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れせぷしょん  作者: りくつきあまね
神村夏子
10/39

――― 5月3日 ココロ模様・前 ―――

れせぷしょん最新話です!!今回も人間模様メインの二部構成(予定)でお送りします。クライマックスまでに必要だと思われるものだと思いますので暫くお付き合い下さい。

 壁に掛かっている時計が指す時刻。


 ーーーー午後12時24分。


「……………………………」

「……………………………」

 き、気まずい。

 な、何か話さないと…………でも何を話せば良いのかしら?

「……………………………」

 私の目の前でただジッと黙ってテレビをみている綺麗な金髪の女の子。

 凜は部屋に閉じこもっていて蘭さんは朝早くに出掛けちゃったから、今この居間にいるのは私こと神村夏子と死神のセフィリア=ベェルフェールの二人だけ。

 頬を一筋の汗が伝って、

(な、何でこんな事になったんだろう?)

原因、というかこの状況の発端は昨日の夜。私が目を覚まして、ちょうど凜とセフィリアさんが帰って来た時だ。




「夏、先輩」

「はは、おはよう…………って時間じゃないけど」

 そう言って照れ笑いする私、でも。

「良かった…………目が覚めて」

 凜は私の様子に安心したように笑って、ホッと胸を撫で下ろした。

「?」

 一安心。確かにそう言う気持ちも凛の言葉や笑顔から感じた。けど、その笑顔のに心の中で何か引っかかるのを感じた。

「やっと帰ってきたの、凛」

 そう言って居間から顔を出した蘭さん。

「とりあえず一安心と言ったところかの」

「ご心配お掛けしました」

「いやいや、そんな気にせんでいい。とりあえず凜達も帰ってきたしの、少しばかり遅いが夕飯しようかの」

 蘭さんは私が目を覚ましたことと可愛い孫の凜が帰って来たことが嬉しいみたいで「ほほっ」って小さく笑って、

「お祖母ちゃん」

台所に向かおうとしていた蘭さんを呼び止める凜。

「何じゃ?何かリクエストでも」

「ううん、夕飯いらないや」

「うぬ?外で食べてきたのかぇ?」

「そういう訳じゃないんだけど…………」

 凜は蘭さんに申し訳なさそうに笑って、

「ふむ…………」

「ちょっと一人で考えたいことがあって…………」

そんな凜の様子に何か察した蘭さんは優しいさを込めて小さく微笑んだ。

「そうか、なら後で部屋に持って行こう。何も食べずに考えても頭もまわらんじゃろうて」

「…………うん、ありがとう」

 凜は蘭さんにお礼を言って階段を一歩上がり、

「あ、夏先輩」

「何?凜」

振り向きながら私の名前を呼んだ。

「今日はセフィリアもいるし、お祖母ちゃんの話し相手ついでにガールズトークとか久々に楽しんでください」

「え」

「じゃあ、僕は部屋に行きますね」

 会話を避けるようにそう言い残し、凜は駆け足で二階に上がっていた。

 パタンッ、と凜が部屋のドアを閉める音が響いて。

「すぐ夕飯の支度をするでの、少し待ってくれるかの?」

 それに続けるように蘭さんが質問をしてきて、

「え、あっはい」

「手伝うわ。ランさん、今日の献立の予定は?」

「冷蔵庫と相談じゃの」

セフィリアさんは蘭さんと一緒に台所へ歩き出して。

「あっ、私も何か…………って触れないんだった」

 それでも慌てて二人の後を追う私。

「…………」

 でも、少しだけ止まって階段を見上げる。

「凜…………」

(さっきの…………部屋に入ってこないで、って意味だよね?)

 私は小さくため息を吐いて、蘭さん達の所へ向かった。




 そして今日の朝。凜は部屋から出てこなくて、さっき呼びに行ってみたけど返事はなし。多分、まだ寝てるのかもしれない。

 私が気を失っている間に大変な目に遭ったみたいだし……それに沢山迷惑かけてるし、あまり無理をして欲しくないっていうのが本音。

「……………………………」

 私はセフィリアさんを見つめながら、改めて思う。

(この子、凄く綺麗だなぁ……………)

 肌なんてシミ一つ無いし、雪みたいに綺麗な白。きっとニキビと気になったことなんてないんだろうなぁ。髪だって金糸みたいに艶々だし、スタイルも羨ましいくらいにバランスがとれてて無駄肉なんてなさそう。

 昨日、凜はこの子と二人っきりで出掛けてたんだよね………………何してたんだろ?

 私はそんなことを思いながらセフィリアさんを眺めていたら。

「ちょっと」

 突然、セフィリアさんが口を開いて、

「さっきから何見てんのよ?」

少しだけ頬を桜色に染めてこっちを横目で見た。

「あ、あっ…………ごめんなさい。その」

 セフィリアさんは私を見ながらお茶を飲んで、

「綺麗だな、って」

「ブホッ!?」

驚いたようにお茶を吹き出した。

「セ、セフィリアさんっ!?」

「ゴホッゴホゴホッ!!」

「だ、大丈夫ですか!?」

 私は慌ててセフィリアさんの背中をさすろうとして、

「だ、大丈夫…………平気だから」

私を止めようと上げた手に動くのを止めた。

「…………」

「?」

 今度はセフィリアさんが私を上から下まで品定めみたいに眺めて、呆れが混ざったため息をついた。

「いや、あんたがそれをいうと嫌味にしか聞こえないわね」

「えっ?」

 私はセフィリアさんの言った意味がわからず、

「そういえばリンも昨日言ってきたわね」

「綺麗…………ってですか?」

 私はテーブルをすり抜けてセフィリアさんに詰め寄った。

「え、えぇ……あんたとはタイプが違うけど綺麗だ、って」

「……………私とタイプが違うって?」

 その一言が耳に引っかかって、

「いや、あんたも綺麗ってことでしょ?」

「っ!?」

一気に身体中の血が沸騰した。

「っぁ…………」

 絶対赤くなってる!!それも頭から湯気が出てもおかしくないくらいに。どうしよ!?変に話を聞き込まなきゃ良かった!!

「あと」

「ひゃ、ひゃいっ!?」

 しまった!!恥ずかしさが治まってないのにいきなり話しかけるから声が裏返っちゃった。

 茹で蛸まっしぐらな私の様子に少しだけ呆れてるような視線を向けるセフィリアさん。

「…………あと私に敬語とか、『さん』づけとかいらないわよ」

「へっ?」

「私、リンと同い年だからナツコの方が年上だし」

「…………………年下?」

 さっきまでテンパッていた脳に氷水を流し込まれたように一気に熱が治まっていって、

「ええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええっ!?」

別の驚きでまた熱が上がっていく。

 セフィリアさんは私の声がよっぽどうるさかったのか両耳を塞いで、私の声が途切れたのを見計らって話を続けてくれた。

「まぁ、ホントは年上のあんたには敬語を使わなきゃいけないと思うんだけど私に人間じゃないし。それに私より弱い奴には敬語なんて使わない、っていうのがポリシーだから」

「ぁ…………っあ」

 私は驚きすぎて口をパクパクさせるだけで、

「何?そんなに驚くことなの?」

「だ、だって……」

とりあえず、その一言だけ呟いて咳払いをする。

 会話を仕切り直すって言う意味と気持ちを落ち着ける二つの目的で短く息をはいて。

「その、『死神』って一応神様でしょ?だから若く見えても……何十年とか、何百年とか生きてると思ってて」

「まぁ、私の先輩とかお師匠様は百年単位で生きてるけどね。私達『死神』とか神様は本人の意志次第だったり、魔力の量次第なんだけど大体は成人するまでは人間と同じ様に成長してそこから魔力の量に比例して年を取るの」

「へぇ、神様にも寿命ってあるんだ。初めて知った」

「当然でしょ。普通は私達に会うのは死んだ後だけなんだから」

 感心する私を鼻で笑って冷めたお茶を飲み込んで冷たさに渋い顔をするセフィリア。

 私はそんなセフィリアを見ながら思った。

(私、というか私達って神様の事あまり知らないんだなぁ…………)

 でも、それは当然としか言えない。セフィリアがさっき言ったみたいに死んだ時しか会えないのなら神様と話せる時間なんて無いし、知ろうって言う興味……そもそも私達自身の意識がないからそんな機会なんて無いんだと思う。

「まっ、そんなわけで敬語なんて使わなくて良いわよ」

「う、うん」

 現に、今こうして『死神』のセフィリアと話せているのも私が死んで『未練』に縛られて幽霊になったから。凜や蘭さんみたいに魔力があるわけじゃないから、普通だったら話すことはおろか『視』る事だってできなかったんだからこれは凄い偶然だと思う。

 まぁ、自分が死んだ事を偶然とかって言う言葉で済ませてしまうのは嫌だけど……これはこれでチャンスだと思った。

「ね、ねぇ?セフィリア……聞きたい事があるんだけど」

「何?」

 ホントは神様相手にこんなこと聞くのは失礼かもしれないけど、胸の奥から溢れてくる感情が私を突き動かす。


「死神……ううん、セフィリアの事教えてくれない?」


 

 ―――――――――――時刻は五時間前に遡る。



 ゴールデンウィークも今日を入れて残り三日。

「………………………」

 耳にはいるのは馴染みのある商店街の喧騒。

 ゴールデンウィークでも働いてる人は働いてる。こういう時って働いている人達には申し訳ない気持ちになったりするけど、今はそんな気持ちも後回し僕は商店街の入口前で辺りを見回して、警戒してた人達の姿もなくちょっとした緊張感と一緒に息をはいた。

「うん、気づかれずに出てこれたみたい」

 まぁ、それもそうだよね。考え事してるはずの僕が黙って二階の部屋の窓から外に出るなんて誰も思わないはずだから。それに昨日の夜、お祖母ちゃんに「考え事したい」って言った時にはもう決めてたし。

 ほんとはすぐにでも出掛けようと思ってけどベットに座ったのがいけなかった。今まで色んな事がありすぎて疲れが溜まっていたのかもしれない、気がついたら朝の四時になってた。幸いにも早い時間だったから皆は起きてなくて急いでシャワーに入って着替えた。そこから大体二時間ぐらい、念のためばれて尾行されても撒けるように人通りが多くなる時間帯になるまで部屋でぼーっとしていた。久しぶりに何もしない、何も考えない時間が持てたおかげなのか、気持ちの整理ができた…………ほんの少しだけど。

「さてと、最初は通り魔に襲われた所に行ってみようかな」

 昨日、気がつけば僕は家の前にいた。周りもすっかり暗くなっていて、最初は何で?って自分でも思った。けど、すぐ後ろにいたセフィリアが軒先で教えてくれた。

 夏先輩の殺された理由を知った僕。その僕はいくら声を掛けても返事をしなくて、ついには無言でフラフラ当てもなく歩き出したらしい。ホントならセフィリアの言っていた場所に行かなきゃいけない筈だったんだけど、僕のあまりの様子に気を遣ってくれたセフィリアはただ黙って僕の後を付いてきてくれたみたいだ。最終的には帰巣本能なのか家の前で止まって、昨日の夜に至る。

 結果、昨日のセフィリアの任務は一歩だけ踏み出してそのまま放り出した感じになっちゃった。

 ホントだったら今日もセフィリアと二人でまわるはずだったかもしれないけど、セフィリアに迷惑を掛けちゃったから場所を回って法術を封印するくらい僕一人でやらないと申し訳ない。それに、

「狙われてるのは僕なんだ、これ以上誰かに迷惑掛けられないし」

もう、誰も巻き込みたくない。

 僕はピシャリッと両手でほっぺたを叩いて、

「よしっ!!」

気合いを入れ直して歩き出そうとした時だった。

「張り切って行こうかの」

 後ろから毎日聞いている声に心臓を打ち抜かれた。

「なっ!?」

 僕はすぐに後ろを振り返って、

「おっ、お祖母ちゃんっ!?」

「うむ、お祖母ちゃんじゃ」

外出用の淡いピンクベースに白と銀の花柄の着物を着たお祖母ちゃんの姿に目が飛び出しそうになる。

「なななん、なんでっ!?」

「ワシを出し抜くなんぞ、曾孫が産まれるまで早い」

 ものすごく具体的かつ現実的で嫌な時間提示で僕の横を歩いていくお祖母ちゃん。

「それに感謝するんじゃぞ、セフィリアにばれんようにお主の魔力と似た魔力を込めた『写し身』を置いてきたからの。あまり結界術は得意じゃないんじゃが家の周囲に魔力変化を察知できぬ結界を張ってきた。魔力変化の察知が出来んから一応迎撃用結界も張ってきたからの、精度はそれなりじゃからしばらくはばれんじゃろ」

 得意気に説明をしながら僕の方を振り向くお祖母ちゃん。

「す、すごい。お祖母ちゃん、そんな事も……ってっ!!そうじゃなくて」

「何年、お主の祖母だと思っておるのじゃ?お主の考えてる事など顔を見れば一発でわかるわい」

「そんなにわかりやすいかなぁ……」

「モロバレじゃ」

 笑顔のまま、突き刺すような視線をぶつけるお祖母ちゃん。

「うっ…………」

 いつも優しいお祖母ちゃんだけど、目が笑ってない笑顔のお祖母ちゃんは十六年間生きてきて一番怖い気がする。

 それから暫くお祖母ちゃんに睨まれて僕は声を出せず、お祖母ちゃんは僕を睨んだまま話を続けた。

「…………まったく、セフィリアからある程度話は聞いておったが…………聞けばお主が狙われておるのじゃろ?何で一人で行動しおった?襲われたらどうするつもりだったんじゃ?」

 お祖母ちゃんの問いかけでやっと声を出した僕。

「襲われたら逃げるよ」

「『虚』や『死神』相手に逃げ切るのは凜には無理じゃろ、ワシみたいに術が使えれば話はわかるがの。ただ『視』えたり触れるだけじゃ一般人と変わらん」

 僕の出した答えに即答するお祖母ちゃん。

「そ、それだけじゃないよ!!一昨日襲われた時は『虚』を封印できたし」

「完全に能力が解っとらんのに次できる保証はないじゃろ」

「でも、昨日も魔力を集めるっていう法術も封印できたから大丈夫」

「それは『核』を触れたらの話じゃろ、反応するのがやっとの相手にどうやって触るんじゃ?確かに霊体を『視』たり触れたりもするがの、こと戦闘になれば少しばかり鍛えとる人間とさほど変わらん。お主を含め普通の人間では攻撃された瞬間にお陀仏じゃわい、一昨日のは完全に運で生き残ったに過ぎんよ」

「うっ…………っぁ」

 お祖母ちゃんに反論しようと口を開いても、パクパクさせるだけ。言われた事が全部正しすぎて言い返せない。

 やれやれって感じで首を小さく左右に振るお祖母ちゃん。

「もう一度聞くが、何で一人で行動しおったんじゃ?」

 今度は責め、というよりは本当に心配してくれているのが伝わってくる声でお祖母ちゃんが眉を寄せながら言った。

「それは…………」

 僕はそう言って自分の中にある自分で出した答えを出来る限り正確に伝えようとして、

「迷惑を掛けたくないんだ……僕のせいで誰かが傷ついて辛いめに遭ったり、迷惑を掛ける位だったら」

「ふんっ!!」

「いでっ!?」

途中でお祖母ちゃんにおでこを少し強めにチョップされた。

「い、いきなり何するのさ!?」

「馬鹿な事言っとるからじゃ」

 胸の前で腕を組んで、お祖母ちゃんが僕に諭すように言った。

「人間、生きてれば誰かしろ迷惑をかけて生きてるもんじゃ。それこそ世界中の人間が周りの誰かに迷惑を掛けながら生きとる。ワシだってそうじゃ、ワシも凜に迷惑掛けながら生きとるぞ」

「僕に?」

 お祖母ちゃんの言ってる事がわからなくて僕は聞き返してしまった。

「そうじゃ。仕事で忙しい時は家事を任せっきりになったり、お主が疲れてても肩を揉んで貰っていたり……曾孫をみたいと駄々をこねたり。数えればきりがない」

「そんな事ないよ!!まぁ、最後の曾孫は……迷惑、だけど。お祖母ちゃんには母さんが死んじゃった時に沢山助けて貰ったし、今まで母さんの代わりにご飯だって洗濯だって掃除だってしてもらったよ。他にも父さんが仕事で忙しくて参観日とか運動会、三者面談とか色々支えてくれたじゃない。だから僕ももう高校生だし、お祖母ちゃんが仕事で忙しい時や疲れてる時くらい僕がやろうってやりたいからしてるだけだもん。迷惑とかそんなんじゃ」

「それと同じじゃよ」

「へっ?」

 また僕の言葉を遮って、今度は僕の頭をそっと優しくなで始めるお祖母ちゃん。

「ワシも凜の為に何かしてやりたい、助けてやりたいと思って今こうしているだけじゃ。確かに迷惑を掛けたくないという気持ちもわからんでもないが……凜を心配してくれる人の気持ちはどうするんじゃ?

「心配してくれる人の気持ち?」

「そうじゃ。今、お主はワシらに迷惑を掛けたくないと、辛いめに遭って欲しくないと一人で行動しておる。じゃが、それはワシやセフィリア。それに夏子さんも……みんなお主に迷惑を掛けたくない、辛い眼めに遭って欲しくないと思っておる。それなのにお主にもし何かあった時。ワシらは「何であの時、私は傍にいて助けてあげられなかったの?」とか「護れたはずなのにどうして護れなかったの」と後悔する事しかできないのは酷いと思わんか?」

「そ、それは…………」

 酷くないよ。なんてとれも言えない。僕だって知っているから、後悔しか出来ない事の苦しさ、辛さ。それを知っているからこそ、何も言えない。

「人は自分以外の誰かに迷惑を掛ける……じゃが、それと同時にその迷惑を掛けている誰かを支えているのも確かなんじゃ」

「……支えている」

「互いに大切な誰かを支え合っているから人は生きられるんじゃ。それを忘れておったら迷惑を掛けたくないと言ったところでただの我が儘と何も代わりはせん」

 お祖母ちゃんは僕を撫でるのをやめて両手を腰にあてて、胸を張って自信と愛情。それに温かい信頼の笑顔で言った。

「迷惑掛けて辛い思いをさせたならその分、相手が辛い事を忘れるまで支えてやればいいんじゃよ」

「ははっ」

 お祖母ちゃんらしいや。僕なんか頭が固いからこんな風に悩んだりするんだろうけど、さすが僕なんかよりも人生経験が豊富…………ううん、違う。違わなくはないんだろうけど違う。お祖母ちゃんが悩んでいないわけがないし、悩まない人なんていない。お祖母ちゃんのこの答えは。

「お祖母ちゃんは強いなぁ」

 自分が支えるって、大切な人の事を心から支えたいって思っているから。自分が支えたい人、支えなきゃいけない人。自分が背負うもの、背負わなきゃいけないもの。その全部がハッキリわかってて、それから目を逸らさない。大切なものを自分が絶対に護りたい、護り抜くって自分で自分に誓っているから……きっとこんな風に笑えるんだ。

「当然じゃ、ワシはお主のお祖母ちゃんじゃからな。ワシが生きとる間はお主と嫁の夏子さん、将来産まれてくる曾孫に危害を加えようとする輩は魂まで捻り潰す」

「夏先輩はお嫁さんじゃないし、曾孫も産まれないよ」

 重くなってた空気を変えてくれたお祖母ちゃんに答えるように普段と変わらないツッコミをする僕。

「安心せい、産まれるまでは意地でもながいきするからの」

「うん、頑張って長生きしてね!!」

 たった一日だけど何日も笑っていなかった気がする。でも、今はお祖母ちゃんのおかげで自然に笑える。僕に必要なものが漠然とだけど掴めそうな気がする。

「さて、少しばかり説教が長くなってしまったの」

「そうだね、すっかり朝の通勤ラッシュは治まったみたい」

 商店街の入り口はさっきまでの喧噪は治まって、普段の姿に戻ってる。

「それでは行くとするかの」

 お祖母ちゃんはどこかスッキリしたっ!!っていう笑顔で僕の少し前を歩き出して、

「うん、行こう!!」

お祖母ちゃんと同じくらい軽くなった気持ちで笑って言った。




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