その婚約破棄、喜んでお受けします 〜婚約破棄の裏側〜
婚約破棄騒動の裏側です。
こちらは、笑えるノリで書いています。
説明少なめで、会話メインで書いています。
(アストレア国王)
エドワルド・フォン・アストレア
3人の間の呼び名は、エド
アルフォンスとルシウスの父親
会話は、「」(鉤括弧です)
(ルーヴェリア皇国皇帝)
アレクシウス・ヴァレリオン・フォン・ルーヴェリア
3人の間での呼び名は、アレク
ヴィオレッタの父親
会話は『』(ダブル鉤括弧です)
(ヴァルディア・グランフェルト帝国皇帝)
レオニダス・アウグスト・フォン・ヴァルディア・グランフェルト
3人の間での呼び名は、レオ
セレスティアの父親
会話は《》(二重山括弧です)
アストレア王国、王宮。
エドワルド・フォン・アストレア国王――通称エドは、自室の机に頬杖をついていた。
机の上に置かれているのは、一台の魔道電話。魔力を流せば、遠く離れた特定の相手とも会話ができる便利な魔道具だ。
エドは受話器を取った。
「……さて……出るかな?」
しばらくすると『はいはい、誰?』と眠そうな声が返ってきた。電話に出た相手は、隣国の皇国アレクシウス・ヴァレリオン・フォン・ルーヴェリア皇帝、通称アレクだった。
「アレク?」
『ああ、エドか。どうした?』
「お前、寝てた?」
『寝てないよ』
「声が完全に寝起きなんだけど」
『気のせい』
「……絶対寝てただろ」
『皇帝だって昼寝くらいするよ』
「開き直るな」
『というか、エドから電話してくるなんて珍しいじゃん』
「そうか?」
『お前、昔から一人で抱え込むタイプだったじゃん。学園のときもそうだったよね』
「なんで今その話をするんだよ」
『懐かしいから』
「俺は懐かしくない」
『あのときなんて、試験前日に――』
「やめろ」
『三人で――』
「やめろって!」
『先生の研究室に忍び込んで――』
「それ以上言うな!」
アレクが小さく笑った。
『まだ覚えてるんだ』
「忘れられるか!」
『僕はもう忘れたよ』
「嘘つけ」
『本当に』
「じゃあ、今なにを言おうとしたんだよ!」
『まあまあ』
「まあまあじゃない」
しばらくして、アレクが尋ねた。
『それで?』
「え?」
『相談があるんでしょ』
「ああ、そうだった」
エドは椅子に深く座り直した。
「実はさ、昨日うちのルシウスと、そっちのヴィオレッタ嬢が婚約したいって、執務室に訪ねて来たんだよね。まあ、ルシウスは無理やり引きずられて来た感はあったけど…。だから、アルフォンスからルシウスに変えてもいい?」
『まあ、いいんじゃない?』
驚くほどあっさりした返事だった。
「軽いなお前。え、いいの?」
『どうせ政略結婚だし』
「まあ……そうだけど」
『だったら本人たちが望む相手と一緒になったほうがいいじゃん』
「それもそうだけど」
『それにさ、うちのヴィオレッタ、言っちゃあなんだけど、メチャクチャわがままで手に負えないと思うんだよね』
「……」
『そんな子と相思相愛になってくれるなんて、奇特な相手がいたんだねぇ。はっはっは』
「お前、自分の娘だろ」
『いやあ、親だからこそ分かるんだよ』
「分かるんだ……」
エドは頭を抱えてしまう。
そんな様子をよそに、アレクが続ける。
『あの子、昔から欲しいものは欲しい、嫌なものは嫌、気に入らないことがあったらすぐ文句』
「知ってる」
『アルフォンス君、大丈夫?』
「何が?」
『あの子と結婚しなくて』
エドは少し黙ってから返事をした。
「…………まあ」
『まあ?』
「正直、最近ヴィオレッタ嬢の対応が大変そうで、ちょっと心配だった」
『だよねぇ』
「お前が言うなよ!」
『あはは』
そのとき、別の魔道具が鳴った。
エドは「あ」と声を漏らす。
「レオからだ」
『あ、俺も繋ぐ?』
「お前もいるの?」
『今ちょうど暇だった』
「皇帝が暇って言うなよ」
『いいじゃん』
「じゃあ三人で話すか」
エドが魔道具を操作すると、通信が三人に繋がった。
《おーい!エド!》
やたらと元気な声が響く。
「うるさい」
《第一声がそれ!?》
「お前は昔から声が大きいんだよ」
《だって久しぶりなんだから仕方ないじゃん!》
『いや、昨日も話したよね』
アレクが淡々と突っ込む。
《あれ?アレクもいたの?》
電話の相手は、ヴァルディア・グランフェルト帝国皇帝レオニダス・アウグスト・フォン・ヴァルディア・グランフェルト。
通称、レオ。
大陸最大の帝国を治める皇帝である。
ただし、この三人が揃うと、皇帝二人と国王一人という肩書きは、ほとんど意味を持たなかった。
エドとアレクの二人は、十三歳から十八歳までの五年間、ヴァルディア・グランフェルト帝国へ留学していた。そこで同じ学園に通った同級生。
つまり、ただの悪友だった。
「なんか、この三人で集まると急に学生時代に戻るよな」
《だって楽しいじゃん》
『分かる』
「分かるな」
《エドは相変わらず真面目だなぁ》
「お前らが不真面目すぎるんだよ」
『昔からだろ?』
「そこを自慢するな」
《でもエドも一緒に悪ふざけしてたじゃん》
「……」
《してたよね?》
「……少しだけ」
『少しだけ?』
《学園の池に先生の靴を浮かべたの、誰だったっけ?
》
「…………」
『エド』
「違う」
《エドだったよな》
「レオ、お前が言い出したんだろ!」
《そうだっけ?》
「そうだよ!」
『じゃあ実行犯は?』
「……俺」
《ほら》
「お前が逃げたからだろ!」
《だって捕まったら怒られるじゃん》
「俺も怒られたよ!」
《でもお前、反省文めちゃくちゃ綺麗に書いてたよね》
『ああ』
アレクまで思い出したように笑う。
『「二度とこのようなことをしません」って』
「……」
《次の日またやったけど》
「レオ!」
『はははは!』
「アレクも笑うな!」
『ごめん』
「絶対ごめんと思ってないだろ」
《『うん』》
「おい!」
二人の笑い声が響く。
国王と皇帝。本来なら、気軽に冗談を言い合えるような関係ではない。だが、この三人にとっては関係なかった。
ヴァルディア・グランフェルト帝国に留学したとき、五年間、三人は同じ学園で同じ寮に入り、同じ授業を受け、同じ食堂で飯を食べた。同じ王子という身分で、気を使う必要もなかったことも大きかった。
三人でいつもつるんで、たまには喧嘩もした。
悪ふざけもした。
試験前には一緒に勉強し、誰かが落ち込めば、残りの二人が騒いで無理やり笑わせた。
だから今でも、三人だけで話すときだけは、国境も身分も関係なくなる。
《で、何の話してたの?》
「ヴィオレッタ嬢の婚約者を、ルシウスに変更する話」
《じゃあアルフォンス君、フリー?》
レオは嬉しそうに返してきた。
「まだこれから手続きするけどな…というか、アルフォンスの婚約が白紙になるのに、嬉しそうにするな!」
『だってさ』
それでも、まだレオの声が妙に嬉しそうになる。
《この間、うちの末姫のセレスティアに聞いたんだよ》
「何を?」
《どんな人と婚約したい?って》
『それで?』
アレクが聞く。
《君のとこのアルフォンス君みたいな人ができれば良いです、って》
「…………」
『…………』
《…………》
三人の間に、微妙な沈黙が流れた。
最初に口を開いたのはアレクだった。
『エド』
「何?」
『お前の息子、モテモテだね』
「なんで俺に言うんだよ」
『親だから』
「お前も親だろ」
『俺の娘は、ルシウス君と婚約し直すんだろ?』
「そうだけど」
『じゃあ、問題ない』
「問題大ありだよ」
レオが割り込んだ。
《それでさ、アルフォンス君がフリーになるなら―》
「嫌な予感がする」
《うちのセレスティアと婚約でもいいよね?》
「早い早い!」
《え?でも婚約者いなくなるんでしょ?》
「いやだからって、白紙にした直後にまた別の相手を政略であてがうのは……」
エドは少し困った顔をする。
「アルフォンスが、流石に可哀想じゃないか」
《え?》
「え?」
《でも君さ》
レオの声が、妙に楽しそうになった。
《昔、うちの国の公爵令嬢が婚約破棄された直後に、婚約を申し込んだよね?》
「…………」
《政略でいいからって、めちゃくちゃ迫ったよね》
「…………」
《断られてたけど》
「………………」
《しかも、その公爵令嬢》
レオが笑いを堪えている。
《今の俺の嫁だけど》
『懐かしいな』
アレクも笑う。
「思い出させるな!」
《だって面白いんだもん》
「黒歴史なんだよ!」
『エド、あの頃は若かったね』
「アレク! お前は慰めろ!」
『無理』
「即答するな!」
『ちなみに僕は全部覚えてる』
「お前まで!」
『お前、花束を三回渡して、三回断られてたよね』
「言うな!」
『四回目に裏庭に呼び出して――』
「アレク!」
『「政略で構わない」って』
「やめろぉぉぉ!」
《『ぷっ』》
「……」
《『ははっ』》
「……」
《『あははははは!』》
「うわぁぁあああ!!」
エドが頭を抱えた。
「思い出させないでくれ!」
《いやー、懐かしいなぁ》
『四回目の時は、土下座までしてたよね?』
「してない!」
『してた』
アレクが淡々と答える。
「アレクまで!」
『俺、見てたから』
「お前もいたのかよ!」
『いたよ』
「忘れろ!」
『無理』
「頼むから忘れてくれ!」
レオが腹を抱えて笑っている。
《いやあ、まさかあのエドがねぇ》
「昔の話だろ!」
《その公爵令嬢が今の俺の妻っていうのが、また面白い》
「それ以上言うな!」
《じゃあ黙っとく》
「本当か?」
《うん》
「絶対だぞ?振りじゃないぞ?間違ってもうちの嫁に言うなよ?俺殺されるぞ?」
《その代わり――》
レオの声が急に真面目になる。
《うちの末姫とアルフォンス君、婚約ってことで》
「……」
《よろしくね☆》
「お前……」
《だって、セレスティアもアルフォンス君がいいって言ってるし》
「……本人同士が望むなら」
《じゃあ決まり!》
「ただ、今度の舞踏会でいきなり婚約発表とかは――」
《大丈夫大丈夫》
「本当か?」
《うちから正式な書状を持たせる》
「書状?」
《皇帝である俺が、正式に婚姻を認めるっていうやつ》
「そこまで話が進むのかよ」
《うん》
「早くない?」
『レオ、昔から思いついたら即行動じゃん』
《娘の婚活は親の仕事だから♪》
「お前、さっきまで俺の黒歴史で笑ってただろ」
《それとこれとは別》
アレクが口を挟んだ。
『じゃあ、こっちも変更了承の書状を送るよ』
「ヴィオレッタ嬢とルシウスの?」
『そう』
『正式に、アルフォンス君からルシウス君へ婚約相手を変更することを、皇国として了承したって書状』
「助かる」
『これで三方丸く収まる』
「……まあ、そうだな」
エドは少し考えた。
「じゃあ、貴族院にも説明して――」
そこで、レオが言った。
《あ》
「何?」
《そういえば、セレスティアの書状なんだけど》
「うん」
《今度のそっちでする舞踏会で、アルフォンス君に渡すように言っとくから》
「うん?」
《本人から直接渡して、求婚するように言っとく》
「……」
《よろしくな⭐︎》
「……本当にそれでいいのか?」
《いいよ》
『俺もいいと思う』
「お前ら、軽すぎない?」
《だって昔からこういうノリじゃん》
『そうそう』
「皇帝二人がそれでいいのか……」
《いいんだよ》
『いいじゃん』
エドは大きくため息をついた。
「じゃあ、二人の婚約を了承する方向で進めるよ」
《よろしくー》
『エド』
「何?」
『セレスティア嬢は、うちのヴィオレッタと違って良い子だから、アルフォンス君、きっと大丈夫だよ』
「うん」
《だから》
アレクとレオが同時に、明るい声で続ける。
《『あとは親父三人で見守ろう』》
「親父三人って言い方やめろ」
『じゃあ、おっさん三人』
「もっと嫌だ」
《国王一人、皇帝二人》
『肩書きだけなら偉そう』
「お前らな……」
三人の笑い声が重なり、通信を切った。
王の自室、静寂の中にエド一人が残された。
エドはしばらく天井を見つめた。
「はぁ……なんか」
嫌な予感がする。
「ものすご〜く嫌な予感がするんだが」
しかしこの時点では、まだ何も知らなかった。
まさかヴィオレッタが、大勢の貴族が集まる舞踏会で、堂々と婚約破棄を宣言するなど。
このときのエドワルドには、想像もできなかった。
◇
そして数日後、王宮で舞踏会が開かれた。
予定通り、ルーヴェリア皇国からは、変更了承の正式書状が届いていた。
ヴァルディア・グランフェルト帝国からも、セレスティア嬢が、婚姻に関する正式な書状を持参しているはずだった。
すべては順調だった。
少なくともエドワルドがそう思っていた、その瞬間までは。
大広間の中央階段、そこにヴィオレッタとルシウスがに現れる。そして
「アルフォンス様!」
大声が響いた。
会場中の視線が集まる。
遠くで見ていたエドは、嫌な予感を覚えた。
「……おい」
エドは隣の重臣に声をかけた。
「何ですか、陛下?」
重臣が尋ねる。
「……あの二人、何してんの?」
「いえ……」
「普通に書面で変更手続きするって言ったよな?」
「……はい」
「……だよな」
次の瞬間。
「アルフォンス様との婚約を破棄します!」
会場が静まり返った。
エドはゆっくりと目を閉じた。
そして「はぁ……」深いため息をつき天を仰ぐ。
「ほんと……何してるんだ、あの二人」
◇
その頃会場の角では、セレスティアがその様子を見ていた。
「姫様、行かれるのですか?」
「お父様から、大々的に求婚しておいでって言われましたもの」
セレスティアは手元の書状を見つめた。
そこには、父レオニダス皇帝の正式な印章が押されている。大陸最大の帝国皇帝が、正式に認めた婚姻の申し入れである。
セレスティアとアルフォンスの婚姻を、帝国として承認し、全面的に支持するという書状だった。
しかも、アストレア陛下も了承済みだという。
「お父様は、最初から分かっていたのですね」
「何をでしょう?」
「今日の婚約破棄のことをですわ」
「そう……でしょうか?」
もちろん知るわけがない。
悪ふざけが好きな父レオニダス皇帝は、面白がって要らぬことを吹き込んでいただけだった。
「ただ……」
セレスティアは少しだけ困ったように笑った。
「まさか、こんなに派手に婚約破棄をなさるとは思いませんでした」
「ですよね……」
侍女も苦笑する。
「私もう少し静かなものだと思っておりました」
「私もです」
セレスティアは小さくため息をついた。
「……ですが」
彼女の紫色の瞳が、まっすぐ前を向いた。
「今度は私の番です」
◇
一方、舞踏会場。
婚約破棄を告げられたアルフォンスは――。
「承知しました」
驚くほどあっさりと答えた。
「……え?」
ヴィオレッタが固まる。
「よろしいのですか?」
「はい」
アルフォンスは微笑んだ。
「これで、お互いに望む人生を歩めますから」
その表情には、長年背負っていた重荷が、すっと消えたような安堵があった。
そして、そこへセレスティアが現れる。
「アルフォンス殿下」
「セレスティア姫?」
彼女は一礼すると、紫水晶の封蝋が施された書状を差し出した。
「こちらを」
「これは……?」
「私の父、レオニダス・アウグスト・フォン・ヴァルディア・グランフェルト帝国皇帝からの正式な書状です」
「……皇帝陛下から?」
「はい」
アルフォンスが封を確認する。
帝国の正式な印章に間違いない。
「内容は――」
セレスティアは少し照れながら言った。
「私とアルフォンス殿下との婚姻を、帝国として正式に承認するというものです」
アルフォンスが固まった。
「つまり……」
「はい」
セレスティアは微笑んだ。
「私との婚約を、父が正式に認めております。もちろん」
セレスティアは続ける。
「アルフォンス殿下のお気持ちを無視して、政略だけで決めるつもりはありません。私は、殿下に国より私を優先してほしいとは思いません」
アルフォンスの目が少し見開かれる。
「私は、殿下が国を大切にするなら、私も一緒に大切にしたいのです」
セレスティアは、まっすぐ彼を見る。
「……姫」
「ですから」
少しだけ頬を赤くしながら。
「もし、殿下がよろしければ――」
「はい」
返事は早かった。
「喜んで」
アルフォンスが微笑む。
その瞬間、遠くからエドが見ていた。
そして、頭を抱えた。
「話が早すぎるんだよ……」
だが、少しだけ笑った。
「まあ……」
息子の表情を見れば、答えは明らかだった。
「これでいいか」
◇
そして数か月後。
「ルシウス様!」
「はい!」
「どうして私のドレスがまだ届いていないのですか!」
「えっと……昨日注文したばかりだからです!」
「遅すぎますわ!」
「いや、昨日だよ!?」
ルーヴェリア皇国から聞こえてくるのは、今日もヴィオレッタの声。
「私は今すぐ欲しいのです!」
「無理だよ!」
「では婚約を破棄します!」
「またそれ!?」
ルシウスの悲鳴が響く。
その頃、別の部屋で、エド、アレク、レオの三人が魔道電話を囲んでいた。
『……どう?』
「大変そうだよ」
『そっかぁ』
《まあ、本人たちが選んだ道だからな》
「お前ら、他人事だな」
『俺はちゃんと変更了承したよ?』
《俺も婚約書状まで持たせたよ?》
「そうだけど」
『じゃあ問題ない』
エドはため息をついた。
「ところでレオ」
《ん?》
「お前、昔の黒歴史の件、王妃には言ってないだろうな?」
《言ってないよ》
「本当か?」
《もちろん》
「ならいいけど」
《ただ――》
「何?」
《この前、王妃に聞かれた》
「…………何を?」
《若い頃、何か面白いことしなかった?って》
「…………」
《危なかったから、黙ってた》
「絶対に言うなよ!」
《分かってるって》
『エド、昔から心配性だな』
「誰のせいだ!」
三人の笑い声が、魔道電話越しに響いた。
かつて学園で馬鹿騒ぎをしていた三人。
今ではそれぞれ、国を背負う立場になった。
それでも、昔と変わらない関係だけは、続いている。
そしてエドワルドは思う。
「……まあ、結果オーライか」
ヴィオレッタは自分の望む相手を選んだ。
ルシウスもまた、自分の望む未来を選んだ。
そしてアルフォンスには、自分を理解し、共に歩んでくれる女性が現れた。
「……うん」
エドは満足そうに頷いた。
「これでよし……でもな」
ふと、舞踏会の光景を思い出す。
「大勢の貴族の前で婚約破棄はないだろ……」
エドは深々とため息をついた。
「はぁ……あいつら、何考えてるんだ」
一方、ルーヴェリア皇国との関係も悪化することはなかった。
なぜなら。
「ルシウス様!」
「はい!」
「どうして私のドレスがまだ届いていないのですか!」
「えっと……昨日注文したばかりだからです!」
「遅すぎますわ!」
「いや、昨日だよ!?」
ルーヴェリア皇国から聞こえてくるのは、今日もヴィオレッタの声。
「私は今すぐ欲しいのです!」
「無理だよ!」
「では婚約を破棄します!」
「またそれ!?」
ルシウスの悲鳴が響く。
「分かった! 急がせるから!」
「本当ですか?」
「本当!」
「では許します」
ルシウスは深いため息をついた。
「……本当に疲れる」
「何か言いました?」
「何も言ってません!」
「なら、よろしいですわ」
ヴィオレッタは満足そうに笑う。
ルシウスはそんな彼女を見て、またため息をついた。
けれどその表情には、どこか楽しそうな色があった。
「……まあ」
小さく呟く。
「こういうのも、悪くないか」
「ルシウス様?」
「何でもないよ」
「なら、次はーー」
「まだあるの!?」
「もちろんですわ!」
「……やっぱり大変だ」
それでも二人は、なんだかんだ言いながら一緒に歩いていく。国王の自室に、今日も深いため息が響いた。




