――― 5月4日 想い・求 ―――
更新遅くなりました。更新速度は前より遅い上に文字数は半分……すみません。でも楽しんで呼んで頂ければ幸いです!!
校庭には此処の生徒達が体操服に練習着、ジャージと色んな格好で部活っていうモノに励んでいる。
「人間界は少子高齢化って言ってるけど、いる所にはいるもんね」
「…………」
私は校庭を歩きながら、私の横で眉間に皺を寄せて浮かんでいるナツコにため息混じりに声を掛けた。
「ふぅっ……ナツコ。リンが心配なのはわかるけど、ランさんが付いてるから大丈夫だって」
「うん…………」
完全に空返事、気持ち此処にあらずって感じだ。けど、仕方ないか。いつもは凜と一緒だったのが今は別々だし。
私はナツコから校舎に視線を移して、昨日の昼の事を思い出す。
「なっ!?なんでリンが!?」
「凜!?」
私とナツコは居間を飛び出してリンとランさんに駆け寄った。
「凜っ!?目を開けてっ!!ねぇっ!!凜!!」
ナツコは倒れたままピクリとも動かない凜に肩を揺さぶりながら必死で呼びかけて、
「夏子さんや、大丈夫じゃよ」
「大丈夫って!?こんなに血だらけなのに大丈夫なわけないじゃないなですか!?」
安心させようとしたランさんに喰って掛かるナツコ。
「傷はもう完治させておる。ほれ、服が破けた所見てみぃ」
そんなナツコの様子なんて気にしない、っていうふうにリンの左肩を指差した。
「完治って、こんなに血だらけなのに」
ナツコはランさんに言われるまま視線を左肩に視線を向けて、
「あっ」
目に映った服の裂け目から見える白い肌に声が小さく漏れて。
「のぅ?大丈夫じゃろ」
ランさんはナツコにウィンクをしながら得意気に笑った。
「ところで昼は食べたかの?」
今の状況に対して不自然すぎるランさんの話題に私とナツコは、
「昼…………ですか?」
「いえ、まだですが…………」
胸に妙な違和感を憶えて。
「そうか」
そう言ってランさんはリンを担ぎ上げ、肩に乗せる。
「とりあえず凜をベットに寝かせてくるでの、終わったら何か作ろうかの」
「ランさん」
私はランさんを言葉と視線で止める。
「…………」
「何でリンが外にいるんですか?」
私は昨日の夜からずっとリンの魔力を感じ続けていたのに今、目の前にリンがいる。そしてリンの魔力は今も二階から伝わってくる。
「む、ごもっともな質問じゃな」
ランさんは私の質問は予想通りって顔で、
「凜の写し身を部屋に置いて、魔力感知無効の結界を張っておいた。危険というのはわかっておったからの、ワシがついて行った」
「なんで……」
「一応、凜の気持ちを汲んだんじゃがの……」
そう言って階段に足をかけ、
「なら何で私に声を掛けてくれなかったんですか!?私は任務で」
「今のお主よりはワシの方が千倍は安心じゃからじゃよ」
現実を突き付けるように冷めた目で私を見る。
「ぐっ…………」
「色々言いたい事も聞きたい事もあると思うが、ワシも確かめたい事があるからの。凜が目覚めるまで待っておれ」
「…………」
「ど、どのくらいですか?」
無言の私に代わってナツコが階段を上がるランさんに声をかける。
「明日の朝か、遅くとも昼には目を覚ますじゃろ」
「じゃ、じゃあ凜の看病を」
「ならん」
ナツコの提案をピシャリッ!!と切り捨ているランさん。
「な、何でですか?」
「何故、じゃと?」
リンと同じで子供にしか見えない姿からは圧倒的なまでの圧力を感じ、鋭い視線をナツコに向けるランさん。
「それは」
「そ、それは……?」
あまりの緊張感にゴクリと唾を飲むナツコ。
「孫の貞操を護る為じゃ」
「…………はい?」
「っ!?」
私はランさんの言葉に反応できず目を細めて聞き返して、ナツコは一気にトマトみたいになる。
「いやぁ、ワシは曾孫が早く見れればそれにこした事はないがの……凜とて寝ている間にそんな事されも実感がわかんじゃろ?」
目を細めたままナツコを観察するように眺めるランさん。
「折角、顔も体も性格も良い文句なしの嫁がいる凜としてもそういう事は互いに相手を嬲るようにねっとりじっくりと観察……っ!?」
そこからの私は正に神業だった。
下駄箱の横に掛けてあった靴べらを取り、後ろに振りかぶってランさんに投げつける。当然、リンに当たらないように1ミリの狂いもないコントロールでランさんの額を狙って投げた。そこまでの動作とランさんの額に着弾するまでの時間。わずか〇.〇一秒。
「がっ!?」
「何言ってるんですか!?」
私もナツコのようにきっとトマトみたいに赤くなっているに違いない。言われた事の過激さに息が乱れる。ナツコに至っては両手で顔を押さえて、床にへたり込んでいた。
「痛いじゃろうがっ!!」
額を押さえながら涙目で叫ぶランさん。
「変な事を喋るからです!!」
投げた後に思ったけど、私が投げたモノをくらっておでこが赤くなるだけって…………根本的におかしくない?
「まったく、凜もそうじゃが最近の若者はワシが話をするとすぐに攻撃してくるのぅ」
「攻撃ではなく防衛です」
さすがに痛いらしくおでこをさすりながら、
「まっそう言う事じゃ、凜が目覚めるまではワシが凜を看ておくでの。若い二人は今の内に凜が目が覚めた時にどうするか相談しておくんじゃぞ」
「私を巻き込まないでください!!」
私の文句を聞き流しながら二階に上がっていた。
でも結局、リンは昼を過ぎても起きなくて……リン抜きでしなくちゃいけなくなった。
生徒用玄関に辿り着いて、
「リンの事は良いから、ナツコは自分の事に集中しなさい。学校に来たのもあんたの未練の手掛かりを探しに来たんだから」
ナツコは『未練』って言った私の言葉にピクッと反応して、心配と不安が入り混じった顔で私を見下ろした。」
「まっ、心配するなっていう方が難しいか」
ナツコの沈んだ表情に小さく苦笑いして。リンがいない方が都合がよかったかもね。
「とりあえずナツコが三日前、意識を失う前に見たって言う記憶の断片。それを手掛かりに探してみようって話なんだけど、もう一度確認させて貰って良い?」
「う、うん……良いけど」
「ええっと……確か」
ナツコが『霊現体』になって九日目。睡眠とは違う意識の断絶が起きた。その時に見た記憶の断片はナツコが誰かに手紙らしきモノを渡そうとしていた時の記憶を見たらしい。けど、記憶整理による記憶の断片は時間軸がランダムで再生されるからあまり参考にならない時もあるんだけど。
「今の科学が発展した時代にわざわざ手紙を書くって事はある程度大事な事だっただろうから未練に関係しているかもね」
「うん、でも…………」
ナツコは腑に落ちない、って感じで私を見て。
「なんで学校なの?手紙だったら郵便局とかで」
「勘よ、女の勘」
「お、女の勘……って」
ほんの少し呆れた感じの表情になって、
「いいから!!私の勘って結構当たるんだから、黙って付いてきなさい!!」
それを力ずくでねじ伏せる私。
「う、うん…………けど」
「何?まだなんかあるの?」
「セフィリアって普通の人にも見えるようになってるんだよね?」
「そうだけど?」
それがどうしたの?とナツコの言葉を促して。
「学校関係者じゃないセフィリアが学校の中を歩き回ったら不味いんじゃ……」
そう言って周りを恐る恐る見渡すナツコ。
「大丈夫よ」
それに対して私は自信満々で答えた。
「ナツコにはそのまま私の姿が見えてると思うけど、他の人間には私はリンに見えてるから」
「り、凜に?それって……あっ法術か」
「正解」
最初は驚いた様子だったナツコも納得したように両手を胸の前で合わせるようにパンッと叩いて、私も得意気に言ってみた。
「でも何で凜の姿に?」
「いや、リンってあんたと同じでここの生徒でしょ?学校にいたって不自然じゃないじゃない」
「あっ、そっか」
「……………」
もしかしてナツコって少し抜けてる?
「とりあえずナツコの教室に行ってみましょう。まぁ、その間にナツコの知り合いにでも会えばその人にも話を聞いてみたりもするけど……名前を知らないからそれなりにフォローしてよ?」
「わかったわ」
示し合わせたわけじゃなかったけど互いにウィンクし合って階段を目指して長い廊下を歩いた。
そこから私もナツコも無言になってしまった。ナツコは多分リンのことを考えてるんだと思うけど。
「…………」
私はナツコに気づかれないように横目でナツコの様子を窺った。
私が学校に来たのは女の勘なんて不明確な理由じゃなく、ちゃんとした理由があっての事だ。
学校に来た理由は二つ。一つはナツコの未練探しなんだけど……多分、私の予想が正しければナツコの未練はアレだ。死んでリンに取り憑いた事や今まで見てきた二人の様子。それに昨日の話からまず間違いないと思う。
そして残りのもう一つは法術だ。ランさんの話では昨日は二つ封印してくれたらしい。ホントだったら私が全部法術を破壊しなきゃいけなかったんだけど……今は魔力の消費を押さえなきゃいけないからすごく助かった。でも一つだけ引っ掛かった事がある。
「…………」
昨日、ランさんは何も言わなかったけど私にはわかった。ホントに少しだけどランさんから感じた魔力の気配。
ジュマ=フーリス…………私と同じクラス1stの死神。近接戦闘と魔力の絶対量だけで言えば私に分があるけど……取得法術数に任務達成数、経験では自分よりも上。分があるとはいえ近接戦闘でもかなりの実力者……今までの私でも勝てるか微妙な相手。
(今のお主よりはワシの方が千倍は安心じゃからじゃよ)
あの一言、結構グサッときたなぁ。
私はランさんに言われた一言を思い出して、心の中でへこんだ。
確かにランさんに比べたら全然力不足だし、今と違って私が万全な状態でも勝てる確率なんて無いしなぁ……見下してるわけじゃないけど人間に勝てない神様ってどうなんだろ?
「セフィリア、ここの階段を上がって」
「うん」
ナツコの指示に従って長い廊下から階段へ曲がって、
「一番上の階で良いの?」
「うん、三階。階段を上がり終わったらすぐ右に教室があるから」
「わかったわ」
一段飛ばしに階段を上がっていく。
私は一定のスピードで階段を上がって、
「…………っ」
「ナツコ?」
痛みに一瞬表情が険しくなったナツコに声を掛ける。
「大丈夫、少し頭が痛かっただけだから」
「そう…………」
ナツコの魂が少しだけざわめいてる。やっぱり、ここに来て正解だった。少しずつだけどナツコの魔力も上がってきてる……このまま未練を思い出せれば『事象回帰』の準備は大丈夫。あとは私がアイツを倒せるかどうか…………。
「あれ?萩月君」
いきなり上の方からリンの名前を呼ぶ声がして、
「ん?」
「あっ」
顔を上げて声の主を見た。
そこには白いタオルを首に掛けて青いジャージを着た女の子が驚いた顔で立っていた。
「あん……っ」
あんた誰?と言いそうになって、慌ててコホンッと短く咳払いをする私。
「えっと、あなたは……」
今、私はリンに見えてるからリンみたいな話し方にしないと。バレる事は無いけど、あまりリンに迷惑が掛からないようにしないと……後々面倒な事になるからね。
私は一瞬だけナツコに視線を送って、
「この子は小野あかり、私のっ、………幼馴染み……クラスも一緒よ」
「確か……小野先輩、でしたよね?」
痛みが強くなっているのか苦しそうに喋るナツコを頼りにリンの言葉遣いを真似しながら目の前の女の子に話しかけた。
アカリって女の子は私が名前を呼んだらもっと驚いたのか、目を大きく見開いて。
「あたしの事知ってるの?」
「まぁ、少しだけですけど、ナツ……夏先輩から」
慣れた口調以外で話すのって結構難しいわね。
私は愛想笑いを浮かべながらアカリって子の言葉を待った。
「そうなんだ。まぁ、萩月君はよく夏子と一緒にいたからね」
アカリは懐かしむように(正確にはリンの姿をしてる)私を見ながら、
「会う……いや、見掛けたのはて言う方が正しいのかな」
「え?」
「夏子のお葬式以来かな、君を見掛けたのは。話し掛けようとしたらすぐに帰っちゃうんだもん」
「そう、ですか」
私は身に覚えのない話だったからボロが出ないように短く返事を返した。
「それより今日はどうしたの?ゴールデンウィークなのに学校に来て?」
「えっ?あ、はい。ちょっと忘れ物を取りに」
自分で話を振っておいて、すぐ違う話に持って行かないでよ!!答えるの大変なんだから!!
「お、小野先輩は部活ですか?」
「うん、あと一ヶ月で最後の大会だからね。少しでも多く練習しないと、ちなみにバレー部所属」
「へ、へぇ…………」
自慢げに胸をドンッと叩くアカリ。でも、何故だか会話はそこで途切れちゃって。
「…………」
「…………」
アカリはジーーーッと私を見続けて、
「よしっ!!」
一人で何か納得したみたいに沈黙を破った。
「あ、あの小野先輩……よしっ、て何がですか?」
私は呆気に取られながらアカリに声を掛けて、
「さっき、お葬式で話し掛けようとしたって言ったでしょ?」
「え、まぁ……言ってましたね、そんなこと」
「君にね、渡す……ううん、渡さなきゃいけないモノがあって」
「僕に……?」
全く予想してなかった答えに。
「っぁ!!」
突然、隣から聞こえてきたナツコの悲痛な声に。
「ッ…………」
名前を呼びそうになったけど、どうにか我慢できた。
「あ、頭が……割れっそう!!」
宙に浮かんでいたはずのナツコは床にへたりこむように座って、頭を両手で抱えていた。
「ここで会ったのも何かの縁だし、渡すから教室まで付いて来て」
「えっと」
アカリは私にお答えを聞く前に階段を戻り上がって。
「っ」
アカリが正面を向くのと同時にナツコへ顔を向けて、
「ゎ、たしは……いいっ、から……行って」
ナツコは痛みとして襲っている記憶の濁流に耐えながら、アカリを指差した。
「未練、がっ……わかるかも」
「でも」
ナツコの魂がさっきとは比べものにならないくらいにザワついてる。未練への想いの強さと記憶整理の時に起きる痛みは比例する。けど、普通は軽い頭痛程度で治まるはずなのに……それだけナツコの未練への想いが強いってことか。
「おーい、萩月君。早くおいで、置いてっちゃうよ?」
三階の階段の手すりから上半身を出して私に声を掛けるアカリ。
「い、今行きますっ!!」
「だ、大丈夫だから……はやく、いって」
急かすアカリの言葉に続けて、ナツコが追い打ちを掛けるように私に言った。
「く~~~~~~~~っ!!ナツコはここでジッとしてて、良い?」
「うん……なるべ、くっ早く、帰ってきてね」
痛みに引っ張られるように顔を上げて私に笑いかけるナツコ。顔は笑顔でも痛みとか苦しいって言うのが隠し切れてないからそんな事されると余計心配になる。
「わかってるわよ」
私はナツコにそう言い残して、階段を駆け上がって。
「お待たせしました!!」
「ほら、こっちよ」
アカリに手招きされるまま後をついて行って、少し歩いた所でドアの前でアカリが歩くのをやめた。
「ちょっとここで待っててね」
アカリはそう言い残すとドアを開けて部屋に入っていて行った。
「ここって…………」
顔を上げて、ドアの上の柱に付いていた黒いプレートかかれていた白い文字を読んだ。
「三年……二組?」
「お待たせ」
ものの二分もかからずにアカリが戻ってきて、
「ホントはコレ、渡しても良いのか迷ってたんだ…………夏子と仲良かったから余計に傷つけちゃうんじゃないかと思ってさ」
「あっ」
アカリが私に差し出してきたモノに声が出なくなった。
「でも、やっぱり夏子の気持ち…………ちゃんと知ってて欲しいから」
さっきまでののほほんとしてた空気から全く別な、真剣な雰囲気になったアカリ。到底言い表せない後悔と申し訳なさが伝わってくるだけの笑顔。
「これって…………」
「君宛だよ」
アカリが私に差し出したモノ、それは白の小さな便箋だった。
「くっ!!」
頭が割れるように……粉々に砕かれてるみたい。
「ぁっ、ぅんっ!!」
前に学校へ来た時はこんな事無かったのに、なんで?
―――――――――――――――ザザッ。
「っ!?」
痛みの感覚が”砕く”から”切り刻む”に変わって、それと一緒に映像が渦を巻いて流れていく。
「ぅぁっ」
見慣れたピンクの机に壁、あの時見た映像と同じ私の部屋。
(できたーーーーーっ!!)
机に座って一枚の紙を天井に向けて掲げながら喜んでいる私。
(あとは凜の下駄箱に)
顔を真っ赤にしながら誰かの名前を口にして何かを想像している私。
「こ、れ……って、っ」
あの時と同じ映像。でも今度は。
「つっ!?」
(凜、びっくりするだろうなぁ)
明確に私の言葉が。
(泣いても笑っても明日で決まる!!頑張れ、私!!負けるな、私!!)
言葉だけじゃない。この時に思ってた想いも映像に乗って一緒に溢れてくる。
手に持っていた紙を綺麗に二つ折りにして白い便箋に入れ、封をする。そしてお母さんの写真が入った写真立てを手にとる私。
「凜に私の想いが届きますように」
これだったんだ、私の未練。
そう確信し……思い出した瞬間。私の中でカチッと何かが開く音がして。
「…………っ」
さっきまで私を飲み込もうとしていたモノは時間が止まったように消えて。
「ははっ!!」
代わりに胸に溢れてくる感情が私を包み込んでいく。
こんなに苦しいのに、こんなに辛いのに…………胸が締め付けられてつぶれてしまうんじゃないかと思う度に溢れてくる。
温かくて、優しくて、どこまでも輝いていて…………このどこまでも求めてしまう感情が私の『答え』。
これが私、神村夏子の…………想い。
私は自分の中から溢れてくる想いを抱き留めるように自分の体を思いっきり抱きしめる。
「こんなっ、大事な事……忘れてたんだ」
今出た言葉には私自身を責める想いもほんの少しだけあった。けど、それ以上に私は嬉しさに満たされていた。今、私を満たしてくれているこの想いが嬉しくて、恋しくて、愛おしくて。
「っ」
視界が溢れてくる想いに見えなくなる。
ほっぺに溢れ出た想いが流れて、私はただ溢れた想いを言葉に込めて。
「凜!!」
今、一番にこの想いを伝えたい人の名前を呼んで。
「準備時間は終わり、っと」
後ろから楽しいで着飾った暴力が答えた。
「っぁ」
世界は私の想いを赤く塗りつぶしていく。
「ぁっ…………」
振り返っちゃ駄目。絶叫じみた声が私の中でそう叫んでいる。でも、私の体は何の抵抗も出来ず後ろを振り返って。
「初めまして、神村夏子さん」
暗闇が人の形になったらこんな感じなんだと思った。
その人はセフィリアと同じで黒一色の服を着て、右手を胸に左手は後ろに隠して嫌みったらしく私にお辞儀していた。
「ジュマ=フーリスです」
そう言って男の人は顔を上げて、
「っぁ…………」
私はその人の表情に言葉が出なかった……だって。
「自己紹介も済んだし」
私を、私の想いを玩具を見るみたいに。どこまでも無邪気で、どこまでも暴力的な笑顔で見ていたから。
「さぁ、お祭りだよ」
あ、忘れてました。挿絵(線画ですが)も「みてみん」さんで載せましたので覗いてみてください。挿絵は「5月3日 ココロ模様・後」と「5月4 想い・求」の二枚です。




