#27 宵闇の焔
佐倉はリルを抱き息を切らして駆けていた。
罠は完全に無視してとにかく全力で駆け抜ける。
発動した罠が背後で轟音を響かせているが、とにかく今は距離をとることが先決だった。
「ご主人!」
「黙ってろ……! 今は距離を稼がねえと……あんな変態にいいようにされてたまるか……!」
「エッチな下着ガン見してたくせによくそんな事が言えますね……リルの機嫌とってるんです? そんな安い手には騙されませんよ?」
「どぅあまってろ‼ ガン見してねえわ‼」
その時だった。目の前の光景を見て佐倉は思わず叫び声をあげる。
「ど畜生がぁあああ!」
まただ。
また噴水の所に戻ってきた。
噴水の脇ではハーレクインが懐中時計を揺らして微笑んでいる。
「おかえり? 早かったね? ダーリン♡」
鳥肌が全身を駆け抜ける。
リルは片目を閉じて舌を出し、手足を振り回しながら、罵倒の言葉を連呼していた。
「アハぁ? 戻って来たってことはそういうことだよね? ボクに会いたかったんだ?」
「このクズ男! 恥を知りやがれ⁉ いえ。言い直します。恥を尻ヤがれろ!」
「訳のわからん造語を作るな……! どうやら逃げられねえ……リル……! 腹くくってアレやるぞ……⁉」
「嫌です。リルはまだオコなのです。ぷんぷん!」
腕を組みへそを曲げるリルに佐倉が苛立っていると、二人の方に青い焔が襲い掛かった。
慌てて避けるも、それは佐倉のズボン――ちょうどその尻のあたりを焼き尽くしてしまう。
「ほお……? 準備万端ですね?」
「ちげえわ! 丸焼きにされそうになってんだよ‼」
「ホントにすごーい! 逃げ足だけは本物だね? ボクの蒼薔薇を避けるなんて。虐め甲斐があって興奮しちゃう♡」
唇を舐めながら笑う美顔には残虐さが滲み出ていた。
佐倉は覚悟を決めてリルの両肩を掴んで頭を下げる。
「頼む……! 機嫌を直してくれ! ガン見して悪かった! でもあいつに嬲られるのも舐られるのもマジで勘弁なんだ……! 協力してくれ! お前が頼りだ……!」
リルは薄目をあけて頬を染めながら口を開く。
「ご主人は、り、リルが良いんです?」
「ああ! あのオカマなんかより100万倍お前がいい!」
「しょ、証拠を見せられますか?」
「努力する!」
「じゃ、じゃあ、ぎゅうしてよしよしして『リルがだーい好きだお♡』ってアイツの前でやってください」
佐倉の脳裏にそのイメージが浮かび、パチンと弾けた。
「出来るかぁああああ!」
「やっぱり騙す気だったのねええええ(´;ω;`)」
そんな二人を蒼薔薇が襲う。
やがて、地響きを轟かせながらゴーレムたちも集まってきた。
「くそがぁああああ! 俺が前世で積み上げてきたあらゆるものが崩れていくぅううううう! がぁああああああああ!」
佐倉は頭を掻きむしって叫ぶとリルを抱きしめて頭を撫でた。
リルは頬を染めて目を閉じ、震えながら待っている。
「さあ! 言ってください!」
「り、リルがだーい好きだお♡」
「よっしゃきたぁあああああ!」
リルはそう言ってガッツポーズを決めると、佐倉から飛び降り並び立った。
プルプルと感情の濁流で震えていた佐倉も、同じくハーレクインを見据えて腕を組む。
「寄生獣の極北を見せてやります!」
「ああ。健太郎すらも凌駕した俺たちの最高打点〝宵闇の焔〟ワン・ツー・スリー・フォー!」
佐倉がカウントし、リルがリズムに合わせて歌い始めた。
それに同調するように、佐倉の左手がどくんどくんと脈を打ち、パラパラたちが皮膚を食い破って姿を現す。
佐倉は両手の人差し指でバツをつくり、リルも同様のポーズをとった。
ちょこちょことしたステップで左右に揺れながら、二人は裏声で歌い踊る。
腕から伸びたパラパラたちは赤紫に変色し、歌に合わせて激しく踊り狂い、紅蓮の焔を吐き始めた。




