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三蹴 ノゾミ

「ワンピースの感動シーンってやっぱあそこだよな!」

「あそこ?」

「ああ、アーロン編だろやっぱ! 初期の山場!」

「ああ、ナミがずっとルフィに強く当たって」

「ああ、でもルフィは船長らしく全く動じず」

「そうそう、ナミが『助けて』って言ってさ!」

「いいともおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼」

「いや感動シーン台無し‼」

「いや、そういう愛嬌のあるとこがいいんだろルフィは!」

「そうだけど台詞まで都合よく捏造しないでよ! そこまで陽気じゃないよ!」

「おいおい、それいうと俺やタモさんが陽気な奴みたいじゃないか!」

「いや、タモさんは分からないけどお兄ちゃんは割と陽気だよ!」

「えー? クールなイケメン兄貴キャラじゃないの?」

「いや、まあそういう面もあるけど! 何で自分で言っちゃうの?」

「ゾロの技で鬼の手ってあったよね?」

「いや、微妙にありそうだけどないよ! 鬼斬りとかはあるけど!」

「Dをデーモンとするなら、ルフィのパンチが鬼の手だよな!」

「いや、まあ、それは確かにそうだけど! デビルじゃないの?」

「デーモンにすると出る門でモンキーの門の鍵とかに繋げやすいんだよな!」

「あ、お兄ちゃんも割とまともな考察するんだね」

「尾田っちってぬ~べ~好きじゃないの?」

「えー? 確かにぬ~べ~オマージュとかはなさそうだけど」

「えー? 大先輩の名作なのになあ」

「まあ尾田っちは万遍なく読むタイプでも実はないから」

「ああ、デスノートとか多分嫌いだよな!」

「うん、ハンターハンターとかも趣味じゃないだろうね」

「冨樫義博先生に最初審査してもらったのにな確か!」

「うん、まあそれとこれとはってことなんだろうね」

「久保帯人さんとか空知英秋さんとは割と仲良しだよな!」

「うん、まあ尾田もそこら辺は弄りやすいんだろうね」

「よし、今日のネトフリ権はお前にやるよ!」

「え? いいの? ぬ~べ~以外観ていいの?」

「いいけど、いやそんなぬ~べ~嫌なの? てっきりお前も楽しんでるものかと」

「いや、まあ。よおし、何にしようかなあ」

「あ、ぬ~べ~!」

「いや、この期に及んで何でぬ~べ~に誘導しようとするの⁉ さすがに往生際悪すぎるよ!」

「うーん、ぬ~べ~以外だとなあ。ワンピースとかにしとく?」

「いや、ワンピースもそこそこ飽きてきたからなあ。あ、うえきだ! 懐かしい!」

「え? これ人をゴミに変える奴だっけ?」

「いや、そんなジブリみたいな奴じゃないけど」

「手を鬼に変えるんだっけ?」

「ちょっとぬ~べ~に寄せないでよ!」

「サングラス好きに変えるんだよね?」

「いや、割と惜しいな! 眼鏡だけどね!」

「握力をIQに変えるんだよね?」

「いや、微妙に使えそうなアイデアを!」

「ぴんぽーん」

「お、遂にあれが届いたか!」

「タクミか?」

「やめて!」

 過去のトラウマが蘇ったシノブは恐る恐る玄関のドアを開ける。

「あ、シノブちゃん!」

「あ、ノゾミちゃんか! てっきりタクミさんかと」

「いや、兄だと何かあるんですか?」

「いや、ノゾミちゃんで良かったという話だよ!」

「兄だと何か悪かったんですか⁉」

「ノゾミちゃんなら上がっていいよ!」

「ええ、何か引っかかる言い方ですね……」

 ノゾミは割とタクミを尊敬しているようだ。

「お、ノゾミちゃんか!」

「ま、マナブさん⁉」

「ん?」

 シノブはノゾミの反応を訝しむ。

「お兄ちゃんだよ?」

「あ、いえ、何でもありませぬ、せん!」

「?」

 ノゾミは少し緊張しているようだ。マナブがいたのは想定外だったのだろうか。

「さあて、俺は二階行ってようかな」

「え?」

「お兄ちゃん? どこ行くの?」

「いや、女の子同士の方が話しやすいだろ?」

「え、いや、そんな」

「嫌だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼ ここにいてえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ‼ だって何か寂しいんだもん! お兄ちゃんが視界にいないとさあ!」

「えー? じゃあいていいかな? ノゾミちゃん」

「え、ええ、勿論です!」

 マナブはなんだかんだで妹に甘い。

「俺のことは気にしないでくれ! しばらくぬ~べ~の世界にフルダイブしてるから!」

「うん!」

「ええ、うんって……」

 ノゾミはマナブさんってやっぱぬ~べ~好きなんだなあとか思っていた。

「ノゾミちゃん!」

「な、何ぬ~べ~!」

「? いや、シノブちゃんだよ?」

「ああ、うん、シノべ~!」

「いや、そんな呼び方してたっけ?」

 首を傾げるシノブだが、ノゾミは先程からずっと落ち着かない。

「あの、ちょっとトイレお借りしても……」

「ああ、うん」

「あ、待って! 私も行きたいかも!」

「ええ、じゃあシノブちゃん先でいいよ」

「うん!」

 しかし、これが愚策だった。


「……」

「……」

 まあ、会話は生まれない。マナブから話す理由がないし、ノゾミから話せる道理がないのだから。マナブは自身が女子と話が全く合わないことを理解しているし、ノゾミも恐れ多くて自身からマナブに話し掛けるなどとてもできない。しかし、割と空気を読むタイプであるマナブは、この沈黙状態は良くないような気がしていた。何でもいいから取り敢えず話題を振ってあげるべきではないか。どうせすぐにシノブも戻ってくるのだろうし、少しの時間稼ぎというか間に合わせだ。しかし、マナブがすぐに切り出せる話題など、ぬ~べ~かいいともくらいしかなく、この二つが女子ウケ最悪、というかほぼウケた経験がないことを理解していた。つまり、この二つは除外だ。せめてワンピースとかではないか。ワンピースならまだ令和の中学生にも伝わるのではないだろうか。

「あ、ワンピースでさあ」

「え? は、はい」

「何か好きなキャラとかいる?」

「ええと、ワンピース、ええと、ああゾロとかですかね。あとサンジとか」

「ああ、そこら辺は強いよなあ。みんな好きだよなあ」

「はい。格好良いですよね」

「……」

「……」

 成る程。ノゾミはそこまでワンピースに熱量はないようだ。すぐに会話が終わってしまった。しかしシノブは遅いな。いや、おしっこでそこまで掛かるか? もう五分くらい経ってないか? 何かあったのか?


「うううううううううううううううううう、ノゾミちゃんも絶対お兄ちゃんのこと好きなんだよおおおおおおおおおお、だって超絶格好良いもんね! ほぼ私だし! うううううううううううううう、早く戻りたいのに、うんこが止まらないよおおおおおおおおおおおおおおおおお。かつてない量だよおおおおおおおおおおおおおおおお。うううううううううううう、不思議と気持ちいいからやめられないし止まらないんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、うううううううううううう」


 いや、十分くらい経っていないか? さすがに遅すぎるだろ。

「い、いやあ、シノブちゃんまだかなあ?」

 何かノゾミが少しそわそわしている気がする。いや、これなんかまずくないか。少し我慢しているのではないか。いや、さすがにシノブに早くトイレを明け渡して頂かないと。あいつだけのトイレではないのだ。

「ごめんちょっと」

 と軽く断ってから、取り敢えずシノブの使っているであろうトイレの前へ行く。

「おい、シノブ。さすがに長すぎないか? どうした?」

「あ、お兄ちゃんんんんんん♥♥ やばいんだよおおおおおおおおおお♥♥ 気持ち良すぎてやめられないんだよおおおおおおおおおおおお♥♥ お♥♥ おお♥♥ どんどん溢れてくるんだよおおおおおおおおおおおお♥♥」

「いや、お前今そういうのやめろよ! ふざけてないで早くトイレから出てきてくれ!」

「あ、お兄ちゃん使うの?」

「いや、まあ、ああ!」

 取り敢えずそういうことにしておく。

「そっか。じゃあすぐ出るよ! まだ八割くらいだったけど、なるべく早く中断するよ!」

 マナブはその時一瞬何が八割なのか、と少し疑問に思った。あと何かプリンターみたいだなとも思った。


 幸い、シノブはその後二分くらいで出てきて、ノゾミは恥ずかしがりながらトイレを借り、まあ事なきを得た。

「いや、シノブお前マジ気を付けろよ。まずトイレを占領する癖をやめろ」

「え? いや、でもおもらしの神様だし。あ、うん気を付けるよ!」

 シノブは少しずつ何かを学んできているような気もしなくもない。


「兄さん、マナブさんって素敵な方ですね」

「ああ、最高の友達だぜ!」

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