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青と蒼  作者: ハマジロウ
1/9

エピローグ 旅立ちの朝


◆ プロローグ:旅立ちの朝



中学3年の初冬



俺は地元の公立中堅高校に


推薦に受かり進路が決まっていた。



学費も安く、家計にも負担が少ない。



親も安心していたし、


地元の友人たちも同じ高校に行く予定だった。



けれど“あの日”、俺は決断した。



野球で勝負したい。


本気で強い場所に飛び込みたい。


夜、食事を済ませて、


くつろいでいる父と母に突然告げた。



「…県外の強豪校に行きたい。


 寮に入って、本気で野球やりたい、


 甲子園に行きたいんだ!」


母は驚いた顔で固まり、


父は煙草を置いて言った。



「…学費も寮費もかかるんだぞ。


うちは裕福じゃないんだ」



それは分かっていた。


自分の決断が、


どれだけ家に負担をかけるかも考えていた。


子どものころから、


祖父から野球を教えてもらい、


俺はいつも野球とともに成長していった。


祖父は元高校野球監督で、


甲子園の話をよくしてくれ、


甲子園への憧れもあった。




それでも俺は言った。



「それでも…挑戦したい。


 後悔したくない」


沈黙が長く続き、


やがて母が涙ぐみながら微笑んだ。



「…青が本気で言うなら、応援するよ」



「やるからには中途半端は許さんぞ。


男なら、行くと決めたらやり切れ」



胸が熱くなった。



俺は地元の公立高校の推薦を断った。


選んだのは隣県、


埼玉県の私立・蒼陵高校。


甲子園経験もある、


本気で勝負する奴らが集まる強豪校だ。



既に推薦試験は終了していたため、


一般入試で受験することになった、


母の心配は他所に、


俺は一般入試で合格した!




出発の前日。


中学時代の仲間が集まって、


小さな送別会を開いてくれた。


グラウンドで


最後のキャッチボールをしている時。



友人A


「急な進路変更で、


一発合格って、お前すごいわー


お前なら絶対やれるって。


…でも、ちょっと寂しいわ」



友人B


「俺ら公立でのんびり野球やるのに、


お前だけ強豪かよ。裏切り者~」



友人C


「よく甲子園の話してたもんな、


応援してる、頑張れ!」


と笑いながら、最後には目が潤んでいた。



帰り道、


街灯の下で友人Aが真剣な顔で言った。


友人A


「…絶対帰ってくんなよ。


 あっちでレギュラー取れ。


 “やっぱ無理でした~”


 なんてダサいこと言うなよ」



「言わねぇよ。俺、絶対やり遂げる」


拳を合わせた。



出発の朝


早朝、


まだ薄暗い中、駅まで家族が見送りに来た。


あれから、


父は夜勤を増やし、


母はパートを掛け持ちして、


なんとか学費を工面してくれた。



母が手作りの道具袋にそっと手を触れた。




「青、ケガだけはしないでね。


…寮生活、無理しないで」



父は不器用に言った。




「俺は高校野球で


レギュラーなれなかったからな、


高校野球はあまくないぞ。


…名前くらいは覚えてもらえよ。


強豪校は厳しいぞ。


でも…お前ならやれる」



胸が詰まった。


弟、妹

「お兄ちゃん、寂しいよー、


休みの日は絶対に帰ってきてね」


弟と妹は、


兄のいなくなる寂しさのあまり、


泣いていた。


電車の扉が閉まる瞬間、母が叫んだ。



「青‥‥、頑張れ!!」


がらんとした車内で、


俺は初めて少しだけ怖くなった。



(本当に強豪校で通用するんだろうか…)


それでも握った拳は震えていなかった。



(行くしかない。


俺は、みんなの期待を背負っていくんだ!)


こうして、


俺の“高校野球の挑戦”が始まった——。




*プロローグ角石&高橋 side―



東京都立川市。


強豪シニア ◯◯ボーイズ。


エースは『角石 剛志』


捕手は 『高橋 智也』


地区大会優勝し、


関東大会でもベスト8入り。


名実ともに“怪物バッテリー”だった。


秋。進路の話が本格化した頃。



監督


「お前ら二人には


スカウトが多すぎて困るぞ~」



角石


「へへ、まあな! 俺らだからな!」



高橋


「いや、剛志だけだろ…俺はついで…」



監督


「いやいや、


高橋も“捕手として伸びしろある”って


何校も言ってるぞ」



高橋


「えっ……ほんとに?」



角石


「ほらー、智也はもっと自信持てって!」


監督が資料を取り出す。



監督


「ほら、これがスカウト来てる高校一覧だ。


お前ら二人セットで欲しいって学校もある」



高橋


「え、セットで……?」



スカウト一覧の中に


“蒼陵高校” の名前があった。


監督


「特に異質なのがここだな。蒼陵そうりょう高校」



角石


「ここ……埼玉の山奥だよな?」



監督


「山奥って言うな。まぁここよりは田舎だ」



高橋


「埼玉県上尾市ってどのあたりだろ……」



監督


「でも、施設は関東トップクラスだぞ。


ブルペンが3ヶ所。室内練習場はフルコート。


寮生活の規則も緩く快適と評判だ」



角石


「……マジかよ最高じゃん!」



監督はさらに一枚の紙を角石に渡した。



監督


「角石、


お前は“特待生A待遇”の打診が来てる」



角石


「……特待Aって……え? どれくらい……?」



監督


「学費免除。寮費補助。遠征費ゼロ。


破格だよ。ほぼプロ育成クラスの扱いだ」



高橋


「えっっっっ……」



角石


「まじか!!?


そんなに評価されてるん俺!!?」



監督


「エースだし当然だろ」



高橋


(剛志……ほんとにすごいな……)



監督


「そして高橋。


お前には特待生Bの打診だ。


授業料の一部免除。


条件は“角石とのバッテリー継続”」



高橋


「えっ……俺にも……?」



角石


「ほらな!


俺とセットじゃねぇとダメなんだよ!」



高橋


「……そ、そうかな……?」



監督


「さらに、青陵の寮は髪型自由だ。


坊主強制なし」



高橋


「……っ!!!」



角石


「おお、坊主じゃなくてもいいのか!


どっちでもイケるけどな俺は」



高橋


「坊主……絶対イヤだから……」



角石


「お前坊主似合うと思うぞ? やってみろよ」



高橋


「絶対にいやだ!!!!!」



角石


「ははは! だから蒼陵で良かったな!」



高橋


「……髪型自由、マジで大事……」



監督は次に寮生活のプリントを見せた。



監督


「寮は基本相部屋だな……


と言いたいところだが、


特待生は


“バッテリー優先で同室”になることが多い」



角石


「同室?」



監督


「お前ら二人は“同室確定の打診”が来てる」



角石


「そうなのか。まあ別にいいけど」


その瞬間。


高橋


「……っ……!!


ほ、ほんとに!? 同室!? 俺ら……?」



角石


「……おい智也。


そこが一番響いてんのか?」



高橋


「いや、だって……


朝……起こしてくれるだろ……?」



角石


「……なんだよそこかww」



高橋


「べ、別に!


俺、朝ぜんっぜん起きられないし……


剛志なら……


引っ張ってでも起こしてくれるだろ……」



角石


「ははっ……


お前、そこを基準に高校選ぶのかよ」



高橋


「そ、そうだよ!!


……なんか……安心するんだよ!」



角石


「……しゃーねぇな」



角石は頭をかきながら、


照れ隠しみたいに笑った。



角石


「朝ぐらい起こしてやるよ。


前みたいに“死んだふり”して寝んなよ?」



高橋


「し、しないから!!」



監督


「お前ら……仲良いよなほんと」



◆◆◆


進路面談が終わり、


二人は川沿いの道を歩いていた。



オレンジ色の空がゆっくり暗くなり始める頃。



角石がは急に黙り込んだ。



高橋


「……どうした?急に静かだけど」



角石


「いや……その……」



角石はうつむき、


靴先でアスファルトを軽く蹴る。



角石


「……さっき、俺……


勢いに“蒼陵行くぞ!”とか言ったけどさ」



高橋


「え?」



角石


「……あれ、ちょっと悪かったなって」



高橋


「なんで?」



角石


「……智也にもさ、


やりたいことあったかもだし……


別の学校に行きたいとか……


なんか将来の夢とかさ……」



高橋


「…………」



角石は珍しく気弱な声だった。



角石


「俺……


“バッテリー続けたい”っていう気持ちだけで


智也の選択肢、


奪ったかもしれねぇよなって……


……悪かった」



高橋は足を止め、目を丸くした。



高橋


「剛志……」



角石


「ほんとはさ……


お前がどこに


行っても応援するつもりだったんだよ。


……お前のほうが頭いいし、


俺みたいに


野球しか考えてねえ奴とは違うからさ」



高橋


「バカ……」



角石


「もし“本当は別の学校行きてぇ”とか


“捕手じゃなくて違うことしたい”とか……


あったら遠慮なく言えよ。


俺は……


智也のやりたいこと応援するからさ……」



高橋

「………………」



高橋の胸がぎゅっとなった。



高橋


(……こんなの言われたら……


もっと好きになるに決まってるだろ……)



高橋は顔をそむけたまま、


でも声は震えていた。



高橋


「……そんなわけないだろ」



角石


「え?」



高橋


「ぜんぶ勝手な想像だよ、剛志の」



角石


「そ、そうか?」


高橋


「俺……


剛志と


バッテリーを続けたいと思ってるし……


蒼陵行きたいと思ってるし……


……別に後悔なんかないよ」



角石


「……ほんとに?」



高橋


「ほんとだよ。


……お前と野球やってるのが、


一番楽しいから」



角石


「っ……!」



高橋は照れたように笑った。



高橋


「あと……」



角石


「ん?」



高橋


「剛志が……俺のこと考えてくれたの……


普通に……めっちゃ嬉しかった」



角石


「……俺、そんな風に見える?」



高橋


「うん。


お前……不器用だけど、優しいよ」



角石


「……そ、そんなストレートに言うなよ……」



高橋


「照れてんの?」



角石


「照れてねぇし!!」



高橋


「照れてるだろ」



角石


「うるせーー!」



でもその横顔は夕日に照らされて、


ほんのり赤くなっていた。



高橋


(……やっぱり、好きだな……


剛志のこういうとこ‥‥)



二人は笑い合いながら、


いつもよりゆっくりした歩幅で帰っていった。


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