青空と離歌
読んでいただきありがとうございます。
あの日からお嬢様の顔を見ていない。
ただ一日に一度昼過ぎに、テラスから聞こえる悲しく澄んだ歌声だけが聞こえる。
せめてお嬢様の眺められる、この庭だけは美しく。
俺はポケットのキャンディーを握りしめた。
お嬢様はあの事件以来、部屋から出てこなくなり奥様にせめてテラスには出る様に言われ、部屋に面した広いテラスに出てきては、離歌を切なげに歌っている。
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雨は降っていないのに雷の鳴るあの夜。
夜分に多くの馬車が門に集まるのに驚いた俺は。
様子を見に行った正門で、女性騎士に支えられ青ざめ憔悴しきった、リナリアお嬢様がホールに入っていくのを見た。
「旦那様大変です。
お嬢様の乗った馬車が襲われました。」
シベク侯爵家の家令が玄関ホールに転がり込んでくる。
「リナリアは無事なのか!」
「幸いにも、近くに警邏中の騎士がおり大事には至らなかった様子で。
お嬢様は今、騎士団に付き添われ怪我など無いか医師に診ていただき。
騎士に送られ、もうすぐ到着されます。」
「失礼する」
「ああ。ゾール団長!」
数名の騎士を連れた、大柄な男性が入ってくる。
「シベク侯爵。ご令嬢は怪我も無く大事無いが、相当ショックを受けている様子だ
大事にしてやってくれ」
「この度は、娘を助けていただき本当にありがとうございました」
「さあさあ。お嬢様こちらに」
「まあリナリア。かわいそうに」
奥様がリナリアお嬢様を抱きしめる。
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お嬢さまの乗る馬車が、族に襲撃された。
族の目的は、令嬢を誘拐しシベク侯爵から金を巻き上げる事だった。
幸いにも攫われる前に族は騎士団に捕まり、怪我は無かったがその日からお嬢様は人が、特に男性が怖くなり部屋から出られなくなった。
あの日から既に10日、どうにか少しでもお嬢様の心が休まる様にと祈る事しかできない。
「ミアこれを今日もお嬢様に届けてくれないか?」
「まあきれいなアジサイね。お嬢様きっと喜ぶわ昨日の、ピンク色のバラも可愛かったわ。
飾った時に、リナリアお嬢様が毎日丁寧に庭を整えてくれて、お花を届けてくれてありがとうと
オリーにお礼を言ってねと伝言を預かったのよ」
「少しでもお嬢様の気持ちが安らぐならよかった」
俺はうつむきながら返事をした。
「じゃあ。早速お部屋に飾りに行ってくるわね」
ミアが手を振り掛けて行った。
俺はこのシベク侯爵の先代庭師に10歳の時に弟子入りし奉公にでた。
先代は子供でも容赦なく厳しく庭の管理を教えてくれた。今では感謝しか無いが、家を出て直ぐの俺にはかなり堪えた。
その頃は良く、家族が恋しくなり道具小屋の裏で膝を抱えて泣いていた。
そんなある日、トントンと肩を叩かれ見上げると、ピンクのふわふわのドレスを着た花の妖精みたいにかわいい女の子が立っていた。
「お兄ちゃん、どこか痛いの?」
「痛くないよ大丈夫」
俺は慌てて涙を袖で拭った。
その後女の子は俺の横に座り、レッスンが辛くてこっそり逃げ出したこと。
昨日のお茶のクッキーがとってもかわいくて美味しかったこと。
お父様はいつも怖い顔で怒るけど、本当は優しいから大好きなこと。
いろんな事をたくさん話すと、右手に何か握って俺に差し出した。
「お兄ちゃんお名前はなんて言うの?
お兄ちゃんとお話しして、元気が出たからこれ上げる。
甘くておいしいのよ」
「名前は、オリー。。。。」
差し出されたものを受け取ると、紙に包まれた小さなキャンディーが二つ。
「じゃあねオリー。またね」
女の子は笑顔で手を振りお屋敷に戻っていった。
「あ。ありがとう」
俺はきれいな琥珀色のキャンディーを口に入れた。
甘くてほろ苦かった。
キャンディーを貰ったあの日から俺はずっとお嬢様を見も持ってきた。
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しばらくすると、お嬢様の歌声を庭先で聞く、俺と同じ年くらいの身なりの良い男性が毎日現れる様になった。
男性は、ライド伯爵家のアーロ様と言うらしい。
旦那様と商談の話をしに来て商談が終わると庭に立ち寄り、テラスからは見えない位置で、ただ耳を澄ませてお嬢さまの声を聴いて帰る。
ミア曰く。
「のちに、公爵様になられる人よ~。あのきれいなサラサラな金髪と澄んだ青い瞳。素敵ね~」との事だ。確かに男の俺が見ても美しいと思う。
そんな事が続く良く晴れた日、ライド伯爵様に声をかけられた。
「君、庭師のオリーだね。
侍女の方から、こちらのハウスに赤いカランコエがあると聞いたのだが
譲ってはもらえないだろうか?」
侯爵家の庭には先代から譲り受けた、ガラス張りのハウスと日差しを好まない日陰を作ったハウスが二つある。
「ああ。 ありますが、花は見ごろを過ぎて、少し色が淡くなっています。それにお譲りするには、旦那様の許可を得ないと」
「シベク侯爵にはもう許可は貰ってあるよ。
鉢毎譲ってもらえると嬉しいのだが」
「旦那様の許可があるならば、今すぐ準備いたします」
花がだいぶ少なくなった、赤いカランコエの鉢を渡すと、ライド伯爵は嬉しそうに受け取り、これは君へのお礼だと金貨を一枚置いて行った。
俺は何もしていないし、貰うわけにはいかないと思い、旦那様に金貨の事を相談すると取っておいていいと返され。使いにくければ銀貨や銅貨に変えてくれると言われた。
それから一種間ほどして、庭園でお嬢様がお茶会を開く事になった。
俺が丹精込めたバラ園に小さなテントが張られ、テーブルと椅子が準備された。
久しぶりにお嬢様がお部屋から出ると聞いて嬉しかった。
家令の許可を得て、庭の片隅で様子を見せてもらった。
お嬢様は、ライド伯爵の腕を取り、柔らかな笑顔で庭に降りて来た。
その姿はまるで、ラブリーモアの様に可憐に咲き誇っていた。
庭園でのお茶会から数日する、リナリアお嬢様は時々ミアと庭を散歩する様になり、あの切なげな歌も聞かなくなった。
使用人も男性はまだリナリアお嬢様には近づかない様に指示を受けている。
俺はお嬢様の散歩のときはできるだけ、ハウスの中に居る様に務めた。
ギ-。
ハウスの扉が僅かに開く。
「オリーいる?」
「ミア?どうしたんだ。今行く」
ハウスを出るとそこにはミアと、にこにこ笑うリナリアお嬢様が立っていた。
「お嬢様!」
驚いて、ハウスに戻ろうとする俺をお嬢様が呼び止める。
「待って、オリー」
振り返るとキャンディーをくれたあの日と変わらない、真直ぐで綺麗な瞳と目が合った。
「あの。オリーに、お礼を言いたくて。。。。ふさぎ込む日々の中で、あなたが毎日届けてくれる色とりどりの花が私の心を癒してくれたわ。
ミアも生けながら、花言葉や色の意味なんかを教えてくれるのよ、毎日届くのが楽しみだったわ。
私は、みんなに大切にされて幸せ。
オリー優しい気持ちをありがとう」
「いえあの。自分こそお嬢様にそのように言っていただけて」
「あのカランコエの鉢もあなたが丁寧に育ててくれたものなんでしょ
わたし、あのかわいらしい花と共に、アーロ様の気持ちを受け取ったのよ
前に進む勇気を貰ったわ」
少し話して、お嬢様は手を振り帰っていった。
数週間後、ライド伯爵とお嬢様の婚約が発表された。
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季節は流れ、良く晴れた夏めくその日。
お嬢様が結婚式を迎えた。
教会で式を挙げ、ライド伯爵の生家、フテラム公爵家の庭園で披露パーティーが行われるらしい。
俺はミアに両手いっぱいのラブリーモアの花束をお嬢様に渡してもらえる様に頼んだ。
遠くに去っていく数台の馬車を見送りながら、俺はポケッツトから古びた紙切れに包まれ、少し溶けて
形が変わってしまったキャンディーを取り出した。
つまんで口に放り込んだ。
キャンディーの味は、ただただ甘いだけだった。
~ 終わり ~
いつも誤字脱字などありがとうございます。
バラの品種が、新しいものですみません。




