第七話
「それじゃ、基礎体術の講義を始める!まずは適当に3、4人でグループになってくれ。出来たら皆教科書は持ってきているな?教科書5ページの基本動作をグループで練習してくれ。オレは全グループを見廻るから何かあれば気軽に聞いてくれ!」
ガート先生の指示で、皆が親しい子とグループに分かれる。
僕もザール君とリュラン君に近づいてグループを提案した。
「それでえっと…この動きを真似ればいいのかな?」
「せや。オレが最初に見せたるさかい、よう見とりや」
「うん!」
ザール君は少し離れると、教科書を見ずに動き始める。
僕はその動きを教科書と見比べるが、少しも違わない動きだった。
何度も思うけど、人は見かけによらないものなんだね。
「こんな感じや。次はオレが見とるで、2人がやりや」
「よし!さ、リュラン君やるよ!」
「何故そんなにやる気なんだ…」
リュラン君の腕を引っ張り、此方を向くように動かす。
ため息をつかれたけど、僕は早く試したいんだからしょうがないじゃん!
それじゃ…
「せいっ。やっ。とぅ」
「………」
先程のザール君をイメージして動いてみる。
最初はいけるかも!、と感じたが、やはり途中から動けなくなってくる。
教科書を見ながら動いてみるけど、中々掴めない。
一息ついてリュラン君を見ると……
「(ポカーン)」
「(ポカーン)」
隣にいたザール君と一緒になって唖然としてしまった。
何故かって?
リュラン君の動きがあまりに綺麗だったからだ。
力は抜いてそうなのに空気が揺れ、ゆっくりなのに鋭い。
1つ1つの動作が滑らかに繋がってゆく。
さっきのザール君の動きが経験者とすれば、リュラン君は熟練者と言ってもいいかもしれない。
リュラン君の舞いの様な基本動作は教科書の手順通り進んでいった。
「……ふぅ。……ん、どうかしたか?」
「え、えっと、その、す、すごかったよ!物凄き綺麗だったから見とれちゃったよ!」
「…これくらいは練習すれば出来る」
「どれくらい練習すればそこまで出来るの?」
「さあ」
「さ、さあって……」
「俺は教科書通りに動いただけ。それ以上でも、それ以下でもない」
……もう、何も言えない。
ザール君は我武者羅に基本動作をやり始めたみたいだ。
よっぽど悔しかったんだね。
僕も初心者だけど、リュラン君の動きを見たら負けたくないって思えたし!
一生懸命やっていると、いつのまにか終了が近づいていた。
基本の動作だけとはいえ、結構難しいや。
「はぁ~、結構疲れるね」
「ほんまやな。オレ、これでも自信あったんやで…」
ザール君と2人してため息をつく。
一方、同じぐらいやっていたリュラン君に疲れた様子は見えない。
「俺もかなり疲れている。あまり表に出さないだけだ」
「あ、そうなんだ」
心を読まれたのかと思うぐらいジャストタイミングでドキリとする。
休憩がてら、リュラン君の動きを眺めていると、ガート先生から終了の合図があった。
先生のところへ集まると、皆汗だくだくで疲れ切った様子だった。
でも、レクスさんやその他数名は平然とした様子だったし、リセルはまだまだ平気そうだった。
「全員、今日はこれで終わりだ!初めての者はしっかりと休まないと明日が辛いぞ。以上だ、解散!」
フラフラと競技場から出ていく皆と共に寮へと戻る。
汗を流すために、皆シャワーに向かうのだろう。
僕も早く着替えたいから急ごっかな。
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シャワーを浴び、ご飯も済ませた後、僕はザール君に付き添ってもらい、水晶玉の練習に励んだ。
基礎体術の疲れが残ってるけど、出来るだけ早くできるようになりたいから少しだけ頑張る。
リュラン君はいつも通りどこかに行っていて、部屋に姿は見えない。
「少し休憩したらどうや?あんまやりすぎてもできんだけや」
「…あと、1回…っ!」
ザール君が心配してくれているのは分かるけど、早く出来るようになりたいんだ!
吸って…吐いて…吸って…吐いて……よしっ!
「んんんんんっ!」
その時だった。
突然、身体中の力が手の先へと集まり、一気に放出されていくような感覚が……。
「おおおっ、出来とるで!アランもやればできるやないか!」
ザール君の声が遠くに聞こえる。
残った力を絞り出して目を開ける。
目の前には、赤く光る水晶玉があった。
「は、はは。できた、んだ、ね……」
「ん?アラン、大丈夫かいな!?」
「ごめん…お休み……」
目の前が真っ暗になった。
【side ザール】
「アラン!?……なんや、寝てもうただけかいな」
ちょいと焦ったで。
まぁ、初めて魔力放出をして加減が分からんかっただけやろ。
普通なら、全部の魔力を出し切るなんて無茶は無理や。
酷いと気絶だけじゃ済まんからな。
「……成功したようだな」
「うひゃあ!?」
突然、背後から声が響き、変な声が出てもうた。
慌てて振り返れば、呆れ顔のリュランがおった。
…オレの声に呆れているんか?
「かなりの魔力をつぎ込んだみたいだな。消える気配がない」
「あー、ホンマやな。全く、どないつぎこんだんやろ?」
「……」
あ、リュランが水晶玉を手に取って……!?
な、何や?
突然、赤く光っとった水晶玉が元に戻っとる。
「な、何したんや?いくら上級者でも魔力の“吸収”なんて高度な技術は持ってへんで?」
「…勘違いするな。“吸収”ではなく“譲渡”だ。水晶玉からアランへと、な」
「……“譲渡”やと?確かに、吸収よりかは簡単かもしれへんけど、それでもかなり集中力がいる芸当やで?対象の魔力と渡す魔力の同調が必要不可欠やし、受け渡しのためのロープも必要や。そないなのにお前は何も使わんと受け渡しをしたん言うんか?」
「今回はそれほど難しいものではない。魔力は元々アランの物だ。そして、既に手を介して繋がっていた。あとは魔力の向きを変えてやれば済む話だ」
そしてリュランは背を向け、ベッドへと潜り込んだ。
これ以上、自分に話しかけてくるなってことかいな。
……恐ろしいもんや。
――元貴族で神童と呼ばれた事もあるオレでも出来ない技術を持っているとは。
――しかも、1日2日レベルの差なんてものじゃない。
――一体、どれだけの時間を費やして来たのか……。
「……考えても無駄やな」
チラリとリュランの方を見た後、アランをベッドに放り込み、自分もベッドに潜る。
やれやれ、どうやら化け物レベルがもう一人いたとはな……。
苦笑と共に、同じクラスメイトとして競える事に少しだけ嬉しく思ったのだった。
∽to be continue∽