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青と蒼  作者: ハマジロウ
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第2章 2年目春〜出会い

第2章 2年目の春~出会い




春の陽射しが照り返すグラウンド。



2年になった俺は、


端の方で黙々と準備をしていた。



角石と高橋は


相変わらず主役のようなオーラで、


1年の注目もほぼ全て彼らに向けられていた。



自主練の時間、


俺は相方も決まらず、


寮で過ごすときと同じ、


「どこにも属してない空気」のままだった。



そんなとき


――背後からおそるおそる声がした。



岡谷


「せ、先輩……


あの、もしよかったら……


キャッチボール、お願いできますか?」



控えめで、目を伏せがちな声。


けれど、丁寧で誠意のある声だった。



たしか、新入生の、岡谷‥‥。


挨拶のとき、投手希望と言ってたか‥‥、


俺は何故か印象によく残っていた。




「いいぞ。組もうか。」



岡谷


「ありがとうございます……!」



他の1年の視線がチラッとこちらに向く。


「2年のあの人と組むんや…?」


「空気みたいな先輩と?」


「もったいなくね?」



そんなヒソヒソが聞こえたが、


俺には慣れた音だった。



はじめての投球


岡谷


「じゃ、じゃあ……軽く投げますね。


 ストレートです。」



彼のフォームは綺麗だが、球速は普通。


角石の豪速球と比べると


どうしても迫力に欠ける。




(ああ……ストレートは角石の方が上だな。


でも、このピッチャー


……リズムがいい。嫌いじゃない)



周りの1年がざわつく。



「ストレート120キロ程度か、球遅くね?」


「角石先輩の140キロに比べたら…」


「エース候補じゃないな」



岡谷はその声が聞こえているのに、


顔色一つ変えない。




数球投げたあと、


岡谷が小さく息をつき、控えめに言った。



岡谷


「せ、先輩……


次、変化球投げてもいいですか?」

 



「おお、いいよ。受ける。」



岡谷


「ありがとうございます……」



周囲の視線がまた集まる。



投げた瞬間分かった。


ストレートとは別物のボールが来た。



鋭く横に切れるスライダー。


ボールが沈むチェンジアップ。


縦に大きく割れるカーブ。



そして――

 


岡谷

「……最後、フォークいきます。


まだ安定してないんですけど……!」



(1年でフォーク?)



角石でさえ


試合では使わないナイーブな球種だ。

 


強烈に落ちたフォークがワンバウンドする。



俺は迷わず体を沈め、完全に止めた。



バシィィィン!!



空気がひと呼吸止まった。



「え…止めた?」


「先輩すげぇやん」


「1年のフォークを完璧に…?」



岡谷は驚いたように俺を見る。



岡谷


「せ、先輩……すごいです。


あ、あの角度の落ち方、全部読んで……」



「今のいいフォークだったよ。


お前、


ストレートより変化球の方が“本命”だろ?」



岡谷はハッとし、


少し恥ずかしそうにうつむいた。


岡谷


「……はい。ストレートは自信なくて……。


でも、変化球で勝負したいんです。」



「大丈夫、全然いい。


お前の球、好きだよ。」



岡谷は、初めて柔らかく笑った。



岡谷


「先輩にそう言ってもらえると……


すごく、嬉しいです。」




グラウンドの端。


監督が帽子を指でつまみながら、


じっと俺らを見ていた。



監督


「……あのキャッチャー、


あんなんできたか?」


佐々木コーチ


「いえ。ずっと空気扱いで、


名前覚えられてませんでしたし。」



監督


「名前、なんやったっけ?」



佐々木コーチ


「たしか、佐伯です。」



監督「……覚えとこ。


あれだけの種類の変化球を


“ノーミス”で止める捕手なんて……


そうおらん。」



野村監督はメモ帳に静かに書き込んだ。



“2年 佐伯 捕手能力:要再評価”



「ミットワーク◎ 


キャッチ能力 予想以上。要注目」



練習後


片付けの最中、


岡谷がもじもじしながら近づいてくる。



岡谷


「あ、あの……先輩。」




「ん?」



岡谷


「ぼ、僕……できれば、


これからも自主練、


先輩と組ませてもらえたら……嬉しいです。」




俺の胸の奥に、熱いものが広がった。



ずっと“空気”だった俺に、


初めて届いた真っすぐな言葉。




「……おう。組もう。これからも。」



岡谷


「……はいっ!」



その笑顔は、


この学校で初めて向けられた


“味方の笑顔”だった。


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