#18 スローライフと言えばキャンプ飯!
調理場に立ち、佐倉とリルは青褪めていた。
紫色の肉塊からは深緑の短い触手が数本突き出しており、それが時々……動くのだ。
「おい……これは何て生き物の肉だ……?」
「見たことないです……この森にこんなの住んでたんですね……」
二人同時に健太郎っすの方を振り向くと、拳を二つ顔の前において腰を前後に振っている。
そこはせめて横に振れや……
心の中で佐倉が突っ込んでいるとリルがおもむろに口を開いた。
「なんか……交尾みたいですね」
「言うなボケ! みんな分かってんだよ‼」
佐倉は額を手で押さえながらため息をつき、不気味な肉塊に向き合うことにした。
「とりあえず……健太郎が食えるってことは、俺らも食えるはずだ……多分。それにあの喜びようからして美味いのかもしれん……」
「見た目はキモいけど美味い……なるほどです。ホヤ的な?」
「てめえはまずその形容しがたい脳内フィルターをなんとかしろ……」
もう一度改めて観察すると、とんでもなく悍ましい。
ていうか、なんか触手増えてねえか……⁉
調理器具すらない中で、これをどうするべきか?
簡単だ。丸焼きだ。キャンプ飯ってそういうことだろ⁉
佐倉は覚悟を決めると肉塊を左手で押さえつけ、先を尖らせた長い木の棒で肉を突き刺した。
その瞬間である。
「ぴぎょぉおおおお! うぎょ! うぎょ! うぎょ! うぎょ! うぎゅるるるるる!」
肉塊から生えた触手の先端が割れて、それが悲鳴を上げたのだ。
あまりのキモさとグロさにリルはその場でうずくまって吐いた。
それがシルブノールを伝って、佐倉もまた、吐いた。
いや。シルブノールが無くてもこれはキツイ……
なんとか串刺しにした肉塊を、焚火の横に組み立てたやぐらに立てかけた頃には、リルも佐倉も一切の食欲を失っていた。
「うぎょ……ぎゅるぴるぐぎゅるっば~!」
焼かれながらも触手たちはしばらく悲鳴をあげていたが、やがてそれも消えてあたりには焚火の燃えるパチパチという音、そして虫の音だけが響き渡っていた。
しばらくするとえも言われぬような香ばしい肉の焼ける香りが漂い始め、健太郎っすが踊り始める。
強烈過ぎる美味い匂いに、リルは涎が止まらなくなり、佐倉も気付けば口を拭っていた。
「なんじゃこれ……? めちゃくちゃいい匂いだな……」
「きっと美味いんですよぉおおおお! 空腹が回復してきました!」
強烈な魅力を肉塊が放つ。
あまりにも強烈な魅力が怖いほどだったが、佐倉とリル、そして健太郎っすはそれを食べた。
「「うめぇええええええ‼」」
「ぶふぉぶふぉ♡」




