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青と蒼  作者: ハマジロウ
12/17

第11章 告白



楽しかった合宿とキャンプが終わり、


俺はお盆を実家で過ごすことにした。




部屋の床には、開けたままのスポーツバッグ。


俺はユニフォームを丁寧に畳みながら、


帰省の準備をしていた。




ベッドの上では、岡谷がのんびりスマホを見ている。




「先輩、明日……帰省ですか?」




「ああ。」




「群馬……でしたよね」




「でもかなり北のほう。


 山しかない田舎だ。沼田ってとこ」




「へぇ……」




少し間が空く。




「岡谷は? 帰らないのか」




岡谷は一瞬だけ言葉に詰まった。




「……えっと。


 夏休み前の期末試験、あんまり良くなくて……


 追試に受かるまで、帰ってくるなって言われました」




「……そうか」




「両親も共働きで忙しいですし……


 まあ、慣れてます」




無理に笑うその声に、


俺はそれ以上踏み込めなかった。




荷物を詰め終え、ファスナーを閉める。




「……なあ、岡谷」




「はい?」




「この前の話、覚えてるか?」




「……はい。


 “話したいことがある”って……」




「帰省から戻ったら、ちゃんと話そう」




岡谷の喉が、こくりと鳴る。




「花火大会があるだろ。


 二人で、行こう」




岡谷は一瞬目を見開き、


それから、耳まで赤くしてうつむいた。




「……はい」




その返事は、


とても小さくて、でも確かだった。



* * *



お盆休み




家に帰ると、親父が嬉しそうに新聞を差し出してきた。




一面には、


「無名バッテリー、県大会を揺らす」


という見出しと、


岡谷と俺の大きな写真。




優勝校の記事よりも大きく扱われ、


俺の地元で「有名人」扱いされていた。




母親は涙ぐみ、


地元の友達からもメッセージが届きまくった。




— 夢みたいだった。


でも、この夏の一番の約束は、


まだ果たしていなかった。





帰省2日目




懐かしい匂い、静かな夜。




嫌いじゃない。


でも、どこか落ち着かなかった。




風呂に入っても、


布団に入っても、


頭に浮かぶのは、岡谷の顔ばかりだった。




(……何してるかな)




スマホを手に取っては、


何も打たずに画面を消す。




——会いたい。




そんな気持ちを、


初めてはっきり自覚した





帰省4日目




昼間、外に出る。




山に囲まれた空の下、


入道雲が大きく膨らんでいる。




あまりにも夏らしくて、


胸の奥がざわついた。




(……時間って、


 こんなに進むの遅かったっけ)




早く、帰りたい。


早く、あの部屋に戻りたい。




そして——


約束した“話”を、ちゃんと伝えたい。




俺は、青く広がる空を見上げながら、




心の中で何度も言葉を繰り返していた。



* * *



約束の花火大会。




夜の川沿いに屋台が並び、淡い提灯の光が揺れていた。




浴衣姿のカップル、家族連れ、学生たち。


その中で俺と岡谷は、人の波を避けながら歩いていた。




岡谷は浴衣ではなく、


いつものラフな服装なのに、


どこか大人びて見えた。




ときどき腕が触れ、


そのたびに岡谷がビクッとする。




夜空に花火が上がり始めた瞬間、


俺の心も決まった。







境内の奥。


本堂の脇にある、小さな石段の先。




杉の木に囲まれたその場所は、


外の喧騒が嘘のように静かだった。




花火の光だけが、


ときどき二人の影を浮かび上がらせる。




岡谷は、不安そうに俺を見る。




「先輩…どうしたんですか?」




俺は深呼吸して、正面から向き合った。




「岡谷。


 お前とバッテリー組めて、本気で嬉しかった。


 お前がいたから俺は変われた。


 一年の頃の孤独も、全部吹き飛んだ。


 …あの時、


 試合前で言った“伝えたいこと”ってこれなんだ。」




岡谷の表情が揺れる。


胸の奥を押さえ、じっと聞いている。




俺は続けた。




「俺は、お前が好きだ!


 選手としてじゃなくて…人として。


 お前といたいと思う。」




その瞬間、


岡谷の目が大きく見開かれ、


すぐに潤み始めた。







岡谷は唇を震わせながら、俺の胸に手を置いた。




「…先輩。


 僕…ずっと先輩のことばっかり考えてました。


 野球より、夢より…


 先輩の言葉一つで、一喜一憂して。


 …好きです。


 先輩が大好きです。」




言い終えた瞬間、


岡谷は堪えきれず泣き笑いをした。




俺はその顔を見て、


自然と手が伸びた。







花火の光が、ゆっくり夜空に広がっていた。




俺たちは静かに、お互いの額を寄せ、


そして…ゆっくりと唇を重ねた。




潮騒と遠くの花火の音だけが響く。




離れた後、岡谷が顔を赤くして呟いた。




「…これからも、ずっと隣で捕ってください。


 ぼくの球も…ぼくの全部も。」




胸が熱くなり、


俺は岡谷の肩を抱いた。




「ああ。これからも‥‥ずっと一緒だ。」




遠くの夜空で、


また一輪、花火が咲く。




俺たちは、誰にも見られない境内で、


静かに額を寄せた。




そして——


ゆっくりと、唇を重ねる。




木と土の匂い。




聞こえるのは、


風と、花火の音だけ。




唇が離れたあと、


岡谷は顔を真っ赤にして、小さくうつむく。




夜空では、


最後の花火が、静かに消えていった。




その夜、


俺たちは正式に“恋人”になった。



* * *



野球部引退式




夏が終わり、三年生の引退式。




並んだ下級生たちの前に立つと、


あの日、入部初日の冷たい視線が嘘みたいだった。




監督がゆっくり俺に言葉を紡ぐ。




「最初は名前も覚えられなかった。


 だが今のお前は、このチームの誇りだ。


 本当にありがとう。」




佐々木コーチも一人ずつ握手をしていく。




「佐伯の配球に何度救われたことか」


「佐伯が岡谷を育てた」




それぞれが胸の奥からの言葉をくれた。




そして部員たちも。




「先輩、俺、先輩みたいな捕手になりたいっす!」




「またグラウンド来てくださいね!」




その声を聞いて、


胸の奥がじんわり温かくなった。







式が終わると、


一番後ろで岡谷がずっと泣いていた。




タオルを握りしめ、真っ赤な目で近づいてきた。




「先輩…いやです…引退しないでください…」




俺は頭をぐしゃぐしゃに撫でた。




「来年も頑張れよ、エース。」




岡谷は涙をこらえながらうなずき、


その瞬間、周りに聞こえないように


俺は岡谷の耳元で囁いた。




「”蒼太”これからは…


 “恋人”としてよろしくな。」




岡谷は顔を真っ赤にして、


声も出せず俺の胸を軽く叩いた。




「…ずるい…そんな…」




その仕草があまりに可愛くて、


俺は思わず笑ってしまった。



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