第二話
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改訂作業完了。
「それでは、今から測定を始めますよー!」
エミリア先生の指示の元、Dクラスはとある場所へと来ていた。
言葉からも分かる通り、今は新学期特有のイベントである身体測定――に加えて、魔力測定や現在の適性職業など様々な外面内面要素を調べることになっている。
勿論、調べられた情報は生徒本人の生徒手帳にカギ付きで登録され、勝手に見られないようになっている。
学園設立当初は今よりオープンであったみたいだけど、魔力の量や適性職業によっては虐めや差別という事態が発生したため、学園上部の協議の結果、公開する内容は最低限の名前や学年などのみとなり、基本的に生徒が自分から見せない以外には調べる事はできないことになっている。
生徒手帳には生徒を探すための検索機能が乗っているが、そこで分かるのはその生徒の名前と学年、クラスと顔ぐらいだ。
一応、検索から見られるページには自分を紹介するスペースもあるので、何か多くの人に伝えたいことがあればそこが活用される。
そこに使用武器、得意魔法属性などを書き留めておく生徒も多い。
それでも隠そうとする人は隠すわけで、その人の性格を知る情報の一種と考えてもいいらしい。
……ついでに言えば、そういった情報を売っている情報屋なる生徒も当たり前のように存在する。
その人たちは多くの人に恐れられる反面、イベントや大会ではかなり頼られる。
ただ、弱みを握られると色々と辛いらしく、できればそういった人とは関わりたくないなぁ……。
さて、何故こんな話をしたのか、皆には分かるかな?
「つまり、皆さんは学友であると同時に、競いあう敵でもあるわけです!“己を知り敵を知ればいかなる時もモーマンタイ!”これが私の言葉です!!」
前に立つエミリア先生が長々と話し続けた内容を要約しただけなんだ。
…まさか30分以上も説明するとは、僕を含めて誰も考えなかったと思う。
「あ、あー…。エミリア先生?はよ始めんと時間ないんとちゃう?」
「は、はわ!?そーです、もう時間ががが!?」
自己紹介であれほど不真面目なザール君がまともな事を言ってる……。
クラス全員が驚きに包まれた瞬間だった。
それと同時に隣の部屋から新たな女性が入ってきた。
「ようやく終わったみたいね。初めまして、皆さん。聖グランベリア学園の保険教師と保健管理を兼任しているトウメよ。皆さんの怪我やあらゆる測定の際には関わると思うからよろしくね」
エミリア先生とは真逆のプロポーションを持つ女性――トウメ先生が現れた。
そんなトウメ先生の言葉と同時にエミリア先生は復活した。
「というわけで……番号順に始めてきまーす!」
メシアの号令の元、ようやく測定が開始された。
基本的な身体測定には欠かせない身長・体重に加え、僕達が生まれ持つ魔力の属性や現在の量、そして全てを総合的に見た上での適正職業を告げられるとともに生徒手帳に書き込まれ測定は終了した。
因みに、測定自体は僅か五分で終わった。
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全ての測定も終わり、教室へと戻ってきた僕達Dクラスのみんな。
この後はクラス毎に予定が組まれている。
それは――
「闘剣部に入ろうぜぇ!!」
「魔法研究部はどうですか~。一緒に自分だけの魔法を作りませんか~」
「騎士道部に入ってみないか!我らと共に帝国騎士団入団を目指そうではないか!!」
課外活動の一環であるクラブの見学である。
基本的に、全ての生徒は何らかのクラブに加入することを求められている。
もちろん、一つ以上に入っていればいいので、二つ三つと掛け持ちする人もいる。
そういえば、聖グランベリア学園について説明して無かったね。
聖グランベリア学園――簡単に学園と呼んでる――の一学年の人数はとても多い。
毎年、数万人以上の入学希望者が未来を求めて試験を受け、選ばれた千人近い人数が入学する。
何を目指すかはそれぞれによって違うとは思うけど、それでも毎年千人もの生徒が増えるわけだ。
そして、学園には最低でも第七学年までいる必要がある。
つまり、少なくとも全体で七千人以上もの生徒が学園という敷地内にいるわけで、必ず所属しなければならないクラブ活動ともなれば、それこそ人気のクラブには毎年数百人もの希望が来るわけで……。
一つのクラブに大量の生徒が押しかけるとクラブ側も学園側も面倒事が増えるので、学園上層部側が出した提案がある。
それが“一斉部活動見学”である。
学園の敷地はとても広いんだ。
口で説明すると大体“日本の面積の四分の一”ぐらいになるんだって。
……日本ってどこにある国なんだろう?
ともかく、一人で周っていてはとてもじゃないけど行きたいクラブに着かない可能性がある上に死者が出る恐れもある(らしい)。
他にも様々な意見や思惑を含めた結果、クラス単位で部活動を見学する時間を与え、全ての部活動に平等な機会を設けることとなった。
無論、機会があるだけで勧誘は自分達で行わなければならないのだけど、この決まりが出来て以来、部活動の妨げになる事件や強引な勧誘活動がほとんどなくなったとのこと。
そんなため、新学期の初めの一月は部活動見学が中心となるため、学園の講義などは行わず、測定やクラブ活動、または迷宮やギルドの依頼などが組まれることになる。
「料理研究部で愛しの恋人に手作り弁当を作ってみませんか~」
「鬼神石研究部では!鬼神石の成り立ちを研究するべく、日夜鬼神石と語り合っている部である!!諸君も身近な神秘を解き明かすべく――」
「スランザー部だ。近年話題となっている魔法とボールを使用した新たな球技だ!話題の波に君も乗ってみないか?」
学園の部活数はおおよそ150。
中でも学園内で有名な魔闘部や魔法部、騎士道部等には毎年100人以上の入部者がいる。
逆に、弱小ともいえる部も多数あり、入部希望の掻き集めに忙しいのはお約束だろう。
――で、我らがDクラスはというと……
「え~、ではこれより、一年Dクラスの魔闘部体験を始めたいと思います」
「いえーい!」
現在進行形で人気クラブ、魔闘部の見学を行なっていた。
説明を始めた男の先輩の声に、エミリア先生の合いの手が入る。
クラスを何度も振り回す先生に、みんなは疲れた表情で見つめるだけ。
苦笑する先輩は何事も無かったかのように説明を続けた。
「進行は私、副部長のケリーが務めさせていただきます。まずは魔闘部の活動内容から説明しましょう。魔闘部では、文字通り魔法や体術などを扱って本格的な実戦経験を積もうと考えているクラブです。近年、魔獣による被害や迷宮での探索による戦闘が増えています。普通に生活していく上ではそれほど関わりはありませんが、この学園では講義やギルドによる依頼などで卒業までに多くの実戦というものを経験するでしょう。そこで、我々魔闘部では、学園の講義で学んだ技術を突然の戦闘でも活かせるようにと、毎日対人、たまには対魔獣での戦闘訓練を行い、技術の向上や戦うことで自身と向き合う事を目的としています。もちろん、一度や二度の戦闘で慣れる事はないでしょうが、一年二年と積み重ねることで、先輩方の中にはギルドランクDを頂いた方もいます。“自分の命は自分で守る”これが我がクラブの信念となります。――とまぁ、長々と話していてもつまらないでしょうし、今から眼前のステージにて模擬戦を行ってもらいたいと思います。新入生の皆さんは、これが魔闘部だと知って欲しいですね」
ケリーが右手を挙げる。
それを合図にステージ端から二人の男が現れた。
一人は金髪、もう一人は黒髪だ。
「準備はいいですか?」
「おう!」
「大丈夫です」
「了解しました。新入生の皆さん。右手に見える金髪が五年生のラン君。左手の黒髪が三年生のクロウ君です。二人ともギルドランクEの持ち主で、かなりの実戦派です。今回は出来るだけ怪我を抑えるために素手ですが、本来であれば武器も使えますよ。――それでは、始め!」
「おおおおッ!!」
「ふッ、しッ!」
ランの振り上げた拳が唸りながらクロウへと放たれる。
その動きを冷静に避けたクロウはお返しに下段蹴りを繰り出す。
それをバックステップで下がり、その反動を利用して前へと詰める。
だが、それを読んでいたのか、手を振り抜くように横へと走らせると、地面に同じ長さの火の線が現れ、それが延長線上に膨らみ、波となってランを焼き尽くさんと燃え上がる。
「良い攻撃だ!だが……”喝”!!」
「ぐぅ……」
高熱の波に襲われたランであったが、思いっきり空気を吸い込むと、勢いよく声を張り上げる。
その音波が火の波を消し去り、続けて延長線上に立っていたクロウの三半規管を揺さぶる。
ついでに、ステージ外で観戦していた新入生達にも影響が出ており、一部の生徒を除いて声に耐えきれず全滅していた。
「み、皆さん。しっかりしてください!……ラン!その攻撃は他にも影響が出るから止めなさいと言ったでしょう!!」
「あっ、いっけね」
「……頭が……」
観客はダウン、対戦相手であるクロウもフラフラしており、ケリーは仕方なしとばかりに肩を竦めて宣言した。
「勝者、ラン。……ですが、新入生の皆さんには大変お見苦しいところをお見せしました。お詫び申し上げます」
上級生たちの会話中に何とか起きあがるところまでは回復した新入生に向かって、ケリーは無礼を詫びていた。
未だに先程の攻撃(?)が効いているためかフラフラしている生徒が数多くいるが、全く動じていないエミリア先生が代表として言葉を返す。
「いえ、貴重な体験ありがとうございます。あのお二方の戦闘はとてもキレがあり、素晴らしかったですよ。……まぁ、ラン君には少しばかりお説教が必要かもしれませんけど」
「申し訳ありません」と、苦笑しながら「お疲れさまでした」と言って新入生を送りだす。
最後の生徒と先生であるエミリアを見送ると、「ふぅ」とため息をつき、続け様にボソッと呟く。
「……今年は豊作ですね」
「こっち側からだと遠くて見えなかったからな。何人いた?」
「候補が二人。それと、原石と思われる者が二人」
「へぇ。特徴は?」
「一人目の候補は言うまでも無く、王女であるレクス様。もう一人は後ろの方で壁にもたれていた銀髪の青年。原石は気の強そうな金髪の少女と背の低い愛嬌のある白髪の男の子だ」
「了解だ。下に通達しておく」
「ええ。頼みましたよ、部長」
「――お前の方が部長っぽいのにな」
その後ろからスッと現れた大柄の青年の顔を見ずにケリーは話す。
部長と呼ばれた青年も慣れているためか、あまり気にせずに話し、勧誘のための準備を始めるためにすぐにこの場所を去る。
去っていく気配を背に、ケリーは開かれたドームの天井を見上げ、飛んでいる鳥を見つめる。
「今年も、優勝は我が聖グランべリア魔闘部が頂いて見せる…!」
決意を新たに、副部長ケリーも勧誘の準備のため部屋へと移動する。
既に各学園対抗戦への準備は始まっていた。
∽to be continue∽