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れせぷしょん  作者: りくつきあまね
平穏な日常
1/39

――― 始まりの日 紡 ―――

一応、サイトのやり方でやってみたのですが挿絵を入れられません。


サイトにも投稿したんですが……。挿絵を入れる方法を教えてください。

「すっ好きです。俺と付き合って下さい!!」

 不意に響く男の人の声。僕はその声で目を覚ました。

 視界に映るのは自由気ままな白い雲が浮かぶ青空。優しく撫で付けるように柔らかい風が吹いていて、絶好の昼寝時。

 今は昼休み。僕は学校の屋上、正確には屋上の出入口の横にある梯子を上がってもう一段高い所に居るんだけど……。

 下から話し声が聞こえてきて、

「その、あなたの気持ちすごく嬉しい」

「じゃ、じゃあ」

上から頭半分だけ出して息を殺しながら様子を伺ってみる。

 そこには一組の男女の生徒がいて、その様子と会話の組み合わせから『告白』という言葉が浮かんだ。

 学校の屋上でのイベントってほんとにあるんだなぁ。

 僕は告白イベントの行く末をひっそりと見守りながら、

「あれ?夏先輩だ」

見覚えのある先輩の姿に感嘆のため息をついた。

 僕も通っている高校。紫苑高校一の美少女が誰かのアイドルになろうとしてる。

 夏先輩、これで何人目だろう?

 僕のため息が合図だったかのように夏先輩が相手の男子に頭を下げた。

「ごめんなさい」

「うわっ残念」

 僕は心の中で男子生徒によく頑張ったよ、と賛辞を送った。

「……っあ」

 男子生徒は状況がわかってないのか金魚みたいに口をパクパクさせてぼー然としていた。

「ごめんなさい」

 夏先輩がもう一度その言葉を口にして、男子生徒は我に返ったようで慌てて謝り返していた。

「いえ、気にしないで下さい…………気持ちを伝えられただけで十分ですから。じゅあ、俺はこれで」

 笑顔を引き攣らせながら手を振った。男子生徒が屋上のドアを引き、ドアが閉まる音がした。

 夏先輩はそれからしばらく経ってから頭を身体起こして、ため息をつきながらフェンスに近寄って手をかけ外を眺めていた。

 僕はそんな夏先輩を眺めながら、

(振る方も楽じゃないってことか)

ゆっくり梯子を降りた。

 降り切っても夏先輩は僕に気がついていないようで、なるべく驚かせないよう声をかけた。

「お疲れ様、夏先輩」

 その声にビクッと肩を跳ね上げ、物凄い勢いでこっちを振り向く夏先輩。

「り、凛!?」

 なんか、物凄く驚いてるな……悪いことしたな。

「い、今の…………」

「はい、俺と付き合って下さい・・・・・・のところからいましたよ」

「ななんで!?」

 首筋まで真っ赤にして焦る夏先輩。

「なんでって、僕が寝てるところに夏先輩達の告白イベントが発生したんですけど……」

 僕は申し訳なさそうにほっぺを掻いて、

「今の人、二年生ですよね。結構格好よかったのにもったいない」

夏先輩に視線を合わせた。

 絹のようにまっさらな白い肌に黒みがかった澄んだ瞳に形の良い鼻。血色の良い柔らかそうな唇。それらがそこにあることが当然だったというふうに整った顔立ち。ブレザー越しでもハッキリとわかってしまう双丘に無駄なく引き締まったくびれにそれをよりも強調するようにでたお尻。僕よりも頭一つ分以上高い身長。

 テレビで見るアイドルや雑誌に載っているモデルと比較してもかなり飛び抜けている。

 夏先輩を見ているとさっきのイケメンの男子生徒が凡夫に思えてきた……まぁ、自分はそれ以下って事になるけど。

「まぁ、格好よかったとは思うけど……」

「夏先輩のストライクゾーンではなかったと」

 僕は気の毒にと苦笑いを浮かべて、

「そういえば凜、お昼済ませた?」

「10分くらい前に」

 夏先輩の隣まで近寄ってフェンスに寄り掛かる。

「そう、なんだ」

 少し残念そうな表情を浮かべる夏先輩。

「夏先輩はまだですか?」

「ううん、軽く済ませたから」

「じゃあ立ち話も何ですし」

 そう言って僕はすぐ近くにあったベンチに近寄って座る場所を手で払って。

「ほら、ここに座って話しましょう」

 夏先輩をベンチにエスコートする。

「ありがとう」

 先輩は長い髪を耳にかけて、ベンチに腰を座る。僕もベンチに座り、話を続けようとして。

「………………」

 横目で僕を見る、というか睨んでるような目つきの夏先輩。

「…………?」

 何だろ、僕なにかしたかな?

「あの」

「ねぇ、凜」

 僕の声を遮り、夏先輩が話を進める。

「何ですか?」

 どこか冷たい感情が見えかくれする瞳に背筋を伸ばし、一言も聞きもらさないよう身構えて、

「私にはもったいないっていうけど凜は彼女作らないの?」

「彼女って……あははははっははははははは!!」

僕はあまり聞き馴染みのない言葉にお腹を抑えて大笑いした。

「ちょっ、何で笑うのよ?」

「くははっはは、はぁはははぁっつ…………だって彼女って」

 僕は笑いを堪え、息を整えて立ち上がる。

「夏先輩はどう思います?」

 夏先輩の正面に立って、両腕を広げて質問してみた。

「どう思うって?」

「僕の事ですよ。こんなに背が低くて小学生みたいで、顔だって小学生みたいで男要素全くないし、それに髪と瞳の色が紫色って気持ち悪いでしょう?成績だってそんなに良くないし……良いところ何もないですよ」

 僕は自分の欠点を言いながら少し……かなり悲しかったけど苦笑いで夏先輩にもう一度質問した。

「別に。私は気にならないけど?」

 それがどうしたの?と首を傾げる夏先輩に少し驚いて。

「そ、そうですか?」

「まぁ、人の好みもあると思うけど私は良いと思うけど」

 血色の良い柔らかそうな肌に小さくて控えめな可愛い鼻。これまた柔らかそうな唇に左右色の違うクリッと大きな丸い瞳。可愛いをたくさん詰め込んだ顔立ちは男の子というよりは女の子みたい。

 確かに本人がいう通り男の人特有の逞しさは全然ない。けど、そこが。と、そこまで考えていたらふとあることが気になった。

「そういえば話は変わるけど」

「何ですか?夏先輩」

 夏先輩は僕の右眼を指差して、その動作に嫌な感じがして。

「凜、右眼だけ瞳が黒だけどなんで黒くしてるの?カラーコンタクト?」

 その言葉に反応したのか右眼が少し疼いた。

「右眼の瞳の色が左と違うんです」

「瞳の色?」

「はい、銀色なんですけど……猛禽類って言えばいいのかな?ワニとかそういった感じの瞳の形をしててちょっと怖いんですけど」

 僕の答えに夏先輩は「ふーん、そうなんだ」って別段興味を示さなかった。

 僕はこれ以上右眼について話したくなくて、

「まぁ、こんな何も取り柄もない僕を好きになってくれる人なんていないですよ」

強引に話のベクトルをねじまげた。

「…………そんなこと、ない」

「へ?」

 今にも空気に溶けて消えてしまいそうな小さな声で夏先輩が呟いて、

「そんなことないよ」

今度はハッキリと大きな声で言った。

 夏先輩は顔を背けていて、何故かほっぺがほんのり赤くなっていて。

「夏先輩?」

 どこか様子のおかしい夏先輩に近づこうとして。

「凜、好きな人いる?」

 かなり大きくて強めな声に足が止まった。

「好きな人?別にいないですけど……」

「ほんとに?」

「ほんとです」

「ほんとにほんと?」

「ほんとにほんと」

 夏先輩の顔色が少しずつ赤くなって、瞳も少し潤んでいて具合が悪いんじゃないかと心配になってきた。

「夏先輩、どっか具合でも悪い」

 悪いんじゃあ、と言いかけたところで昼休みの終わりを告げる鐘が鳴って。

「もう終わりか」

 ズボンのポケットから携帯電話を取出して時間を確認する。

「じゃあ行くね」

「夏先輩」

 夏先輩は僕の呼び掛けに振り向かず屋上の出入口に向かう。

「凜!!」

 ドアを開いたところでこっちを振り返ってこれ以上ないくらい真剣な表情で言った。

「明日の放課後、話したい事があるの」

「話したいこと?」

「うん……大切な話」

「今日じゃ駄目なんですか?」

「今日はちょっと用事があるから、ごめんね」

「じゃあ、明日の放課後。屋上でいいですか?」

「うん、お願い」

「わかりました」

「じゃあ明日、放課後屋上で」

 そう言って夏先輩はドアの向こうに消えた。





 そしてこれが僕と夏先輩の最後の会話になった。

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