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れせぷしょん  作者: りくつきあまね
エリス=ベェルフェール
36/39

――― 境界世界 黒と紅の舞台・参 ―――

すみません、短いです^^;

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 エリスの気狂いするような絶叫が世界を震わせて、それを合図に宙に映し出された悲惨な映像がブツンッ!! と途切れた。

「アアァッ、アァアアァ…………アッ、ァァッ…………」

 映像が消えるのと同時にエリスを押さえ込んでいた男は無言で解放して、そのまま崩れ落ちるように地面にペタンッ、と座り込むエリス。

 勝ち気で綺麗な碧眼は絶望色に染まって、悲しみから涙が頬を伝っていた。

 短い嗚咽を繰り返しながら泣きじゃくるエリス。

 それはまるで映し出されていた時の…………幼い頃のエリスそのものだった。

 そしてそんなエリスの隣に立っていた女は、

「面白くなくても笑ってやる、だったかしら? できない事はは口にするものじゃないわね」

不快感だけを感じさせる笑顔でエリスを見下ろしていた。

「まぁ、私はそれなりに楽しめたし、生意気な子供には良い薬になったでしょう」

「ひ、酷い…………」

 ただの躾、とエリスを嘲笑う女に夏先輩の痛みに軋んだ声が虚しく響いて。

「酷い? 私が?」

 女は意味がわからない、と首を傾げて視線をエリスから僕達へと移した。

「そう言われるのは心外ねぇ。私はちゃんと忠告もしたし、この子もそれを納得して私達の前に立ったのよ? それに売り言葉に買い言葉、些細な意地を張って結果なのだから当然の成り行きでしょう?」

 まるで聞き分けのない駄々っ子に言い聞かせるみたいに優しい声で話す女。

 女はそのまま苦笑いを浮かべながら歩き出して、僕達の正面――――エリスの張った結界法術『空絶』の前で止まった。

「それに今、貴方が苦しんでいるのも同じよ。『器』」

 憎しみだけが込められた視線をぶつけてくる女。

「同、じ?」

「えぇ、貴方が今の状況におかれているのは罰。貴方が犯した永劫消える事の無い罪の所為…………そう、これは贖罪なのよ」

 憎しみは殺意に変わって僕を射貫いて、血を吐くように感情を世界に刻む。

「私達から全てを奪った罪を…………自分の犯した過ちを悔いながら地獄に堕ちなさい」

血を吐くように感情を世界に刻む。けど。

「被害、者……面、するなよ」

「………………なんですって?」

「被害者、面するな、って……言ったんだよ」

 その感情に、声に、視線に……ううん、女の全て――――コイツは違う・・・・・って直感した。

 夏先輩の肩を支えに立ち上がって、今にも崩れてしまいそうな視界に女を捉える。

「僕がお前達から何を奪ったかなんて知らないし、知りたくもない。それに僕を殺したいなら僕だけ狙えばいいだろ…………なのに、なんでエリスを傷つける必要があるんだ?」

「私達の復讐の邪魔をするからこういうことになるの」

 女は下らないものを吐き捨てるように、苛立ちを募らせた声で言葉を並べていく。

「そもそも私達と同じく奪われる苦しみを知っているのなら解るはずよ? 今、自分がこうなってしまったのは仕方がない事だって。心のそこから復讐を望む…………成そうとする者の邪魔をすればこうなるって」

「エリスとお前達が…………同じ?」

「えぇ、そ……」

「同じなわけ、ないだろうがっ!!」

 女の言葉に、ふざけた勘違いに怒りが溢れる。

「奪われる苦しみを知っているなら楽しめるわけない。奪われる事の苦しさを、悔しさを、悲しさを本当に知ってるならっ!! 苦しんでる誰かを見て笑えるはずがないんだよ!!」

 力一杯叫んだ所為か、視界が大きく揺れた。それにつられて意識もぼやけたけど、唇を噛み千切って、その痛みを頼りに気力で意識を繋ぎ止める。

「エリスッ!!」

 僕の叫びに呆然とする女からエリスへ顔を向けて叫ぶ。

「ッ!?」

 僕の叫びにエリスはビクッ!! って、肩を震わせて、恐る恐る顔を上げる。

 エリスの大人びた綺麗な顔は涙でぐしゃぐしゃで、今まで見てきたつっけんどんな顔なんてどこにもなくて…………止めどなく流れる涙に、僕は十年前から突き刺さる痛みを受け止め叫ぶ。

「コイツらにあの子の――――結菜ちゃんの思いを踏みにじらせたままでいいのっ!?」

「結、菜さんのっ……?」

「あの子はエリスに笑って、幸せに生きて欲しかったんでしょ!?」

 エリスの記憶の中で、自分の死が決まった瞬間でもあの子が願った最後の願い。

「大切な人を護れなかった苦しみも、悲しさも、悔しさもっ!! 君は全部背負って生きなきゃ駄目だっ!! それがきっとあの子の最後の願いを叶えるって、あの子の想いを護るって事だからっ!!」

 その願いを護りたいと心から叫ぶ。

「こんな勘違いの八つ当たり馬鹿に好きにさせちゃいけないんだっ!!」

「ぁ…………」

 ありったけの叫びにエリスの瞳が大きく見開いて、

「…………………」

呆然としていた女が無言で睨み付けて来た。

 それと同時に場の空気が張り詰めて、体中を突き刺す鋭い感覚が襲う。

「っ!?」

 全身を貫く感覚、それは――――――殺意すら生温い圧倒的な憎悪。

 体を、魂事握りつぶされそうな圧力が、


「――――――八つ当たり?」


女の声と一緒に『空絶』が鋭い音を発てて砕け飛んだ。

「なっ!?」

 砕け飛んだ『空絶』の欠片は粉々に吹き飛んで、それと同時に喉を襲う鋭い衝撃。

「ガ、ハッ!?」

 女は氷以上に冷たい無表情で僕を眺め、喉を鷲掴みにしたまま腕を水平に持ち上げる。

 それだけで僕の両足は地面から離れて、

「グゥッ!!」

締め付ける痛みと苦しみに足をばたつかせる僕。

「凜っ!?」

「動けばまとめて殺すわよ?」

 疑問に言葉尻が上がっていても、込められているのは冷たくて暗い感情。

「ぁっ……………」

 僕を助けようと立ち上がり掛けた夏先輩だったけど、女の殺意に足がすくんでその場にぺたんと座り込んだ。

 女はそれを確認すると小さく息を付いて、僕へ鋭い視線を向ける。

「全く、これだけ魔力を搾取してもまだ減らず口がたたけるなんて…………呆れを通り越して感心するわ。魔力を奪いきるまでもう時間はないけど…………少し貴方にも躾が必要みたいね」

 そう言って僕の顔を覗き込んできた女へ、

「ぐっ……お、断りだよっ!!」

なけなしの力で右膝を女の顎目掛け跳ね上げた、けど。

「あらあら」

 ドッ!! と顎を蹴り抜いた重い打撃音じゃなく、見透かしていたみたいに受け止められた音。

「口だけじゃなく足でも抵抗できるのね」

 僕の喉を掴んでいる右手に力が込められ、一呼吸の間もなく地面へと叩き付けられた。

「ガッ!?」

 背中から体全身に広がるのは粉々に砕かれるような激痛。その痛みに意識をもぎ取られかけて、それを許さないとばかりに胸に突き抜ける重い衝撃。

「グバッ!?」

 その衝撃にもぎ取られ掛けた意識が強制的に引き戻されて、肋骨が折れる音が耳に突き刺さった。

「グウゥ――――ッ!!」

「凜っ!!」

 夏先輩の悲鳴と一緒に視界に映るのは僕を足蹴にしている女。

「殺さないように加減はしてあげたんだけど…………やっぱり人間の体は脆いわね」

「アッ、ガッ…………ゴフッ!?」

 痛みと一緒に胸の奥から突き上げてくるのは、鉄臭い血。

 何度も咳き込んで、迫り上がってくる血を吐き出して、口元から胸の辺りまでが真っ赤に染まる。

「ァ…………」

 魔力を吸われて、その上大量の吐血。もう指一本動かせない状態の中で、僕はヒューッとか細い自分の呼吸音に少しだけ救われた気がした。

 胸全体に痛みが広がって良くは解らなかったけど、呼吸ができる所を考えれば二つある肺のどっちかは無事みたい。でも、吐血と強い息苦しさがあるってことは片方は完全に骨が刺さって使い物にならない事も示していた。

「ッァ………………ァ」

「気を抜いたら踏み殺してしまいそうだわ」

 もう放っておくだけでも死ぬ僕を見下ろす女は歪な薄ら笑いを浮かべて、

「ガァッ!?」

胸を踏みつける足に力が込められて、また骨が折れる不気味な音が響いた。

「もうやめてっ!!」

 怯えに強張った叫び声と一緒に、僕を踏みつけている足をどけようと夏先輩がしがみつく。

 夏先輩は精一杯足をどけようと持ち上げたり、押したり引いたり、色々頑張ってくれてはいたけど。

「なっ、ん………でっ!?」

 如何せん、人と神っていう圧倒的なぞんざいレベルの差が無駄な事だって言っていた。

 女はそんな夏先輩を鬱陶しそうに見下ろして、冷たい声音で夏先輩へ言い放った。

「邪魔をすれば殺すって言ったはずよね?」

 そして女は静かに右手を挙げて、

「死になさい」

何の迷いもなく、夏先輩の脳天へと振り下ろした。

「ッ!?」

 瞬間。僕の視界には紅い飛沫が飛んで、

「なっ!?」

って、驚きに顔を歪ませた女の姿が映った。

 紅の飛沫を飛び散らせていたのは女の左手で、

「ッ!?」

驚きと痛みに顔を歪ませ飛び退いて、肘より下が無くなった右手を押さえ込みながら呻く。

「こ、の…………っ!!」

 女の呻き声と入れ替わるように僕達を背に立つのは、白の刀『虹の陽炎アルクス・カリマ』を握るエリス。

「エリ、ス……」

「全く、何の躊躇いもなく腕を切り落としてくれるなんて…………」

「…………………」

 不快と動揺に揺れる女に、エリスは無言で構えをとり続ける。

 女はエリスを注意深く睨み付けながら残った左手で指を弾き、切り落とされた右手は元のあるべき場所へと戻ってネチャッ、とねちっこい音を発ててくっついた。

 それから一瞬だけ黒い閃光が右手を包んで、拡散。切り落とされた右腕は元通りの場所へ収まった。

 女は何度も手を開いたり、握ったりと動きを確認して、 僕はその光景に思わず苛立ちを吐き出す。

「クッ、本当、にっ………法術は何でも、ありだなぁ」

「凜っ!!」

 苦々しく呻く僕の隣で夏先輩が僕を抱え起こして、

「だ、大丈夫っ!?」

「えぇ、なんとか…………」

目元に涙を溜めながら怪我の具合を確かめる夏先輩に、なんとか笑顔で返す。

 僕の答えに夏先輩は表情は強張らせていたけど、どこかホッとしたように息をついて僕を優しく抱きしめて。

「エリス、ありがとう…………」

 恐怖とは違う感情に震えた声で、エリスへ告げる夏先輩。

 けど、エリスはこっちに振り返ることなく女を睨み付けたままで。

「最近の死神hあ立ち直りが早いのねぇ…………それとも薄情なのかしら?」

 右手を切り落とされた事への皮肉なのか、せせら笑いを浮かべなが吐き捨てる女。

「自分が犯した罪を自覚させてあげたって言うのに…………そんな簡単に割り切られたらあの子もうかばれ」

「黙れ」

 侮蔑に弾んだ声を切り捨て、『虹の陽炎アルクス・カリマ』を右脇へ垂れ下げるようにぶらりと構える。

「あら? 随分と」

「黙れと言った」

 尚も侮蔑混じりの挑発を紡ごうとする女だったが、エリスの言い様のない圧力に思わず唇を固く結んだ。

 エリスは女へ注意を向けたまま顔だけを振り返らせて、

「感謝、する」

「え?」

思いも寄らなかった言葉に、喉の奥から気の抜けた声を出す僕。

「弱く、脆く、未熟な私の代わりに…………結菜さんの想いを護ってくれて感謝する」

「エリス…………」

 僕がそう言うとエリスは静かに正面へ顔を戻した。

 僕達を庇うように背を向けて立つエリスの後ろ姿はさっきまでの弱々しい女の子の面影は消えて、神の末席に連なる『死神』として頼もしいさが見て取れた。

 そんなエリスの堂々とした姿を見てか、女は苦虫を噛みつぶしたような表情で睨み付け、もう一人いた男は女の隣に歩み寄って、静かに構えをとった。

「……………………」

「……………………」

「……………………」

 エリス、女、男の無言の鍔迫り合いが場の空気を一気に張り詰めさせて、

「っ…………」

「んっ…………」

その緊張感に僕と夏先輩は息を呑んで。

「萩月凜、そして神村夏子」

 まるでそんな僕達を安心させるように、包み込むように、今まで聞いた一番慈愛に満ちた声で名前を呼ぶエリス。

「な、なにっ!?」

「ど、どうしたの?」

 驚きと戸惑いに僕達はエリスへ問い掛けて、

「安心してくれ――――お前達は私が絶対に護ってみせるから」

言葉以上の強烈で気迫に充ち満ちた声で宣言するエリス。

 優しさと温もりに満ちた宣言に体を縛りつけていた空気がは消えて、何も根拠はないけど…………心が安心に和ぐのわかった。

 そんなエリスの言葉と、想い。そして揺るぐ事のない決意に、僕と夏先輩は笑顔で答えた。

「うん、信じてる」

「負けるな、エリス!!」

「あぁっ!!」

 僕達二人の言葉に顔は見えなかったけど、エリスもきっと笑顔で応えてくれたって感じて。

 気力と覇気に満ちた声が世界に響いて、エリスは溢れ出す力を解き放つように『虹の陽炎アルクス・カリマ』を真上に投げた。

「なっ!?」

 エリスの思わぬ行動に女が驚きの声をあげて、それを切り裂くように。主の想いに応えるように『虹の陽炎アルクス・カリマ』はエリスの正面へと舞い降りて―――――――――胸の位置まで降りたところでエリスが右手で横凪ぎして、ガラス細工みたいに粉々に砕け散った。


「神威『第一位』解放っ!!」


 そして砕け散った欠片は一つ残らず、幻のように空間に消えて。




「――――――『斬閃・乱れ陽炎』!!」




 黒と紅の世界を切り裂くように、何重も閃光が乱れ煌めいた。



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