エピローグ
「アマリア、ちょっと待ってくれ」
廊下を歩いている時、急にアレクシスから声をかけられた。
「どうされたのですか?」
「少しの間、目を閉じてくれないか」
唐突な要求だった。
アマリアは少し困ったような笑みをこぼす。しかしアレクシスが真剣な眼差しを向けてきていることに気付き、目をぱちくりさせた。
アレクシスは彼女の手を引き、「さあ」と目を閉じるよう促した。
「俺の手を握って、信じて付いてきて欲しい。見せたいものがあるんだ」
アマリアは多少困惑したままだったが、アレクシスのことは信頼していた。何か考えがあるのだろう。
彼の言葉通りに目を閉じ、手を握って歩き出す。
暗い。視界が無くなったまま歩いていると、方角さえ不確かだ。
1分以上は歩いただろうか。アレクシスが急に立ち止まった。すぐ近くで扉の開く音がして、その中に引き入れられるのが分かった。
「さあ、目を開けてみて」
恐る恐る目を開けた瞬間。
「すごい……!」
アマリアは興奮して口を手で覆った。
まるで異空間に居るのかと錯覚しそうになる程だ。今まで、屋敷にこんな場所は無かったはずだ。
10メートル四方ほどの部屋に、天井まで続く本棚が壁を囲むように立ち、その本棚の中にはびっしりと本が並んでいた。
夢のような空間だ。これほどの本の数と種類を集めるには、かなりの金額が必要だったはずだ。手間もコストも計り知れない。
「君が本を好きなことを知った時から、どうしても書斎をプレゼントしたかったんだ。でも、集めるのに時間がかかってしまってね」
書斎と言うより図書館に近い。それほどの品揃えだ。
アマリアは一度廊下に出てみた。間違いなく住み慣れた屋敷だ。
再び部屋に入ってあることに気付く。
この部屋では、数日前まで工事が行われていた。アレクシスからは「古くなったから改築している」と説明されていた場所だ。
彼はアマリアを驚かせるため、ずっと内緒でこの書斎を作り続けてくれていたのだ。
「ありがとうございます! アレクシス様!」
嬉しさのあまり、気持ちが高ぶってアレクシスに抱き着いてしまった。
「あ、ご、ごめんなさい。私、はしたなくて……」
直後、恥ずかしくなって離れる。
目を逸らすアマリアを、アレクシスは優しく抱き寄せた。
「アマリア、俺は君が笑う顔が世界で一番好きだと言っただろう。そのためなら何だってするさ」
彼にその言葉を言われるのが好きだった。アレクシスがアマリアの笑顔を世界一好きだというように、アマリアも彼に笑顔を褒められることが一番嬉しいことだった。
アマリアはアレクシスの目を見つめ、はにかんで見せた。
徐々に二人の顔が近付く。
アマリアはゆっくり目を閉じた。
今度は邪魔は入らないらしい。
おわり
最後までお読みいただきありがとうございました!




