⑰近所迷惑だろ!!
【だから言ったでしょう、暴力的に踏み込んでも意味無いって】
「んなもんいちいち考えてられっか!!」
背後から迫るスィーンの気配を感じながら走りつつ、タマキはミフネのぼやきに反論する。相手の間合いを考えれば距離を離すのは得策と言えないが、かといって狭い室内で遣り合えば間違い無く犠牲が増える。そんな彼女の直ぐ脇を微粒子レベルのナノマシンが風のように通り過ぎ、湾曲しながら迫って来る。身を屈めて避けたタマキを追うように上空でUターンし、それも避けると先端はスィーンの腕へと帰って行く。
「……初見の時は苦労させられたけど、相変わらず気持ち悪い動きするなぁ」
ウネクネとのたうちながら腕に戻ったナノマシンは、次の行動まで収納穴の中で充電されている。一つ一つの力は非常に小さいが、個から群になれば互いに引き付け合う力が増幅し非常に大きな威力に繋がる。スィーンの武器は小さなナノマシンを自在に操り鞭のように動かしたり、任意の物を絡め取る機能である。だが、問題は一度捕まればナノマシンがしつこく纏わりつき、行動に制限を受けたり最悪の場合はそのまま拘束されてしまう事だ。
「タマキぃ〜、いい加減諦めなよ……あんたの刀じゃ俺のナノマシンは防げやしないぜ?」
「うるせぇ!!」
スィーンが悲しそうな表情でそう告げるが、タマキは負け惜しみのように叫ぶ。確かに彼の言う通り、不定形で刀で斬ってもナノマシンは数を減らす事すら出来ない。構造が単純過ぎて刀が当たっても一次的に機能停止はするが、時間が経てば停まったナノマシンは他のナノマシンの群れに吸収、そして回収される。そして収納穴で再充電と復元をして戦列に復帰してしまうのだ。
「じゃあ、今度は本当に手加減抜きだぜ……」
「へっ、好きにすりゃいいさ!」
通りに出て相対しながらスィーンが告げると、タマキはミフネを構えながらずいっ、と足を開く。その動きでスィーンは相手がサムライの矜持を発揮しようと悟り、身を震わせる。
「……ああ! そうだよそうだよ、そうこなくちゃな!! あんたらサムライはいつだってそういう感じで……逃げず、恐れず退かず、なんだよな!!」
そう叫びながらスィーンは四対の腕を広げ、複雑な軌道でナノマシンを縦横無尽に駆け巡らせる。たったそれだけでナノマシン同士が摩擦で帯電し、バチバチと火花を上げ始める。
「うえぇ、電撃ショック付きとか悪趣味極まりないな、スィーン……」
「違うな、タマキ! こいつぁ俺の愛のボルテージだ受け取ってくれ!!」
「嫌だねっ!!」
無駄口を挟みつつ二人が距離を詰めると、鞭のような先端と化したナノマシンが不規則な軌道のまま四方八方からタマキに押し寄せる。捻りながら振るわれるナノマシンの鞭が軽く掠るだけで椰子の木が幹を削られ、葉を散らしながらドドッと倒れていく。そんな一撃が僅かでも届けば帯電により足が停まる筈だが……
「おいコラっ! 椰子の木倒すなっ!! 近所迷惑だろ!!」
と言いながらタマキは、その軌道を読みミフネの刀身に沿わせ滑らせるように弾き、往なし、避ける。そして背後に回ったナノマシンの擦過音をネコ耳で捉え、僅かに頭を下げて回避する。そう、五感全てと更に空間把握能力を駆使し彼女はスィーンの攻撃を避け続けるのだ。
「あっ、相変わらず……えげつねぇ……なっ!!」
ヒュンヒュンと風を切って押し寄せるナノマシンの鞭を避け続けながら、タマキは細切れに呟く。わっ、おっとと、等と軽げな言葉を織り交ぜつつ、彼女はそれでもミフネを離さず、そしてスィーンの前から退かない。
「……先に言っとくが、電力切れ狙ってんなら無駄だぜ? 俺の貯蔵バッテリーはそんなヤワじゃねぇからな!」
「あー、それも有りだったな……でもよ、判ってるだろーが、ここは宇宙空間じゃなくて海がある星の島なんだぜ?」
もし彼女がそれを狙っていたならやる気を削ぐようなスィーンの言葉に、タマキはニヤリと笑いながら夜空に視線を向ける。だが、本来なら振り注ぐように光っている筈の星々は黒い雲に遮られて全く見えない。無論、そんなタマキの表情と天気の変化はスィーンには読み取れなかったが。
「悔し紛れかよ、タマキ!! それだったら何だって……っ?」
この期に及んでと憤りながら答えるスィーンだったが、そんな彼の言葉を遮るようにポトンと何かが真っ白な額の上に落ちる。
「……水が降ってきた……だと?」
「あー、宇宙が長過ぎて知らんのか? 海に囲まれた島じゃよくある事だぜ、局地的豪雨って奴さ!!」
既に察知していたからか、ポツポツからバタタタと次第に強くなる雨の勢いにタマキはほくそ笑むが、スィーンは反対に激しく狼狽える。
「ちっ、畜生っ!! これじゃナノマシンが落ちちまうっ!!」
「ざまぁ無いなぁ、スィーンっ!! まっ、今回は痛み分けって所で済ませてやるぜ!」
「かぁああぁーっ!!? おいこらタマキ待てぇ!!」
「待てと言われて待つ馬鹿は居ねぇって!」
雨粒のせいでナノマシンの制御が出来なくなったスィーンに、タマキは手を振りながらそう告げると裾を託し上げながらスタコラサッサと逃げて行く。スコールが降っている間は確かにナノマシンが使えなくなるだろう、しかしそれも止んでしまえばまた振り出しに戻る。タマキはその隙に面倒なスィーンから離れ、雨の降りしきる中を走って離脱した。




