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青と蒼  作者: ハマジロウ
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第5章 運命のスタートライン



秋大会にむけ、背番号発表の日




全部員はミーティングルームに集まる




監督が一枚ずつ


ホワイトボードに番号を貼っていく。


部屋は静まり返っていた。


誰もが、自分の番号を待って息を飲む。




佐々木コーチは、番号を読み上げてゆく




佐々木


「1番、エース、ピッチャー、2年 角石」


「2番、捕手、2年 高橋」




新エースと最強バッテリーの誕生に、


部屋の中は一気に盛り上がった




角石は当然だろ!


って言わんばかりのドヤ顔で、


喜びを隠せずにいる




高橋は、


予想通りとはいえ、安堵の顔と、


角石を優しい表情で見つめている




後輩A


「やっぱりエースは角石さんっすよね!」


後輩B


「来年は甲子園マジ行けるんじゃ!」




その後、


順調にレギュラーの、発表は続き、、




佐々木


「11番、ピッチャー、1年 岡谷」




一年としては異例のレギュラー番号。


その瞬間、部屋の空気が揺れた。




2年部員A


「マジか…」


2年部員B


「一年で11番?無茶じゃない?」


2年部員C


「いや、でもあいつ最近すげぇから…」




ざわつく声。


岡谷は小さく頭を下げたが、


その目だけは静かに闘志を燃やしていた。




控えめで丁寧な敬語の裏に、


誰よりも負けず嫌いな勝ち気さを


俺は知っている。




――こいつは、やる。




続いて番号が読み上げられる。





(……12番。


ここで呼ばれなかったら、終わりだ)


(頼む……頼む……俺を見てくれ監督)




佐々木


「12番、捕手‥‥2年 佐伯」




俺は思わずガッツポーズ、


胸が熱くなる。


ベンチだが、念願のレギュラー入り。




一年からほぼ無視され続けていた俺が、


ようやくチームの一員として


認められた瞬間だった。



去年、母に泣くのを堪えて


「大丈夫!レギュラーになるから」


と電話で話したあの日を思い出す、、




でも同時に、


背後ですすり泣く声も聞こえた。




2年部員A

「俺、終わったわ‥‥」




レギュラーを逃した二年生は、


秋大会でほぼ未来が決まる。




“秋を逃した二年は、ほぼ引退まで出番なし”




強豪校の残酷な現実だった。


歓喜の声と悲哀の泣き声が


うずまくミーティングルーム




悔しさで


顔を伏せている同期を横目にしながら、


俺は


手渡された背番号「12」をそっと握りしめた。




ざわめきの中、


部員たちが次々と部屋を出ていく。


笑う者、俯く者、肩を落とす者。




俺は、手の中の背番号「12」を、


何度も確かめるように握っていた。






ミーティングルームを出た廊下




後ろから、小走りの足音。




岡谷


「先輩……!」




振り向くと、


岡谷が少し息を切らして立っていた。




岡谷


「本当に……おめでとうございます」





「……ありがとう」




一瞬、言葉が途切れる。





「正直さ、呼ばれた瞬間、頭真っ白になった」




岡谷


「分かります……僕もです」


「11番って聞いたとき、


耳がおかしくなったのかと思いました」




俺は思わず笑った。





「一年で11番は反則だろ」




岡谷


「そんな……」


「でも、嬉しいより先に……怖くなりました」





「……怖い?」




岡谷


「はい。周りの目もありますし、


失敗したら……って」




岡谷は視線を落とす。





「俺もだよ」




岡谷が顔を上げる。





「12番って、控えだけどさ……」


「“期待されてる”って番号だろ?」




岡谷


「……はい」





「期待って、正直、重い」




岡谷は小さくうなずく。




岡谷


「……先輩も、同じなんですね」




少しだけ沈黙が流れる。




俺は背番号を見つめながら、静かに言った。





「なあ、岡谷」




岡谷


「はい」





「お前がマウンドに立つときは、


俺が後ろにいる」




岡谷の目が、わずかに揺れた。





「正捕手じゃなくても、関係ねぇ」


「お前の球、ちゃんと受け止める」




岡谷は唇を噛み、深く頭を下げる。




岡谷


「……ありがとうございます」


「僕、先輩が捕ってくれるなら……


思い切り投げられます」





「それでいい」




廊下の先で、誰かが岡谷を呼ぶ声がした。




岡谷


「……あ、すみません」




立ち去りかけて、岡谷は一歩戻る。




岡谷


「先輩」





「ん?」




岡谷


「同じ番号じゃないですけど……」


「同じスタートラインですよね」




俺は、はっきりうなずいた。





「ああ。ここからだ。」




岡谷は少し照れたように笑い、


駆けていった。



◆◆◆


消灯前の屋内練習場




角石は小さなマウンドで拳を握りしめていた。




フォークは結局まともに決まらない。


球種が少ない弱点が、


徐々に露わになってきている。


外から見れば、


エースの座がぐらつき始めていた。




高橋もまた、


口には出さないが不安を抱えていた。


「一年の岡谷が11番」という事実が、


エースの座を脅かす可能性を


示していたからだ。




◆◆◆


俺は誰もいない食堂で、


配球ノートをまとめる


ふと、考える、、




俺は知っている




岡谷は控えめに見られがちだが、


内側には、


鋭い野心と強烈な負けん気がある。




(――あいつは絶対に伸びる‥‥


――そして俺は、 


その球を受ける捕手になる!)




秋大会の背番号は、


ただの数字じゃなかった。


それは地獄のような寮生活と


孤独だった一年目を経て、


俺と岡谷がつかんだ


“スタートライン”だった。








秋大会 一週間前


チームは試合を想定した練習に切り替わる




新エース角石はマウンドで、


投げ込みをおこなう


ストレート速球と


スライダーの組み合わせは、


依然として強力で、


誰もが彼を中心に秋を戦うと思っていた。




しかし――。




県内の強豪校は、


夏からすでに角石を研究していた。




球種が少ないこと、決め球に乏しいこと。


試合を重ねるほど、


それが弱点として如実に表れ始めた。




角石は焦っていた。


「負けるわけにはいかない」と思うあまり、




消灯まで


室内練習場で投球練習を繰り返す。




過度な投げ込み。


コーチからも心配されるほどだった。




――角石の中に、「限界」が見え始めていた。






そんな中、岡谷は静かに成長していた。


元々の制球力は高く、


ストレートの質も上がり続けていた。




ある日の練習後、監督が岡谷を呼び止める。




監督


「岡谷…お前、来春エースの可能性、あるぞ。」




小声で告げられたその一言に、


岡谷は固まった。


控えめな性格の彼は誰にも言わなかったが、


その瞳は確かに揺れた。




俺だけは、そんな変化に気づいていた。




◆◆◆


秋大会3日前


俺と岡谷は誰よりも早くグラウンドに出て、


誰よりも遅くまで残った。




俺のキャッチャーミットに


岡谷の球が吸い込まれる。


その感触が、


日に日に重く、速く、鋭くなっていく。




岡谷がフォークを織り交ぜ始めた。





「ストレートと違って、


肩に負担がかかるだろ?」




俺はミットを構えながら言う。




俺は


「フォークは温存しよう。


ここぞって場面じゃないと使わない。


岡谷の身体に


負担がかかるから心配なんだよ。」




岡谷は汗で濡れた前髪を指で払って、


小さく微笑んだ。




岡谷


「先輩は…優しいです。


そんなふうに言ってくれるの、


先輩だけです。


……嬉しいです。」




その言葉に、胸の奥が熱くなる。




俺は岡谷の球の伸びを信じていた。


そして、岡谷は俺のリードを信じていた。




ふたりの間には、いつしか


“チームメイト”を超えた確かな絆


が生まれつつあった。





秋大会 一回戦



秋の風が冷たくなり始めた頃、


秋大会のグラウンドに


は、例年とは違う空気が漂っていた。




まだ観客が入りきらない時間帯。




グラウンドの奥、ブルペンの影で、


角石は、


ロジンバッグを何度も握り直していた。




角石


「……なあ、智也」




高橋


「ん?」




角石


「正直さ……


今回は、ちょっと嫌な予感してる」




高橋はミットを膝に置いたまま、


黙って角石を見る。




高橋


「珍しいね。剛志がそんなこと言うの」




角石


「研究されてるの、分かるだろ」


「ストレートとスライダー…


もう読まれてる気がする」




高橋


「……それは、そうかもしれない‥‥」




否定しなかった。




角石


「俺、エースなんだろ?」


「だったら、


ちゃんと抑えなきゃいけないのにさ……」




角石は視線を落とす。


いつもの自信満々な態度は、


そこにはなかった。




角石


「もし今日、崩れたら……」




言葉が途中で止まる。




高橋はゆっくり立ち上がり、


角石の前に立つ。




高橋


「崩れたら? どうするって?」




角石


「……チームに迷惑かける」




高橋は一歩近づき、低い声で言った。




高橋


「剛志は、


“完璧じゃなきゃいけないエース”じゃない」




角石が顔を上げる。




角石


「……は?」




高橋


「点取られてもいい。苦しくなってもいい」


「でも――」




高橋は角石の肩を軽く叩いた。




高橋


「逃げない。それだけでいい」




角石


「……簡単に言うなよ」




高橋


「簡単じゃないから、俺がいるんだろ」




少しだけ、角石の表情が緩む。




角石


「……智也」




高橋


「剛志が投げたい球、全部受けるから」


「迷ったら、俺のサインだけ見ればいい」




角石は小さく息を吐いた。




角石


「……ありがとな」




高橋


「ほら、そろそろ行こう。エース」




高橋がミットを構える仕草をすると、


角石はゆっくり立ち上がった。




角石


「……ああ。行こうぜ」




その背中には、


まだ不安は残っている。


だが――独りではなかった。




◆◆◆


試合は始まった




角石がエース、背番号『1』


高橋は正捕手、背番号『2』


俺は控え捕手として背番号『12』


岡谷は控え投手で背番号『11』


一年としては異例抜擢。




俺にとって高校野球初の公式戦出場‥‥




嬉しさよりも、


静かな闘志が湧き上がっていた。




俺 


(――岡谷の球を、


グラウンドの中心で受けたい‥‥!


そのためには、


絶対に正捕手にならなきゃいけない!)




角石が先発で試合に臨むものの、


相手に研究されて苦しい展開が続いた。




一方で、


岡谷はベンチから冷静に試合を観察し、


俺は横でメモを取り続けた。




試合結果は 「4ー3」




試合は何とか競り勝つ、


しかし、角石は初戦から疲労していた。






秋大会 三回戦




選手たちが各自の準備に散っていく中、


青は一人、ミットの紐を締め直していた。




その背後から、低い声。




佐々木


「……佐伯」





「はい!」




反射的に背筋が伸びる。




佐々木


「今日は、やけに静かだな」





「……そうですか」




佐々木


「いつもなら、もう少し周り見てる」




青は言葉に詰まる。





「……試合、ですから」




佐々木は少し間を置く。




佐々木


「それだ」




青が顔を上げる。




佐々木


「“試合だから”って顔をしてる」




一瞬、青の喉が鳴る。





「……自覚あります‥‥。すみません」




佐々木


「謝るな」




佐々木は青のミットをちらりと見る。




佐々木


「お前、今日――誰の球を一番見てる?」




青は即答できなかった。





「……岡谷です」




正直な答えだった。




佐々木は驚いた様子を見せず、


静かに頷く。




佐々木


「だろうな」





「……」




佐々木


「悪いことじゃない」


「だがな、佐伯」




佐々木は一歩近づき、声を落とす。




佐々木


「捕手は、“一人だけ”を見る立場じゃない」




青は唇を噛む。




佐々木


「チーム全体を背負え」


「それが、次の段階だ」





「……はい」




少し沈黙。




佐々木はふっと息を吐いた。




佐々木


「……お前、焦ってるな」




青の肩が、わずかに揺れた。





「……正直、はい」




佐々木


「理由は聞かねぇ」


「だが――」




佐々木は青の肩を軽く叩く。




佐々木


「今日の試合、結果に振り回されるな」


「自分が“どう捕るか”だけ考えろ」





「……はい」




佐々木


「それが出来りゃ、今日は十分だ」




佐々木は踵を返し、歩き出す。




数歩進んでから、振り返る。




佐々木


「佐伯」





「はい!」




佐々木


「お前はな――」




一瞬、言葉を探すような間。




佐々木


「もう、“見る側”の捕手じゃない」




青は、その言葉を噛み締めた。




◆◆◆


大変相手は古豪の甲子園常連校




この日も角石が先発。


速球のキレはある、スライダーも悪くない。




だが――


この対戦相手も角石を完全に研究していた。




対戦選手A


「またスライダーだろ?」


対戦選手B


「ストレート狙い打ちでいけるぞ!」




スタンドから


そんな声が漏れ聞こえるほどだった。




三回、失点。


四回、連続四球。


ベンチの空気が重くなる。




角石は焦った。


マウンドで帽子を深くかぶり、


手のひらが震えている。




高橋が何度も声をかけるが


噛み合わない。




監督は腕を組み、


深く息を吐いた。




監督


「……岡谷、佐伯、準備しとけ。」




一年生が秋の大事な試合で登板。


異例中の異例だ。




岡谷は緊張で唇を噛んでいた。


俺は叩くように胸を張って言う。





「大丈夫だ。お前の球なら、


俺が全部止めてやる。」




岡谷は一瞬、俺の目を真っ直ぐ見て、


小さく頷いた。





五回裏




「ピッチャー、岡谷 背番号11!


キャッチャー、佐伯背番号12!」




コールが響いた瞬間、会場がざわついた。




スタンドの2年A


「この場面で一年!? 無茶だろ…」


スタンドの2年B


「いや、あの二人…最近やたら組んでるぞ。」




同級生たちは複雑な顔で見ていた。




相手4番のバッターがバットを構える。



俺は岡谷にサインをだす。



(まずはストレート外角いっぱい。


怖がるな、思い切り投げろ。)




岡谷


(はい…!)




投じたストレートは


角石ほどのキレはない。


客席からざわつきが起こる。




観客A


「なんだ、こんなもんか?」


観客B


「やっぱ一年には早いよ!」




だが――俺は冷静だった。




⚪️二球目


俺はインコースにミットを動かしながら、


ゆっくりサインを出す。




――フォーク(SFF)。


岡谷の決め球。




岡谷


(…先輩、本当にここで?)




俺はニヤッと笑った。





(お前の本当の球種は、


まだ誰にもバレてない。


なら今が一番刺さるタイミングだ。)




岡谷


(……わかりました‥‥)




岡谷は振りかぶる。


指先から抜けるような沈む球。




相手バッター


「っ……!」




落差が大きすぎて、完全に空振り。




スタンドが一瞬静まり返り――




対戦選手A


「今の…フォークか!?


一年があれ投げるのかよ!」


対戦選手B


「角石でも投げられねぇボールじゃん!」




ベンチもざわつく。


監督は小さな声で、




「……あいつ、やっぱり本物だ。」




と呟き、こっそりメモを取った。




⚪️そして三球目


俺は岡谷にサインをだす。



(高めのストレートで仕留めるぞ!)




岡谷


(はい!)




思い切り腕を振る。


高めに浮いた球に、


バッターは詰まらされ、ファールフライ。




――見事、切り抜けた。




岡谷はマウンド上で拳を握り、


小さく震えていた。




俺はマスク越しに笑う。




「ほらな。お前はやれる。」




岡谷は潤んだ目で言う。




「先輩… ありがとうございます。」







7回裏




角石が、


ベンチで悔しそうに拳を握りしめる。


高橋は、


胸の奥に言葉にできない不安を感じていた。




だが、


チームの雰囲気は明らかに変わった。




スタンド


「あのバッテリー、強ぇぞ…!」




ざわめきが広がり、


練習では空気だった俺にも、


視線が集まる。




監督は小さく言う。




「……この二人、


来春の軸になるかもしれんな。」







試合は 6-4 蒼陵の勝ち




岡谷の好投と、


終盤の集中打でチームは逆転。


格上相手に大金星を挙げた。




試合後――


今まで俺を無視していた同期が、


肩を叩いてきた。




2年センター レギュラーA


「お前ら、マジで凄かったぞ!」




2年サード レギュラーB


「お前、


あんなにキャッチング良かったのかよ!」




岡谷も嬉しそうに笑っていた。




角石は、


悔しさと嫉妬を隠せず、


高橋は、


どこか不安げに俺と岡谷を見ていた。





試合会場からバスに乗って帰校




チームは盛り上がって、寮内に入るなか‥‥




夕陽のグラウンドで、岡谷がそっと言う。




岡谷


「先輩……僕、先輩と春も夏も戦いたいです。


 だから、もっと強くなります。」




俺は肩を軽く叩いた。





「じゃあ行こうぜ。


 来年は、俺たちの年にする。」




――その日、生まれたバッテリーは、


チームの未来を変える存在になっていく。


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