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Held Flugel  作者: アクア=イスタロス
第1章―闘技大会編
13/16

第十二話

相変わらずぐだぐだな上、戦闘シーンもあまり進歩無いです。

この試合が始まってから何分経過したのか。

最初から変わらずに生み出される剛剣と柔剣の駆け引きは一進一退であった。

リュランが攻めればレクスは受け流し、レクスが攻めればリュランが回避するといった場面がくるくると回り続ける。

レクスも剣だけでは捉えきれないと分かっているからこそ、魔法――【氷結】や【氷弾】といった動きを阻害するようなに使用しているが、全く効果が無い。

反対にリュランはというと、スキル――【高速突き】や【九連突き】といった本来であれば槍で使われるスキルをいとも簡単に剣で行っている。

だが、それだけでは攻めきれないと分かっているのか、時折隙のある動き、あるいは全く見せていない動きでレクスの動揺を誘うが、当の本人は誘いに乗ってこない。

互いが互いの思惑を潰し合い、攻めに攻めきれぬ時間が続くが、観客からすればこれほど見ごたえのある試合も無いだろう。

普段行われる争奪戦だけでなく、闘技大会本選でもこれほどの試合はあまりない。

上級生だから、などではなく、全員がこの試合に引き込まれていた。


「ですが……これ以上は危険ですかね」


「ああ。惜しいけどな」


ふと、隣にいたケリーさんとグラルさんが零した。

危険…とは?


「これ以上やると何かあるんですか?」


「いえ、普段の試合では特に問題ないんですが……これだけ濃密な戦闘を繰り返すといくら死なないとはいえ疲労は蓄積するわけで。外傷こそ見えませんが、下手に長引かせることで思わぬ怪我をする可能性もある訳です。骨折とか筋肉の断裂とか」


「新入生がこれだけ戦えることは称賛するが、怪我だけはさせちゃならんからな。そろそろ10分に到達する。10分を過ぎたら問答無用で終わりだ」


グラルさんも心底惜しいと思っているのか、顔を不満そうに歪めて話した。

僕も目の前の光景が終わってしまうことについて残念に思う。

でも、この試合は僕にとっての到達点を見せてくれたんだ。

それは忘れてはいけない。


突然、クラベリアさんが距離を大幅に取った。

今まで取った距離と比べ、違いが大きく分かるほどだ。

何のためかは僕には分からない。

でも、何かするんだってことだけは分かる。


「これ以上は無意味でしょう。私にも、あなたにも」


「……」


「故に、私は今から全力で魔法を発動します。これで倒し切れれば私の勝ち。受け切れればあなたの勝ちでどうですか?」


「普段なら一蹴するところだが…乗った」


「…ふふ、ありがとうございます」


そう言うと、クラベリアさんは剣を真っ直ぐ構える。

ちょうど身体の真ん中に剣を構え、剣の腹がリュラン君に向いている状態だ。


「お願い、シルビア。私に力を貸して」


クラベリアさんが何かを呟くと、クラベリアさんを中心に魔力の渦が巻き起こる。

これほど濃厚な魔力は見たことが無い!


「バカな、精霊魔法だと!」


「いけない、闘技場の障壁を最大展開!!」


突然、グラルさんとケリーさんが慌てだした。

いや、2人だけではない。

食い入るように見ていた先輩たち全員が慌てて構え出した。

僕やエリンは何が起こるのか分かってないけど、グラルさんとケリーさんたちはどういうものか知ってるみたいだ。


「クリアフォード!カーラー!俺の後ろに来い!遅いとやられるぞ!!」


グラルさんの怒鳴り声に慌ててグラルさんの後ろに移動する。

僕たちが移動したのを見てグラルさんとケリーさんが何かを展開するのが見えた。

色が付いてる壁に見えるけど……これは何?


「……来るぞ!」


「【ダイアモンドダスト】!!」


それは突然だった。

クラベリアさんを中心に猛烈な吹雪が発生したかと思うと、その全てがリュラン君めがけて動きだした!

吹雪って言ったけど、1粒1粒が砕かれた剣の破片みたいに鋭いもので出来ているみたいだから、当たれば大怪我間違いなしだ!!

竜巻のように発生してるから、リュラン君の方へ向かいきれなかった余波が周りの観客に襲いかかっている。

現に、僕達の前に張られた何かに激しく衝突し続けていた。


「ぐっ、これは……」


「まさか、ここまでの威力とは…」


先輩2人は苦しそうだ。

それほど強力な魔法なんだろう。

リュラン君は無事だろうか……。





魔法の吹雪が止み、段々と視界が開けてくる。

最初に思ったことは“怖い”だった。

闘技場の壁や地面は大きく抉られており、明らかに人に向かって放ってはいけないような威力を見せつけていた。

観客席の方を見ると、あちらもところどころ破損しており、何人かの先輩の姿が無かった。

もしかすると、致命傷を受けて消えたのかもしれない。

そして、吹雪が完全に止み――


「……まさか、これを耐えられるとは思いませんでした」


「……こちらもギリギリだ。2度とやりたくない」


目の前には無傷とは言いがたいけど、それでもしっかりと立っているリュラン君がいた。

何をしたのかは分からないけど、耐えきって見せたらしい。


「…………はっ、しょ、勝負あり!勝者、リュラン!防衛成功!」


思い出したかのように審判の人が勝敗を宣言していた。

というか、無事だったんだ……。





――――――――――

――――――――――

――――――――――





1年生同士の大激戦がリュラン君の勝利で終わった後、クラベリアさんはグラルさんから注意と言う名の説教を受けていた。

んー、あれだけの魔法を使ったんだから当然なの…かな?


「お疲れ様、リュラン君」


「…2度と、絶対にごめんだ」


「ふふっ。でも、勝ちましたね。最初はあれだけ負けようとしてたのに」


「……」


僕から見ても「疲弊してます」という空気を露わにしてるリュラン君に苦笑い。

制服はあっちこっちがボロボロだし、まだ右手で持ってる騎士剣は刃毀れしてる。

そして、続けて聞こえたエリンの言葉にリュラン君は顔をしかめた。

照れちゃってるのかな?


「なんや、こんなとこにおったんかいな!」


「……」


ワイワイと話していると、入口の方から聞き慣れた事が聞こえた。

振り返ると、そこには友達のザール君ともう1人の幼馴染であるリセルがこちらに向かって来ていた。


「オレの快進撃を教えたろと思って探したんにどこにもおらへん!勝手に出歩かんというてな!」


「君は僕の保護者か!」


僕とザール君がコントをやる傍ら、リセルとエリンの方は少しばかり冷たい空気が流れていた。


「……」


「あ、あはは……目が怖いよ、お姉ちゃん?」


「…許さない」


「あ、ちょ、ここでは嫌ーーーッ!」


どうやらリセルのくすぐり攻撃にエリンがやられたようだ。

容赦ないからなぁ~リセルは。

僕も昔にやられて以来、トラウマだ。


「……俺は先に帰るぞ」


「あ、リュラン君!……行っちゃった」


「付き合い悪いやっちゃな。少しぐらいおればええのにな」


「んー、まぁ、さっきまで戦ってたし、疲れたんだよ。仕方ないと思う」


「へぇ?あいつ戦ってたん?で、何位になってたん、あいつ」


「たしか50位だって」


「……」


再びブリザードが吹き始めた。

範囲はザール君の周囲数センチだけど。

あ、膝が落ちて地面を叩いてる。

とっても悔しそうだ。


「そ、そういえばお姉ちゃん。リュランくんの実力は見抜けなかったんだね」


「…どういうこと?」


「だって、いつも相手を見たら大体の強さが分かるって言ってるじゃない。リュランくんは何度かすれ違ってるけど、何にも言わなかったでしょ?」


「…(フルフル)彼は別格。私の力では戦っても負けが見えていた。だから戦う意思は見せてない」


「…や、やっぱり?」


どうやら、リセルは見抜けていないんじゃなくて、敵わないから静観していたみたいだ。

でも、なんで力を隠してるんだろうって話しに戻るんだけど…。


「そういやアランは争奪戦に参加戦でもええんか?」


「僕はある程度戦えればいいよ。代表になれると思ってないし」


「あかん!そんな考えは甘いで!!蜂蜜に砂糖を加えるぐらい甘いわ!!!」


「それ、絶対に気持ち悪くなるでしょ。…で、その根拠は?」


「なれるなれへんの話しやない。少しでも経験を積む意味を込めて戦うべきやと言うとんのや!」


「……たしかに」


「というわけで相手を探すで!善は急げや!!」


「だ、だから引っ張らないで~」


そのままザール君に引っ張られ、気がつけば闘技場の中央で対戦相手と向かい合っていた。

……いつの間に。


「私はサラ。よろしくね」


「ア、アランです!こちらこそお願いします!」


丁寧な挨拶に遅れながらも返事をしてバスターソードを構える。

サラさんが取りだしたのは細長い剣――たしかレイピアと呼ばれた刺突剣だ。

斬る事が出来ない代わりに突く事に特化した剣だった筈。


「それでは、始め!」


開始と同時にサラさんのレイピアが頬を掠る。

あ、あれだけの距離を一瞬で!?


「あら、ハズしたわ。次は当てるけど」


「くっ、せいっ!」


いきなりの攻撃に焦り、強引にサラさんに向かってソードを振りかぶる。

後で考えてみれば無茶な攻撃だったと思うけど、この時の僕にはこれが精いっぱいだった。


「これで…終わりよッ!」


声が聞こえたと思った瞬間、僕の意識は闇に落ちた。





「……っん。ここは…?」


「気が付いたんやな」


起き上がると同時にザール君の声が聞こえた。

周りを見渡すと、どうやら闘技場の休憩室みたいだ。

多分、負けたんだろうね。


「いや、すまんかった!ちょいと調子に乗りすぎたみたいや」


「ううん、大丈夫。全部勝てるとは思ってないし」


「あー、そのー、なんや。オレも順調やったし、アランやったらいけるんちゃうかって思ったんが原因やな。ほんま反省!」


僕が何言っても無駄みたい。

んー、僕は気にして無いんだけどなぁ…。


「じゃあ、今度ご飯食べさせてよ。それで終わりじゃだめ?」


「構わへん!もちろん奢らせてもらうで!」


とりあえず顔を上げてくれたからいいのか、な?





――――――――――

――――――――――

――――――――――





次の日。

クラスでは昨日行われた魔闘部の順位争奪戦の噂で持ちきりだった。

有名なクラブなだけあって、飛び交う噂の量もけた違いだ。

例えば、誰が昇格しただの、どんな魔法が見れただの、この先輩は可愛いだの……。

……最後のは魔闘部限定じゃない気がするけど、無視無視。

ところで、あの後の結果をリュラン君に何とか教えてもらったところによると、リュラン君は変わらず50位で、クラベリアさんが47位になったことを知った。

あれ、負けた人って闘技場から出されてた気がするけど、気のせいなのかな?


「その認識でほとんどあっている。ただ、負けたら出されるのではなく致命傷を受けたら出されるだけだ。あいつは負けたとはいえ、致命傷を受けて負けたわけじゃないからな。あの後、休憩をはさんで上位の者と戦い、堂々と勝っていた」


「へ~やっぱりクラベリアさんはすごいんだね!でもでも、そのクラベリアさんに勝ったリュラン君はもっとすごいんでしょ?」


「……出来るだけ人前で話さないでくれ。彼女はないと思うがその信者が報復しに来るかも知れん。ただでさえ面倒事が多いのにこれ以上増やしたくない」


「ん~…そんな過激な事をする人がいるのかなぁ?あ、そうだ。皆の前で実力を見せたらいいんじゃない?そうすれば下手に何か言われることも少なくなると思うけど?」


「……勘弁してくれ。俺は静かな方がいいんだ」


普段は見せないうんざりとした顔で頼みこんできたリュラン君を見て、やっぱり彼も人なんだって事を再認識した気がする。

でも、静かな方が良いって言う割には昨日は目立ってたよね。

それに、今回噂にされなくても代表に選ばれれば問答無用で目立つと思うけど。

主に、学園中で。


「そういえば、ザール君知らない?今日はまだ見てないんだけど」


「さぁな。…そろそろ講義が始まる。席に戻れ」


「あ、うん」


最後はいつもみたいに無表情になってしまった。

今日みたいに話せばもっとみんなと仲良くなれると思うんだけどな。

孤独に慣れてるって感じだったけど、僕には耐えられないや。

…どうにかできないかな…?





∽to be continue∽

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