第十話
勢いのまま更新。
この勢いがどこまで続くのか……。
「諸君!今日は毎月行われる順位争奪戦の日だ!各人、上を目指し、代表の座を掴め!!」
『おおおおおおおおおお!!!』
「新入生諸君は全く分からないだろうが、説明は後だ!まずは開催を宣言する!!」
『いえええええええええ!!!』
魔闘部のメインホーム、第3闘技場が熱狂的な声で揺れる。
僕たち新入生は何のことだかさっぱりなのでこの空気についていけない。
――いや、1人だけ乗ってる人がいた。
「いえええええええええ!!!」
ザール君だ。
他の上級生に交じって声を張り上げていた。
「えっと…どういうことなの?」
「言葉通りの意味だろう。……何かの大会の代表の座を取るために順位を賭けて勝負するんだろう」
「そのまんまだね。でも、言われてみればたしかにそうかも」
隣で呆れてるリュラン君が冷静に説明してくれた。
前でグラルさんが言った言葉そのままだけど、考えてみれば本当にそのまんまだった。
ただ、何の大会かは分からないままだけどね。
「新入生諸君は前の方へ集まって来てくれ!今から順位争奪戦の説明をしよう」
グラルさんに言われ、前の方へと詰める。
グラルさんの近くではケリーさんが控えていて、何かを配る準備を始めているように見える。
「さて、急に言われても何のことだが分からんだろう。まずは魔闘部の大会について説明しよう。魔闘部は4カ月に1回、とある権利を各学園と賭けて争っている。それが……迷宮最深部の探索権だ」
『……………え?』
「またもや何を言っているのか分からない顔だな。まぁ、仕方ない。俺も入った当初はそんなもんだった。――迷宮は全員分かるだろう。大陸の全土に存在する魔物の住処、財宝の隠し場所、栄光の象徴――言い方は色々あるが、総称して迷宮と呼ばれている。その中でも最も凶悪とされている最深部と呼ばれる場所があるのだが……本来、腕に覚えがあるものならば誰でも入っていいのだが、学生に関しては死亡者を抑えるために各学園が権利の争奪戦を行い、勝利した学園のみが入る権利を得られる。その後はクラブの責任者が許可すれば入れるようになる訳だな」
「そして、来週末はその争奪戦の予選が。その2週間後には本選があります。そのため、毎年この時期は代表を決めるための順位争奪戦が行われることになっています」
「基本的に新入生には関係のない話なんだが……各リーダーから話を聞くところによると今年は粒が揃っているようでな。もし自分の腕に覚えがあるのならば、俺のところに参加の表明をして戦いに行くといい。場所は6から35までの闘技場ならどこでもいい。この闘技場の転移陣の近くに受け付けがあるんだが、そこにいるマネージャーに戦いたい者の名前かリストから選んだ名前を示すとどこにいるか教えてくれる。教えられた場所に行けば戦えるだろう」
「先に言っておきますが、代表は最大50名……。つまり、我がクラブの人数は1000を超えていますし、ほとんど確率はありません。新入生だけでも100人はいるのですし。なので、無理に参加する必要はありませんからね。――ああ、2人ほど強制参加です。その者は……レクスさんとリュラン君。君たちです」
ケリーさんの言葉で一斉に皆の視線がレクスさんとリュラン君へと向いた――って、レクスさんいたの!?
全く気が付かなかった……超有名人だからもっと噂されてても良いと思うんだけど?
因みに、当事者のレクスさんは無表情、リュラン君は面倒そうな顔でため息をついていた。
ちょ、指名してくれてるんだし、もっと嬉しそうにしてもいいんじゃない!?
「君たちの実力は我がクラブに力を与えてくれると信じています。お願いしますね。他にも力を示してみたい方は振るって参加しても構いませんよ。ただし、怪我については関与しないので、自己負担で治してください」
レクスさんはスッと向きを変えると受け付けの方へと向かう。
そして、皆が見ている目の前で受け付けの人と話をすると転移陣に乗ってどこかの闘技場へと去っていった。
リュラン君は……あれ、どこに行ったの?
「それでは解散です。練習したい人は練習場は空いているので好きにどうぞ。争奪戦に参加したい人は私かグラルに声をかけてから言ってくださいね」
その言葉で動きだしたのは――数十名。
そのほとんどがザール君に教えてもらった貴族の人たち。
やっぱり、教わってるから試したいんだろうね。
「ほい、アランも行くで」
「え、ちょ、僕はやらないよ!?」
「こんなおもろい行事に参加戦なんてつまらんで!リュランは参加させられとんのやし、オレらも殴りこみや!」
「ぼ、僕じゃ勝てないよ~!」
そのままザール君に引きづられたまま前の方へと進み、結局グラルさんの目の前まで来てしまった。
「部長!オレらも参加していいっすか!!」
「ん、構わん。怪我は知らんぞ」
「もちッス!おっしゃ、アラン、行くで!!」
「ふ、振り回さないで~!!」
そして、いつの間にか受付まで連れてこられていた。
……ここまで来たら1回ぐらい戦っておこうかな……。
「えっと、できるだけ弱そうな人と戦いたいんですけど……」
「うふふ。分かったわ。――そうね、18闘技場にいるトドロくんは2年生なんだけど、順位は895位。新入生を除いて下から100番ってとこね。今なら空いてるけど戦ってみる?」
「は、はい!」
「分かったわ。戦闘の連絡は此方からするからあなたは18闘技場に向かってね。それじゃ、頑張ってね」
「あ、ありがとうございます!」
受け付けの人に応援されて少しだけやる気が出てきた。
もちろん、全員に言ってるんだろうけど、やっぱりモチベーションが違う。
よし、頑張るぞ!!
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その頃、他の闘技場では――
「勝負あり!勝者、リセル・カーラー!順位が671位に昇格!」
「他愛も無いわね。いくら新入生相手だからって舐めすぎじゃないかしら?」
「勝負あり!勝者、ザール・フェルド!順位が799位に昇格!」
「しゃ!勝ったもん勝ちや!」
「勝負あり!勝者、エリン・カーラー!順位が745位に昇格!」
「あ、あの、ご、ごめんなさい」
「勝負あり!勝者、レクス・ディ・クラベリア!順位が141位に昇格!」
「……この程度か」
1-Dのクラスメイトが次々に快進撃を続けていた。
ただ1人、リュランだけが姿を消したままであった。
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視点を戻そう。
現在は18闘技場。
アランの初試合が始まるところである。
対戦相手はトドロ・ドロロだ。
「よ、よろしくね」
「こ、こちらこそ」
何だか似た者同士だと思った読者の方は当たりだろう。
このトドロという2年生……順位も試合ではなく、戦っていなかったために名簿順で付けられた順位なのだ。
故に、本格的な争奪戦は今回が初めてである。
「両者、構え――始め!!」
アランはバスターソードを、トドロは片手剣をそれぞれ構える。
両者、正眼の構えであるが、アランのソードはトドロの片手剣の倍以上の長さと大きさを誇る。
武器の性能だけであればアランに軍配が上がるだろう。
――しっかりと扱えていれば、だが。
「せいっ、やあ!」
「うわっ、あ、やめっ、ぐああっ」
――一方的にアランが攻めていた。
正眼の構えから振り下ろし、続けて右からの払い切り。
それに対し、トドロは構えを崩して右に避け、そのまま迫って来たソードを盾で防ぐ。
しかし、勢いに負けてそのまま吹き飛ばされる。
地面を転がりながら距離を取ろうとするが、アランはザールに教わった通り、武器を右腰に溜めたまま走り、距離を詰める。
そして、武器の間合いに入った瞬間、溜めていたソードを振り上げ、そのままトドロ目がけて叩きつける!
体制が崩れたままのトドロに避けることは出来ず、何とか盾を構えたが、盾が粉砕され、強烈な一撃を受けた。
「ぎゃああああああ!」
「勝負あり!勝者、アラン・クリアフォード!順位が895位に昇格!」
「……や、やった…やった!」
悲鳴と同時にトドロの身体が薄くなり、そのまま消えてしまった。
その光景に呆然としたアランだったが、続けて宣言された言葉に喜びを露わにした。
初の戦闘であったが、基礎の動きはきちんとできていた事に喜び、ザールに付添って教えてもらった練習は無駄ではなかったと実感した瞬間だった。
最も、相手が弱すぎたのも勝てた1つの要因ではあるが。
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そして、第6闘技場では静かに波乱の決着がついていた。
「ば、バカな……この俺が、やられるとは……ッ!」
まさか、といった表情をしたまま姿を消した青年。
その前に立つ者は装飾の少ない騎士剣を持ち、無表情のまま立っていた。
「…し、勝負あり!勝者、リュラン!順位が50位に昇格!」
「……」
「……まさか、ラウルがやられるとは……」
「ああ。こりゃ、とんでもない奴を引いちまったか…」
接戦の末、新入生であるリュランが5年生の実力者ラウルを打ち破り、過去に類を見ない昇格を果たした。
そして、この時点で暫定ではあるが、代表の座を得たことにもなる。
この試合を見学していた副部長ケリーや部長グラルを含む暫定代表者は唖然、呆然、苦笑、嘲笑、笑顔を見せ、新たな暫定者を歓迎した。
しかし、これは序章に過ぎなかった。
聖グランベリア学園魔闘部始まって以来の順位争奪戦の結末まで、残り……何話だろう?(笑
「最後の最後でメタ発言か……」
「いや、リュラン君もその発言は……」
∽to be continue∽