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《サイバーサムライで御座候》辺境惑星でスローライフ…出来るかな?  作者: 稲村某(@inamurabow)


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1/9

はじまりはじまり



 天地開闢から幾年月……そら駆ける船が星々を繋ぐ銀河帝国制定の頃。一艘の航宙駆逐艦が今まさに落ちんとする間際にて、その艦橋はしんと静まり返っていた。




 「艦長……最早、これまでで御座います」


 静かな声で副官が告げると、無言のまま艦長はネットワークを介して全乗組員に告げる。


 「……皆、良くここまで私に従い職務を全うしてくれた。だが、もう……」

 「……ちょっと待ったあぁーーっ!!」


 静まり返っていた筈の艦橋に大声が響き渡り、これから最後の命令を下そうとしていた艦長が思わずギョッとする。その声がいつの間にかこの艦に居座りほぼ愉快な仲間達の一人と化していた居候の発言だと判った艦長が、


 「……あー、うん……今から私が真面目な話するから、黙っててくれないかね?」


 と、苦々しげに告げたものの相手は全く動じない。


 「おいおいおいおいっ!! 戦艦同士の最後の戦いって言やぁ決死隊の突入で大番狂わせってのが相場だろうっ? 今から行くから早よ艦を向こうに近付けろって! 何なら衝角突撃(ラムアタック)でもいいからさ!!」

 「……あのね? この艦は駆逐艦だからね? 真っ正面から特攻して相手の横っ腹に風穴開けるラムアタックなんて超前時代的な戦法はしないの、判ってくれるかな?」

 「かあああぁーーーっ!! だーから物分りの良過ぎるお嬢様艦長はダッメダメなんだよ! いいか? 意外性が高い方が上手くいく事もたまーにゃあるんだから黙って艦首をあっちに向けろって!! 全速前進よーそろぉってもんだ!!」


 ……と、声の主は艦長の帽子をくりくりと指先で回しながら前を指差し、ドカンと足を操作盤に乗せて踏み締めながら鼻息荒く絶叫した。


 「だーかーらぁ!! 駆逐艦と重巡洋艦じゃ端っから勝負にもなんないって言ってるのが判らないかな!? 判んないかなネコ耳だから頭蓋骨の内容量も無いよーってねぇ!!」

 「あーあー、ネコ耳差別だぁー! 強化人間にも人権あんだから帰ったら艦長を訴えるからなぁーー!!」

 「黙れポンコツ侍!!」

 「うるさいボケ艦長!!」


 まーまー、と周囲の乗組員が二人を引き剥がそうと割って入るが、ネコ耳人間(♀)と艦長(♀)はギャーギャーと喚いて全く話が進まない。そして、遂に互いを掴んで艦長と絡み合ったその時、ネコ耳人間の足先が緊急対応用操作盤をこちょこちょと器用に操作すると、艦首が敵の重巡洋艦に向かってキュンッと回り、キュゴッと急加速した瞬間、その場に居た全員は事態の急変を把握した。


 「……わっ!? このバカ猫やりやがった!!」

 「へっへ〜、やったもん勝ちじゃ〜っ!!」


 と、完全に子供の喧嘩レベルの技と罵声が交差する中、ついさっきまで追い込まれて窮地に瀕していた筈のオンボロ駆逐艦がいきなり突進してきたせいで重巡洋艦は咄嗟に回避行動を取れなかった。窮鼠猫を噛むとは良く言ったもので、矢尻のような駆逐艦が文字通り矢の如く全速前進したのである。


 「……ぜ、全乗組員に告ぐぅっ!! し、衝撃に備えろぉーーっ!!」

 「うっひょおおおぉーーーっ!! これぞ皮を切らせて肉を断つ戦法ってもんじゃあ〜っ!!」

 「バカ猫っ!! どう考えたってこっちが玉砕向こうは無傷コースだああぁーーっ!!?」


 艦長の絶叫にニヤリと笑いながらネコ耳人間はまだ載せたままの足先でタタタンッと華麗にステップを踏み、駆逐艦をボートのように操ると衝突直前で急制動そして自動航行モードに移行させて、


 「……じゃあ、後は宜しくぅ!! ちょっくら行って来らぁっ!!」


 と、隣の店に飲みに行くような気軽さで操作盤から飛び降りると艦橋から出て行った。


 「……ちょっと行って来る、って……重巡洋艦に!?」




 ……銀河全宇宙に於いて人間が操作盤を直接触る事も無くなり、現代戦は高度な艦載型人工知能同士が互いの処理能力をどれだけ上回るかが最重要視されていた。航宙艦は謂わば人工知能を詰めて宇宙を移動させる為の外殻と化し、人間の乗組員はその人工知能を運ぶ殻の保守が任務の大半を占めていた。やがてそれもドローン系ロボットにより自動化され、最終的な決定権や相手との交渉役を理由に乗艦する以外の役割は彼等に与えられなかった。こうして乗組員及び艦長その他が「宜しい」しか言わなくなった時代に、更に半ば化石化した職業がある。それが剣に生き、そして剣にて死すサムライ達である。



 「なははは〜っ!! やっぱ最終決戦は切り込まにゃ決まらないよなっ!!」


 何が楽しいのか判らんが、ネコ耳人間は耳に付けた四連ピアスを光らせながら高笑いしつつ射出用カタパルトに辿り着くと、架装されていた突撃用ポットに乗り込んでレバーを思いっ切り引く。


 ……ガクンッ、とポットがリニア駆動で一瞬宙に浮くと直ぐに猛烈な勢いでカタパルト上を滑走し、開いた直後のシャッターの隙間から砲弾のように飛び出していく。


 「なぁ、そうじゃねーかい?」

 【……品位の欠片も無い発言ですね、本当に信じられませんよ】

 「じゃー、()()()は鞘に収まったまま没収廃棄されたいか?」

 【……それはお断りですね】


 急加速するポットの中でネコ耳人間が呟くと、直ぐ傍らから声が響く。その声の主が一振りの実刀で誰が見てもおかしな状況なのだが、突っ込み役不在なのでどうしようもない。


 「そんな訳だから一丁、景気良くぶちかますぞぃ!!」

 【はいはい、仕方ないからお供しますよ……】


 こうして、狭いポットの中で一人と一振りが仲良く話しながら宇宙空間を切り裂き、そして彼女はポットの中で最低限の気密と生命維持機能を付与された宇宙空間活動服、通称【ハラキリスーツ】に着替えてポット着艦に備えたのだ。




 ……これは、航宙史に残された唯一のサムライ顛末記である。尚、大半は本人に同行した刀剣型自立ドローン、通称【ミフネ】のデータベースに残されていた膨大な情報を編纂して作られた物で、真偽の程は定かでは無い事を付け加えておく。




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