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Held Flugel  作者: アクア=イスタロス
第1章―闘技大会編
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第一話

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改訂作業完了

「1011…っと。ああ、あったあった」


巨大な掲示板の前で僕は手元にある機器と睨めっこをしながら書かれている数字を探す。

何千とある数字の中からようやく目当ての数字を見つけて、ホッとため息をつく。

どこかにあることは分かっていたが、それでもこれだけの数の中から探し出すのは一苦労だよね。

浮かび上がる所属クラスと場所を配られたデータを見ながら確認する。


「ここから右に曲がって…次の階段を二階上がって…真っ直ぐな廊下をひたすら進むと、か」


学校のマップと見比べながら確認したけど、ちょっとばかし遠い。

けど、最初のホームルームまではあと一時間ある。

それでも、機器を右ポケットへとしまうと目的地へと歩き始める。

余裕はあるけど、油断して遅れちゃうと嫌な目立ち方するからね。

初日からそんなバカな真似はしたくない、その一心で廊下を進む。

すると、目の前には自分と同じことを考えた生徒だろうか。

廊下には真新しい制服に身を包んだ少年少女達がこれから始まるであろう生活に対して胸の鼓動を隠し切れずに笑って歩いていた。

その生徒達の後に付いて行きながら、先程確認した道筋通り進むと目的の場所が見えて来た。


「ここがDクラスだね」


廊下の壁に浮かぶクラス表示を見ながら確認する。

どうやら間違いないようだ。


「……き、緊張するなぁ」


誰がいるわけでもないが、それでも新しい場所に入るという行為は僕の身体に力を張らせていた。

何とか取っ手に手をかけ、扉を開けて中へと入ると広い教室が目に入る。

綺麗に並べられた机がおよそ五十ほど。

前には巨大な黒板があり、左右には時間割と書かれた紙と何も入っていない花瓶が一つ。

物音一つ立てない教室を見渡すと、既に先客がいたようだ。


銀色の髪を持った背の高い男の子…いや、青年というべきかな。

一番後ろの席にて窓に背を預けるようにもたれ、何かの本を読んでいた。


「……」


「……」


き、気まずい…。

目の前の青年は本に集中しているし、僕が声をかけていいのかも分からない。

頭を抱え、沈黙の時間が幾らか経ち、ようやく決心がついて声を――


「しゃー!!一番乗りぃー!!」


――かけれなかった。

勢いよく開けられた扉から大声を出して現れたのは黄色い髪と黄色い目という比較的一般的な外見の小柄な男の子だ。

呆然とその子を見ていると、固まったように止まっていた男の子が恥ずかしそうに頭を抱え出す。


「ぐぁー!!オレ何やってんだかッ!既に二人もいる教室で恥ずかしー!!!」


ゴロゴロと扉の前で転がる様はとてもではないが可哀想ではある。

最も、僕に目の前の子に声を掛けられるのかと問えば無理だと即答する。

僕までもがあの状態の男の子の同類とは見られたくない。


「邪魔」


「げふぉあ!?」


そんな事は露も知らず。

転がり続けていた男の子を蹴り飛ばし、中へと入ってきた女の子が一人。


「あっ…」


「ッ……」


その見覚えのある顔を見て、咄嗟に声を掛けそうになるが、先に黄髪の男の子を蹴り飛ばした女の子に顔を背けられた。

そのまま件の女の子はこちらに顔を向ける事はせず、逆に僕は何と声をかけるのかも考えつかない。


「ねえ、どうしたの?」


「……何でもない」


僕は気づけなかったけど、後ろにはもう一人いたようだ。

後ろにいた女の子は戸惑うように前にいた女の子に声をかける。

前にいた女の子は小さく呟くように答えると、そのまま教室を去っていく。

返ってきた答えを聞けば嘘だとは思うが、後ろにいた女の子は教室を覗くと理解したとばかりに何も聞こうとはしない。

困ったように微笑むその顔はいつものことだと言わんばかりだ。

そして、こちらに軽く会釈をするとそのまま女の子の後を追った。


「……」


残された僕は手を握りしめ、俯く。

教室には再び沈黙の静けさが戻っていった。





―――――――――――――――

―――――――――――――――

―――――――――――――――





「~~です。よろしくお願いします!」


ペコリと頭を下げると周りから疎らに拍手が起こる。

どこの学園、どこのクラスと何ら変わりのない新学期初めの自己紹介。

男の子が、女の子が、自分自身を周りの者に売り込む。

つまりは誰もが一度は思うよね。


「出会いは初めが肝心」と。


それが行われているわけだね。

けど、今話したのが誰で、さっき話したのは誰などとすぐに覚えられない、特に僕は!

だから、出会いは初めが肝心だと思うけど――


「オレ、ザール!ザール・リ・フィールって言うんだ!!趣味はナンパ!得意なのは槍術だ!!男子諸君!俺と一緒に桃源郷を目指そうぜ!!」


こんな紹介の方が人の覚えが良い。

最も、こんな紹介では大勢から引かれるとは思うけど。


『……』


案の定、痛い視線……特に女の子からの怖い視線が彼、スルーラと名乗った男の子に注がれる。

けど、彼は気にしていないようで、先生の紹介を促す言葉が響くまで、嫌な沈黙は続いた。

その紹介の流れも再び次の人物によって途絶えることとなった。


「レクス。レクス・ディ・クラベリアだ。」


途端、少しだけ戻っていたざわめきが再び沈黙へと戻った。

先程のアホっぽい自己紹介とは全く逆の、必要最低限の紹介しかしない女の子。

容姿は綺麗、むしろこの子を綺麗と言わず、誰を綺麗というのかというぐらい。

けど、一番驚く必要があるところはそこじゃない。


「お、おい。聞いたか…?」


「あ、ああ」


「おいおい、マジかよ……」


「まさか本当に?」


「アレが噂の……」


「そうそう。王家三女のレクス様。…別名“氷の剣姫”」


髪は水色、目は碧色をしており、外見だけでいえばどこかの国で活躍中の人気アイドルだろう。

あ、王族のお嬢様だから、アイドルには間違いないのだろうけど……。

そんな彼女には大き過ぎる上に恐れられるだけの有名な実績がある。

それが――


――齢十にして成した魔獣“ニルトラーム”の討伐である。


ニルトラームとは……ラスクタニア神話において、頭が2つあり、手が8つあり、足が蛇の胴体の様な格好をした魔物“ゴルゴン”の子供のことだ。

神話では、ゴルゴンはその目を見たものを悪夢に引き摺りこみ、ゆっくりと捕食することから“死のトゥトラーム”とも言われ、旧暦では少ないながらも発見されていたらしいけど、新暦になって以降、発見はほとんどされていない幻ともいえる魔物。

彼女――レクスが倒したのは外見的特徴はほぼ一致するからゴルゴンじゃないかと兵士は話したそうだけど、死体には代名詞である魔眼がなかったから、ゴルゴンの子供と言われる魔獣“ニルトラーム”ということが決まった。


それでも身体能力はネルターツァ人を凌駕するほど持ち合わせており、危険度Aに指定されている。

そんな魔獣を彼女は十歳にして一人で討伐した。

その姿を見た家臣や旅人の噂が噂を呼び、ついには噂の真偽を確かめ、本当であれば功績を称えるべく、ギルド本部が動き出すことになるほどの大事になった。

その後の調査の結果、彼女の功績は認められ、ギルドランクAを授与され、好んで使用する魔法か、それとも普段見掛ける冷たい性格を指してか、二つ名として“氷の剣姫”と呼ばれるようになった。


「っんん!静かに!!……それでは、次の人」


「は、はい」


やはり王家と言うべきかな。

纏う空気が違っている。

こればかりは先生も仕方ないと考えたのか、自ら声を出して次を促す。

けど、次の女の子はとても哀れでしかない。

立ち上がる時には若干涙目になっており、他の子はご愁傷様とばかりに手を合わせていた。


そんな可哀想な女の子の紹介も終わり、次は僕もよーく知ってる女の子。

金髪藍眼でスラッとしたスタイルの美少女。


「リセル・カーラーです」


親同士も仲良く、昔からよく遊んだ幼馴染。

元々口数は多い方ではないから、周りからは大人びた子だと言われることが多かった。

……過去形なのは、今はあまり仲が良くない“現在”の彼女を知らないから。

理由は……あまり言いたくない。


「エリン・カーラーです。皆さん、よろしくお願いします」


次の女の子はリセルの妹で、姉であるリセルとは真逆ののんびりとした性格の持ち主だ。

最も、性格とは逆にリセルと同じスタイルのこちらも美少女。

リセルと話せない今、一番迷惑をかけている人物でもある。





そんなこんなで順番が巡り、いよいよ僕の番だ…。

僕の外見を簡単に説明すると白髪赤眼なんだ。

一応、パルフェ人なんだけど、両親から遺伝した色ではないんだ。

元々パルフェ人は多彩色の持ち主が多かったと言われるんだけど、これまで白髪は見かけられたことはないみたい。

良く似てる銀髪なら多少なり見かけるのだけど、僕の場合は完全に白。

まぁ、だからといって何も起きてはいないから問題はないけどね。


「皆さん初めまして。僕はアラン・クリアフォード。趣味は特にありませんが、特技として装飾品を造ってます。もしよければご利用ください」


最後にゆっくりと丁寧にお辞儀をして着席。

近くの女の子達から「可愛い」とか「抱きつきたい」みたいな囁きが聞こえたけど、空耳だと思いたい。

いくら僕が身長150センチだとしても、男なんだから!





それから数十分後。

長かった自己紹介もようやく最後となった。

その子へと目を向けると、見覚えのある子だった。

今朝、同じ席に座って本を読んでいた青年だ。

けど、そんな彼は中々自己紹介を始めない。

近くにいた子が声をかけても外をじっと見つめるだけで、動かない。

ため息をついて先生が始めろと言わんばかりにジッと見つめると、流石に渋々紹介を始めた。


「リュラン」


「……え?それだけですか?」


ガタっと音を立てて立ち上がり、一言言ってすぐに座ってしまった。

これには先生も他の子も唖然である。

名前以外何も分からない。

しかし、自己紹介は自分の話したい範囲で話せばいいと先生も言ってた以上、何も言えない。

それでも、先生はリュランに説得をしてみた。


「あ、あのぅ。名前以外にも話してみない?」


「断る」


「ほら、他の皆も色々と話しているし……せっかくの学園生活だよ!楽しく行こうよ!!」


「断る」


「わ、私は君の事をもっと知りたいな~、なんて……」


「……」


結局、先生も(泣き崩れるようにして)説得を諦め、次へと話は進んだ。

先生が涙ながらに話をしている中、僕はとある人物を見ずにはいられなかった。


長身で銀髪蒼眼の青年、リュラン君のことだ。


今朝の教室での事と、先程の会話で見た感じを合わせると、とにかく無口。

名前以外分からないから何とも言えないけど、雰囲気はどこから貴族を思わせる。

と、そこまで考えると、ふと同じような雰囲気を持っている人物へとも目を向けた。

王女であるレクスさんだ。

“氷”と称されるほど冷静で無表情な人。

髪や目の色を除けば、リュラン君とレクスさんはかなり似た感じを持っている気がした。

先生が前で色々と話をする姿を見る傍ら、レクスさんを見ていると、突然、視線が窓際の方へと向いた。

その視線を辿ってみれば、その視線の先にはまさかのリュラン君。

片や王女、片や詳細不明の一般人。

…………意味が分からない。

考えても仕方ないね、と結論付けて「ふぅ」っと、ため息をついてしまった。

そのため息が目に留まったのか、急に前で話していた先生が話を中断してまで僕に声をかけさせてしまった。


「ええっと、アラン君?」


「は、はい!何でしょうか、エミリア先生」


「ため息なんかついて……先生の話、つまらなかった、かな…?」


「い、いえ。何も問題ありませんから気にしないでください」


「そ、そう?何かあったら相談に乗るからね?それじゃあ話しを続けるよ。――」





その後は淡々と学園における禁止事項や課外活動についての説明、そしてギルドや迷宮についての簡単な説明を受けて今日のホームルームは終わりを告げた。


楽しいであろう学園生活は始まったばかりである。





∽to be continue∽

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