それから、ケリーさんはたくさんの名前を読んでは先輩を紹介し、その先輩は新入生を連れてどこかへ出て行く。
そして、僕の名前が呼ばれた。
「アラン・クリアフォード。ザール・フェルド。リュラン。ザイリン・オキシオル。君達は部長であるグラルがつきますので、厳しいとは思いますが、頑張ってください」
「神は死んだ!」
急にどこからか変な言葉が飛び出して来たけど、そんなことより僕はケリーさんが出した名前の方が気になっていた。
今、リュラン君の名前があったよね……?
「よし、全員来たな。では、第29練習場へと行くぞ」
グラルさんが僕たちを確認すると、行き先を告げて動きだした。
遅れないように僕たちもついて行く。
そして、グラルさんは1つの魔法陣の側へと行くと、僕達に先を促した。
「これに乗ればええんかいな?」
「ああ。練習場へ直通の転移陣だ」
初めにザール君、次にリュラン君が無言のまま転移陣に乗ってどこかへ飛ばされ、遅れて僕が転移陣に乗る。
急に視界がぶれ、気がつけばどこかの小さな屋内場へと来ていた。
中央には、先に行ったザール君とリュラン君がいた。
「まずは自己紹介でもするか。俺はグラル・シード。得物は己の拳。得意属性は土だ」
なんか納得した。
かなり筋肉質な体つきだもんね。
「オレはザール・フェルド。得物は槍で、属性は雷や。よろしゅうな」
「僕はアラン・クリアフォード。武器はバスターソードで属性は火だよ」
「あー、うー、お、俺はザイリン・オキシオル。使うのは片手剣で、魔法属性は土だ」
「……リュラン。武器は剣。属性は風だ」
リュラン君、もうちょっと愛想よく話したらいいのに。
ほら、ザイリン君はものすごく微妙な顔してるじゃない……。
「よし、まずはこんなもんでいい。では、初となる練習内容だが……考えていない」
ドサッ×3
僕、ザール君、ザイリン君が滑る。
リュラン君は全く反応なし。
って、この人が部長で大丈夫なの……?
「まぁ、考えていないのは本当だが、訳はある。あれこれ考えたところで担当するお前らの実力が伴っている必要があるからな。よって、今日は俺との模擬戦をしてもらう。武器はちゃんと持ってきているな?」
各自、学園専用の武器収納腕輪から武器を取り出す。
この武器収納腕輪はどんな大きさ、形の武器であっても仕舞える優れものなんだけど、学園内でしか使えない。
理由は、あくまで実習・クラブ活動で持ち運びやすくするためだとか。
「では、先程自己紹介した順に来るといい。他の3人はあそこの椅子で座ってみてろ」
グラルさんが練習場に備えられた椅子を示す。
えっと、さっきの自己紹介の順だから僕は2番目か。
「しゃ、いったるで!」
「その意気だ!かかってこいやァ!」
僕らが移動する前に始めようとする2人を見て、慌てて動く。
ザール君は前に見た穂先を下にして左足を大きく前に出した構え、グラルさんは右手右足を引いたファイティングポーズ。
「双方、用意はいいか。……始め」
「「はぁぁぁあああ!」」
いつの間にかマイクを持って審判を始めたリュラン君の合図で2人が衝突する。
ザール君の突きがグラルさんを肉薄するけど、グラルさんは拳で穂先を叩いて狙いを逸らした。
穂先を叩かれたために体制が少しぐらついたザール君をグラルさんの拳が襲う。
「ぐぅ!」
「まだまだだ!」
咄嗟に槍でガードしたのは良いけど、勢いまでは打ち消せず、吹き飛ばされるザール君。
殴った勢いのまま連続して詰め寄るグラルさんを止めることは――
「ここや!」
「甘い!!」
吹き飛ばされても何とか倒れずに持ち直したザール君は再び突きを、今度は足下へと放つ。
しかし、それもグラルさんにはかわされた。
あ、危ない!
「スキル【対空突き】」
「ぬ。ちぃ」
ザール君が何かを呟いた瞬間、身体が勢いよく戻り、今度は上への突きの体勢になる。
何をしたかは分からないけど、空中にいるグラルさんは避けられない!
にもかかわらず、グラルさんは突き出された槍の穂先を再び叩くことで攻撃を相殺して見せた。
あわわわわ……レベルが違いすぎる……。
「そこまで」
って、ええええ!?
何を止めているのかな、リュラン君!!
「勝者、グラル・シード」
「よしっ、次はクリアフォード。お前だな」
「よ、よろしくお願いします!」
後ろでリュラン君とザール君が揉めてるけど、今の僕に気にする時間はない。
両手で持つバスターソードを真っ直ぐに構え、グラルさんを見据える。
グラルさんは先程と同じファイティングポーズだ。
「それでは、始め」
「でやあああ!」
「はぁぁぁああああ!」
アランのバスターソードがグラルに向かって叩きつけられる。
しかし、横へのステップだけでかわされ、間合いを詰められる。
それでも、すぐさまアランは回避方向へソードを薙ぐ。
少し驚いたのか、今度はかわさずに拳で相殺にかかる。
拳とバスターソードがぶつかり、火花を出して力比べが始まるが、流石にアランには厳しかったのか、すぐにバスターソードが押し負け、弾かれる。
弾かれたことで体制が崩れたアランをグラルが肉薄する。
何とかバスターソードをガードに回すが、それでもグラルの勢いは止まらない。
渾身の一撃がアランを襲い、アランは思いっきり吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「そこまで。勝者、グラル・シード」
その後、アランを介抱するために審判を止めたリュランと近くにいたザールはザイリンの模擬戦を見ていない。
ただ、すぐに終わったとだけ伝えておこう。
「…まぁ、ただの打ち身だな」
「大丈夫かいな?」
「数日は辛いかも知れんが……まぁ、このクラブでは日常茶飯事だろう」
「あー、うん」
「次、リュランだ!」
「……」
グラルの方へと向かったリュランを横目に、ザールはアランの様子を窺う。
ぐったりと倒れ、ピクリとも動かない。
呼吸はしっかりしているため、頭を強く打ちつけたのだろうか。
どちらにしろ、心配である事に間違いはない。
「それじゃ、お前で最後だな」
「……(チャキッ)」
「ほう。気合十分だな。アランの敵討ちでもするつもりか?」
「…言葉は要らない。ただ、斬り刻むのみ」
「……上等だァ!!!」
彼等の勝負は語られることはない。
ただ、戦った本人達だけが知るのみである。
「それでは、模擬戦を踏まえて明日までにメニューを考えて置く。今日は解散していいぞ」
模擬戦を終え、グラルは解散を告げた。
ザイリンは逃げるように立ち去り、意識が戻ったものの今だフラフラしているアランを保健室へと連れて行くため、ザールはアランを背負い、去っていく。
残ったのは、リュランとグラルのみ。
「……お前、その強さは学生レベルじゃないな。どこで身に付けた?」
「……言う必要はない」
「たしかにな。……だが、既に俺を越えているとなると、教える物が無いな……」
「……迷宮の探索許可をくれ。後は勝手にする」
「……オーケイ。ケリーの奴に言っておこう。だが、それでも行けるのは明後日以降だ。いいな?」
「了解した」
話しを終えたリュランも立ち去る。
この場に残されたのは、グラルただ1人。
「……学生であれだけ戦えるか。只者じゃねえな。このことを上は知ってんのか…?」
少しだけ見せられたリュランの実力に頭を悩ませ、首を傾げるグラル。
言うべきか否か。
散々迷った挙げ句、彼は何かを決め、練習場を去る。
全員がいなくなった練習場は寂しく、戦闘の跡を残すのみ……。
∽to be continue∽