#06 決め台詞
俺は今、最大の危機を迎えている。
「もぉれぇるぅうううう~(´;ω;`)」
「待て! 耐えろ! あと少しでドラッグストアだ!」
「無理ですぅうう……人のいない藪に向かってください……! ご主人だけになら……見られても平気////」
「俺にそんな趣味はねえええええ! 着いたぁあああ! いらっしゃいましたあああああ! 三枚刃下さいぃいいい!」
ドラッグストアというよりも、そこは小さな商店のようだった。
絵本に出てきそうな木の家。
中には店番の老婆がいて、カウンターの向こうにちょこんと座っている。
キセルを吹かして毒々しい緑の煙を吐きながら、老婆はニヤリと笑って言った。
「あんたあ……転生者だねえ? あたしゃ目は見えないが鼻が利く。臭いでわかるよ」
「どうでもいい! そんなことより三枚刃をくれ! 緊急事態なんだ!」
「わかるよ。鼻が利くからね。ひょひょひょ!」
まさかという顔で佐倉はリルを見やった。
リルは手を振り否定する。
「ま、まだ耐えてますぅうう! やいオババ! 臭いとか誤解を招くこと言わないで頂きたいっす!」
「ひょひょひょ……いいのかえ? そんな生意気な口を利いて? あたしの機嫌を損ねりゃ、あんたらはどうなるのかえ?」
「ひ、卑怯者ぉおおおお! ご主人! このババアあっしらの足元を見るつもりですぜ⁉」
「黙れ! 話を拗れさすな! 婆さん、問答してる暇がない! 三枚刃を売ってくれ‼ 今は金を持ってないから、あとで払いに来る! それと便所も貸してくれ!」
老婆は義眼を指で回しながらニタリと笑い、佐倉を指さして言った。
「それには及ばん! あんたの持ってるタバコ! それと交換してやろう! わたしゃ鼻が利くんだ。すぐに分かったよ! 別世界のタバコにあたしゃあ目が無いんだ! それを寄越しな?」
佐倉はポケットの中で潰れかけた血濡れのマルボロを取り出し、躊躇なくカウンターに叩きつけた。
「ほらよ! 三枚刃は?」
「右の棚」
佐倉は三枚刃を引っ掴んで封を切るなりリルに尋ねる。
「どうすればいい⁉ これをどうすりゃ解除できる⁉」
「髭を早く……もう……げん……か……い」
「待て! 耐えろ! そ、そうだ! ステータス、おーーーぷんっ☆」
ばちこーん☆
「よし! 10秒時間が止まったはずだ! アイテムボックス! 深剃り三枚刃! 説明! これだ!」
なになに……?
鏡に向かい三枚刃を頬に当て、わざと横滑りさせてから決め台詞……キレてないっすよ☝
「ざっけんなぁああああああ! ああもう時間切れだ! 鏡! 三枚刃セット! 横滑り! 痛ぇえええええ⁉ 切れてんじゃねええぁあ⁉」
「ぷっ……w」
「なに笑ってんだ⁉ このクソガキぃいい‼」
「わ、笑ってませんよ……? さあ、早く決め台詞を……!」
屈辱だ……
だがここまでの苦労を無駄にするわけにはいかない……
佐倉は指を立てて口をすぼめながら言った。
「キレてないっすよ……☝」
その瞬間、癒着していたのが嘘のように、ぺろりとリルが剥がれ落ちる。
バタン!
リルは速やかに個室に駆け込み、二人はなんとか最大の危機を脱したのであった。




