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れせぷしょん  作者: りくつきあまね
神村夏子
2/39

――― 4月27日 ―――

「…………はぁ」

 僕はネクタイを乱暴に外してベットの上に仰向けに横たわった。

「………………………」

 夏先輩がこの世から去って今日で5日目。

 今日は夏先輩のお葬式だった。

僕は喪服のままベットの上でお葬式の事を思い返した。参列者は血縁関係は勿論、高校だけではなく中学校や小学校時代の同級生から先生と会場から溢れてそのほとんどの人達が泣いていた。

 葬儀中は嗚咽と泣きじゃくる声が止むことなく、悲しみだけが溢れていた。運命はあまりにも残酷で神様はどうしても悲劇が好きみたいだ。

 5日前。夏先輩は夕方下校途中で夕飯の買い出しでスーパーに立ち寄ったらしい。

 その場にいた目撃者の話ではスーパーから出てきた夏先輩をナイフで心臓を一突き、ほぼ即死だったらしい。犯人はすぐその場から逃げ、そのまま逃げたのかと話を聞いたら。


―――――グシャッ。


 赤だった信号を無視して横断歩道を渡って、大型トラックに轢かれ犯人も即死だったらしい。

 この話を聞いた時、可哀相だなって思った。勿論、犯人なんかじゃない。夏先輩のお父さんだ。

 最愛の娘である夏先輩を奪われて、その奪った犯人も死んで憎しみを向ける対象もいなくなって、ただ哀しみという絶望だけしか残らなかったんだから。

 お葬式が終わって最後。夏先輩のお父さんが集まってくれた人達に一人一人に挨拶して回ってた。

 僕はどういう顔でどう言葉を交わしたらいいのかわからなくて、あたふたしてた。必死に何を話そうか考えてた時に不意に夏先輩のお父さんと目が合って。 

 夏先輩のお父さんは相手をしていた人に会釈して、真っ直ぐ僕のところに歩いてきた。

 僕は夏先輩のお父さんに名乗ろうと口を開いて、

「初めま」

「萩月凜君だね」

何の迷いも無く言い切った夏先輩のお父さんに僕は口を開けたまま驚きで固まったまま言葉が出で来なかった。

「なんで僕の名前を?」

 よくありがちな問い掛けに、夏先輩のお父さんは小さく苦笑いで答えた。

「娘、夏子からよく話を聞かせられていてね。それに目立つ髪の色だったからすぐにわかったよ」

「そう、ですか」

「…………はは、少し前までくだらない話をしてあの娘が作ったご飯を食べながらのんびりしてたんだけどね……」

 顔は笑顔だった、文句なしに。でも。

「おっとそういえば名乗ってなかったね」

 瞳の奥に感じたのはどこまでも深くて深すぎて絶望だけしか見えない、そんな悲しみ。

「神村冬樹だ、よろしく萩月君」

 そんな悲しい笑顔で差し出された右手。そんな右手を僕はただ見つめて。

「萩月凜です。よろしくお願いします」

 握手をしようと僕も右手を差し出そうとした時だった。



 ――――――ズキッ。



 右眼に突然釘を打ち込まれたような鋭い痛みが走って。

「ぅぐっ!?」

 僕は右眼を押さえ、痛みに力が抜けそうになる両足に必死に力を込めてその場で痛みに堪えた。

「っ…………」

「どうしたんだい?具合でも」

 僕の様子に異変を感じたのか、冬樹さんが顔を覗きこもうとして。

「大丈夫です、少し目眩がしただけですから」

「そう、かい?」

「はい」

 傷みに呻きそうになるのを堪えて。

「あまり長くいてもなんですから、僕はこれで失礼します」

僕は軽く会釈をして、

「少し休んでいった方が」

「それは冬樹さんの方ですよ。目の下にクマができてます、あまり寝てないのまるわかりですよ」

冬樹さんの気遣いにもう一度会釈をして、僕は夏先輩の家を後にした。



「…………はぁ」

 普段は広くて快適な部屋も、ため息しかでない今の僕には牢獄みたいだ。

 夏先輩のお父さん、かなり無理してたな……いや、正確には夏先輩と親しい人達全員か。

 夏先輩が亡くなってから全てが変わってしまった。学校では生徒は勿論、成績も優秀で素直で人辺りの良い夏先輩を可愛がっていた先生方。帰り道でよく話をしていたお母さん方と皆、夏先輩の死をまだ受けいられないようだった。でも仕方ないとも思う。現に僕も今だに先輩が死んだって実感がないんだ。 

 それこそ、いまにもドアをいきなり開けて「凜、遊びに来たよー!!」って来てくれそうな気が。




――――――ズキッ!!

「つっう!?」

 いきなりすぎる右眼の激痛に僕は跳ね上がるように体を起こして、右眼を押えたままふらつきながら立ち上がる。

「もう……また取り憑かれたかな?」

 僕は止むことのない激痛に足元をふらつかせながら部屋を出て、壁に寄り掛かりながら階段を降りていく。目指す場所は洗面所、そこで右眼のコンタクトを外した。

「最近はなかったのにな……気分が落ちると寄ってくるのかな」

 僕は洗面所へたどり着き、鏡の前に立つ。

 右眼の黒のコンタクトレンズ。これはあえて黒にしてある。黒なら完全に視界を遮って何も見えなくなるから。

「っと」

 僕は右手でコンタクトを外し、

「あまり怖くありませんように」

どこの誰にというわけじゃなくお願いをして、閉じていた瞼をゆっくり開いた。

「…………………」

「…………………」

 鏡越しに見える人影。僕は当然映っていて、もう一人のそこに映っていたのは。


挿絵(By みてみん)


「………………夏先輩」




 僕は夏先輩の姿に絶句した。 

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