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青と蒼  作者: ハマジロウ
4/9

第3章 変わり始める日常



翌日から、


俺と岡谷は正式に“練習バッテリー”


として組むことになった。



投球練習



ブルペンに入った瞬間、


岡谷が少し緊張した表情で言う。




岡谷


「先輩、今日もよろしくお願いします…!」





「おう、気負わんでいいぞ。


まずはストレートから行こう」




岡谷のストレートは、


角石ほどの爆発力は無い。


最初に受けたときも、


周囲のざわつきが聞こえた。




部員A


「なんだ、


ストレートは角石の方が全然上じゃん…」


部員B


「やっぱり一年だなあ」 





(球速だけで、


野球やってんじゃねぇんだよ!)




だけど――


俺はそこで


“この一年の伸びしろ”を確信していた。





(いや、違う…


コイツは変化球だ。


真価はそこだ!)




そして、


俺が親指を立てて合図を出す。


 



「岡谷、落とすやついってみろ」




岡谷が小さく頷き、


フォークを投げた瞬間。




――ズバンッ


土にワンバンした球を


俺は完璧に止めた。


土の上で滑るはずの球を、


俺は、身体を横に倒すようにして


吸い込むように止めていた。


ミットが微動だにしない。




二球目、三球目…


俺は、


一度も取り損ねることはなかった。




周囲が静まり返り、ざわめきに変わる。




部員C


「え…今の全部フォーク?一年が?」


部員D


「しかもワンバン全部止めてるぞ…」




ブルペンの奥では、


監督が鋭い眼光でメモを取っていた。




監督「…面白いな、このバッテリー」


小声でつぶやく。




角石が、


遠くからその様子を見て舌打ちする。




角石


「チッ…弱小バッテリーが調子のんなよ」




高橋


(……取った? ワンバンを?


普通なら弾く球だ!


……佐伯。空気だと思ってたのに、


フォーク全部止めんのか……


“捕手の才能”持ってるの、


佐伯じゃないか?)




同い年のはずなのに、


背中が、妙に大きく見えた。




高橋


(佐伯……伸びるぞ!


間違いなく伸びる!)



高橋は黙って見つめながら、


胸の奥に微かな不安を抱いていた。







練習後、


佐々木コーチが初めて俺に声をかけてきた。




佐々木


「おい佐伯!


今日のワンバン処理良かったぞ」





「あ…ありがとうございます」




一年の頃、


誰にも名前すら呼ばれなかった自分が


嘘のようだった。




同期たちも近づいてくる。




同期


「なあ、今日のフォークやべえな。


キャッチングどうやってんの?」




一年の時、


俺を「空気」と呼んでたやつらだ。


でも、嫌な気持ちは不思議となかった。







その後も毎日


2人は自然と


一緒に自主練へ向かうようになった。




バシィィィン!!


鋭く、鋭く、


ミットの外角いっぱいに落ちる。





「お前……


こんなスライダー、


いままで誰と組んで投げてたんだ?」




岡谷


「い、いえ……


あまり一緒に受けてくれる人がいなくて……。


僕の球、怖いって言われて……」




その言葉に、俺の中で何かが燃えた。





「……は?


もったいねぇだろ、それ。」




岡谷


「えっ?」





「こんな面白い球投げられるやつ、


誰が怖がるんだよ。


俺は受けたい。……もっと投げろ。」




岡谷の顔に、笑みが浮かんだ。





夕陽が沈むグラウンド。


誰もいなくなる頃、


まだ2人は投球と捕球を続けている。





岡谷


「……先輩、すみません。


またこんな遅くまで……」





「気にすんなよ。まだ投げられるだろ?」




岡谷


「はい……でも、迷惑になってませんか?


僕のために、時間を……」





「そんなことない。


これは“俺がやりたい練習”なんだよ。


1年の時は、


まともに受けさせてもらえなかったからな。


その分……全部取り返す。」




岡谷は俯き、


ミットに手を当てて小さく呟く。




岡谷


「……ありがとうございます、先輩。


佐伯先輩に受けてもらえるの、


すごく、うれしくて……」




俺は少し照れながらも、


ミットを構え直す。





「……じゃあ行くぞ。


まだまだ終わんねぇからな。」





それから


岡谷は、


練習が終わると


自然に俺の隣を歩くようになった。




学校内でも、


昼休みは当然のように学食へ二人で行く。




岡谷


「先輩、このカツ丼美味しいですね」



「お前ほんと学生っぽいな…


もっと野菜食えよ」


岡谷


「えへへ…先輩がそう言うなら」




一年の時の孤独が、嘘のように消えていく。




ときどき岡谷は、


俺のほうを見てフッと微笑んだ。





「どうした?」


岡谷


「いえ…先輩と一緒にいられるのが、


嬉しいんです」




周囲がわざと聞こえるように茶化す。




部員E


「おーい!


岡谷~また佐伯先輩と一緒かよ~」


角石


「お気楽コンビがまたイチャついてんな」


高橋


「剛志‥‥、


早く席とらないと、ゴメンね、岡谷くん」




岡谷は、


真っ赤になって否定する。




岡谷


「ち、違います!!」



(違わないけどな…)




◆ ◆死角


夕食後の自由時間



寮のミーティングルーム。


ノートを広げて、


2人だけの配球研究が始まる。





「次の紅白試合、3番は外スラに弱い。


ここでチェンジアップ混ぜたら死ぬ。」




岡谷


「えっ、チェンジアップですか?


でも僕、低めに落とせなくて……」





「だから今から練習すんだよ。


お前の球は“武器”になる。


俺が全部受ける。」




岡谷はまた少し下を向き、


胸の前で拳を握る。




岡谷


「……佐伯先輩の説明、


すごくわかりやすいです。


こんな分析力ができる人はじめてです。


でも、どうしてそんなに僕に……?」





「決まってんだろ。


お前と組んでると……


野球が楽しいんだよ。」




岡谷は言葉に詰まり、


ただ小さくうなずく。





二人の様子を静かに見守る監督とコーチ



監督


「……あの2人、化けるぞ。」




佐々木


「そうですね。


佐伯の目つきが変わった。


岡谷も、


あれだけ自信ない顔してたのに……


いまは“投手の顔”になってますね。」






朝練の時間




早朝、


誰よりも早くグラウンドに出てきた2人。


まだ霧の残るなかで、俺がひと言。





「今日も、全力で全部投げてこい。」




岡谷


「……はい。全部、受けてもらいます。」



新しく、


変わり始める日常が始まる。


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