一蹴 ドロピザ
「ふっふっふ、幻野くんを占ってあげるよ」
「え? 占い? 何でまたそんなスピリチュアルな」
「幻野くんが好きなアニメって天久鷹央でしょ?」
「え⁉ 何でそれを⁉」
「その中で特に好きなキャラは天久鷹央でしょ!」
「えー! 凄い! 何で分かるんですか?」
「ふっふっふ、私良い子だから占いにも目覚めちゃったかも!」
「うわー、すごいなー!」
幻野くんは素直に感心するが、まあ彼もなかなかの天然なようだ。
「おいおい、その程度で占いって」
「貴央先生も占ってあげるよ!」
「ほう、やってみろ」
「貴央先生って実はクロノトリガーも好きでしょ?」
「え? は? いや、何で」
「で、好きなキャラはクロノでしょ!」
「えー、いやいや」
「次点で魔王でしょ!」
「いや、お前どうした? 正解だよ」
「ふっふっふ、何か私最近頭良くなった気がして、前より視野が広がったっていうか」
「ほう、さすがだな」
貴央先生は教え子の成長を素直に褒める。
「あとハーハラちゃん!」
「は? 何シノブ?」
「ハーハラちゃんも占ってあげるよ!」
「は? いや、私は無理でしょ! ほぼ絡みなかったし」
「ハーハラちゃんが好きなジブリ作品ってゲド戦記でしょ!」
「は?」
「で、主人公を恋人目線で追ってたでしょ!」
「いや、何言ってんのこの子」
ハーハラは少し顔を赤らめる。正解のようだ。
「いや、お前ホントどうした? 何か怖いな」
「サクマヒメちゃーん? いるー?」
「ひい!」
「サクマヒメちゃんも占ってあげるよ!」
「いや、何か怖いからやめてくれ!」
「サクマヒメちゃんが好きな主食って米でしょ?」
「何で分かるんじゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼ 怖いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい‼」
サクマヒメは恐怖で身を屈める。いや、彼女に関しては適当すぎる。
「あと誰かいないかなー?」
「まずい! シノブが次の標的を探している!」
何か怖い話みたいになってきた。まあ夏の風物詩だろう。
「サツマヒメさんはどこにいったのー?」
「ああ、何か久し振りにボール蹴りたいって」
「外か。サッカーか。練習か」
「まずい! シノブが提示された情報から脳内で位置検索を掛けている!」
「まあ牛尾中グラウンドかな。よし、行ってみるか。サツマヒメさんいなくても、他に誰かいるかもしれないし、学校なら」
「まずい! 被害が大きくなる! 待てシノブ! ウチで遊ぼう! ほら、ネンインパクトあるぞ!」
「え? ああ、ネンインパクトか。キャラゲーですね」
「いや、まあキャラゲーだがなかなか面白いぞ! やってみないか?」
「いいですよ。やりましょうか」
「いや、シノブ強すぎるだろ。何で全然攻撃当たらないんだ?」
「簡単ですよ。貴央先生がパンチしたらガードして、キックしたらガードしてるだけです」
「いや、それが難しいんだろ、普通! 何でお前ピンポイントで技が分かるんだ?」
「え? いや、何となく。いや、大体色々考えていたら、大体次に相手が取るリアクションとか察しつくってか、絞れるじゃないですか。人が咄嗟に取れる行動って実はそんなに多くないし」
いやあ、何か怖いというより少し気持ち悪くなってきた。
「さあて、ネンインパクトも飽きてきたし、占いの続きやろうかなあ。さあて、まだ占っていない人は。そうだ、外だ。ここにはもういないから外だ。学校に行こうとしてたんだった。学校か」
「いや、待てシノブ! そうだ、ジュースでも飲まないか?」
「いやいや、そんな魔人ブウみたいな引き止め方しても私は止まれませんよ、オルガ」
「あれ? オルガだっけ?」
「止まれないんですよ、ビスケット」
「あれ? ビスケットだっけ?」
シノブは貴央先生の脳内のオルフェンズを軽くゲシュタルト崩壊させてから、外へ飛び出した。
「さあて、牛尾中学校に着きましたよっと。誰かいないかな~?」
最近シノブのキャラが特に不安定だ。そしてウラララ‼ も読み返してみたら途中から大分キャラが変わっていた。ヴァイオレット・エヴァーロッテンマイヤーさんが出た辺りからツッコミキャラにシフトし、周りにココロワ‼ や聖頑宮さんなどの敬語で話すキャラが増えてきたから相対的に敬語をやめてしまった。熱いツッコミキャラになってしまった。河野盾みたいな。そして平も最初カイザーっぽいキャラだったが、途中から河野盾っぽくなっていく。やはり基本は勇者学なのだ。シノブも何か鋼野とか火野木っぽいし。
「ドロピザくんがいた!」
「ゆいまるうううううううううううううううううううううううううううううう‼」
「りょう、ワンピース、りょう」
「あとついでにゆいまるちゃんもいた! よし、まああの二人でいいか! おーい!」
「あ、副キャプテン! 何でグラウンドに?」
「いや、ドロピザくんって普通にコミュニケーション取れる人間なんだ!」
「いや、普通にコミュニケーション取れなかったら人間じゃないし、学校に通えませんって!」
「ああ、ごめんごめん」
「こう見えて僕偏差値80あるんですよ!」
「え、すご」
「ゆいまるは30ですが!」
「え、すご」
ドロピザは馬鹿のくせになかなかの高偏差値だった。ちなみに現実の彼は慶応大を出ている。
「りょう、すごい」
「うわ! ゆいまるちゃんも喋った!」
シノブは愛猫が喋ったような感覚に陥る。
「ゆいまる、しゃべる」
「凄い、凄い! 人みたい!」
「いや、人の妹を動物みたいに言わないで下さいよ!」
「お、ドロピザくんも普通にツッコめるじゃん!」
「副キャプテンはどんだけ僕達兄妹を軽んじてるんですか!」
「いやあ、ごめんごめん。私の中でのドロピザくんのイメージって、知識の幅は広いからクイズとかめっちゃ強いけど、自分でアイデアを産み出したりする能力がゴミだから、漫画家じゃなくて編集者目指してんだろうなって!」
「いや、確かにまあその通りなんですがそこまで言わなくても! 僕が偏差値80とか言うのただの虚勢だって僕の動画観れば明瞭じゃないですか! 僕だって偏差値なんてただの数字だと思ってますし! 勉強なんて良い大学行きたい奴だけやれば良いと思ってますし! 現実の僕が高三時点で偏差値40だったのに猛勉強して慶応大を現役で受かったのも、ただジャンプ編集者になりたかっただけらしいですし! 結局なれなかったらしいですけど、現実の僕! だからせめてこっちの世界では最強のストライカー目指してんじゃないですか! 現実の僕も学生時代サッカー部で、プロサッカーとか大好きだし!」
「ああ、何かごめんねドロピザくん。お詫びに占ってあげるよ!」
「ええ? 占い? ええ、はい。じゃあお願いします」
「ドロピザくんって馬鹿でしょ?」
「えー? いやだから、僕は偏差値がやたら高いだけの馬鹿なんですって! 絶対ワンピースとか描けませんし! 多分一生考えてもあんなの思いつきませんし!」
「よし!」
「いや、占いってそれですか? それなら僕だって出来ますよ!」
「ええ? じゃあやってみなよ、ドロピザくん」
「シノブさんって今副キャプテンですけど」
「ん?」
「ちょっと『やっぱキャプテンにしとけば良かったかなあ』と後悔してる部分があるでしょ!」
「え? いやいや、だってキャプテンは平くんだし! 平くん以外有り得ないし! はい、ドロピザくん外れ~! 占いの才能すらなかったね、君は!」
割と辛辣な言い方をして、シノブは踵を返す。何故か彼女の目頭が少し熱くなる。ドロピザくんは少し心配そうな感じで去っていくシノブの影を追っていた。
「うううううううう、だって平くん以外有り得ないもん。だってあの時本当に何も楽しくなくて、でも平くんがキャプテンなら何か安心だったんだもん。私だってちょっとキャプテンやりたい気持ちもまあ少しはあるかもしれないけど、でも副キャプテンだって十分凄いし! みんな平くんより私の方が上手いって分かってるし! 別に副キャプテンだって最強だもんね~! ううううううううう」
何かシノブは少し悲しい気持ちになった。ドロピザ如きにそんなことを言われてしまうなんて。あいつは偏差値が高いだけのアホなのに。そして偏差値30の妹は完全に忘れられていたが、まあそんなことはどうでもいいだろう。さすがにあの子を占うのは多分無理なのだから。知能が低すぎて。
「何が慶応大だよ~! 私だって余裕で入れるし! 入る気全くないけど! てかドロピザくんが入れるレベルの大学で学べること多分ほぼないし! だって入ってもジャンプ編集者にすらなれないんだもん! 学費ドブに捨てただけじゃん! 実際現実のドロピザも知識量は多いけど動画自体は全く面白くないし! だってあの人ユーモアのセンスが壊滅的だから! 娯楽に振り切れてないっていうかさー!」
まあ、西のオフサイドが娯楽として極上すぎる気もする。いや、自慢ではなく、所謂娯楽性全振りという作り方を意図的にしているだけだ。若い頃のゾレトはベタとかパクリとか言われるのがめちゃくちゃ嫌で、頭の中で毎日毎日固定観念を一つ一つ破壊する作業を繰り返していたのだ。そして行き着いたのが今のこの最強のスタイル。この小説の書き方は変という次元ではない。何故なら世界中のどの小説を読んでも、ゾレトの小説の書き方に符号するものは現時点では一つもない。ゾレトしかこの書き方をしていないし、知る限りこの書き方を模倣するものも現時点ではまだいないためだ。ゾレトは昔ブラックブレットやアクセルワールドを好きだったが、もう下らなくて読めなくなってしまった。作中でブルーロックの話ばかりするのは、今のゾレトがギリギリ楽しめる娯楽がそれしかないからだ。自身の作品を除くと。そう、一番は西のオフサイドで、その遥か下、ギリギリ知覚できる範疇にブルーロックがあるようなイメージだ。ゾレトはドロピザに対し全く嫉妬の感情は抱いていない。完全に自分より下だと思っている。ゾレトは自身より頭の良い人をあまり見たことがない。これも彼の思考力が世界一だという裏付けの一つになる。ドロピザはこの前の思考力表の秀才の位置だ。天才にいるのは尾田栄一郎だと思ってくれ。漫画家は天才で秀才は編集者なんだ、大体。そしてクリエイターとしての能力、つまり思考を極めたらゾレトみたいに神に等しい境地に至る。シノブもこの神に近付きつつある。最近の彼女の変化はそういうことだ。そしてゾレトが夢に出てきた辺りから、シノブも言っていたが小説の次元が大分上がった気がしないか。一回に集中して書ける文字数も前は1000文字、調子が良くて2000文字くらいだったが、今は5000、10000文字くらいを没頭して書けるようになった。そして、前に比べてエモい展開、つまり感動回が増えたのも、キャラに憑依することが可能となったからだ。その結果シノブや貴央先生、サクマヒメや幻野くんなどの今まで駒として使っていたキャラに人格が宿り動き、考え方が生きた人間のように生々しくなった。それゆえエモい展開が発生しやすくなった、つまり順当進化したのだ。この文章も無理して長文にしている訳ではなく、ゾレトの脳内をある程度説明しようとしたら自然と指が進み、気付いたらここまでの文量になっていただけだ。これも原寛貴時代には不可能、というか難しかった。原寛貴時代には集中力があまりなかったためだ。今のゾレトのものは没頭力というべきかもしれない。
「うわ! 地の文怖! 何か怖いから帰ろっと」
地の文にビビったシノブは取り敢えず空久宅に戻る。
「いやあ、ドロピザの動画久し振りに観てみたら、全く面白くないなあ! 大学生の動画じゃないんだからさあ! 一応プロだろ? てか、社会人だろ? これは駄目だよ~!」
「ドロピザさんがゆいまるを隣に置いてるのって、比較で自分を賢く見せたいだけですよね!」
「ああ、名誉欲の塊みたいなつまらない男だからな! 世界遺産検定とか漢検とか、何か下らん資格Xのプロフィールに書いて! いや、大学生かよ! 何か偏見かもしれんが、高学歴な人ほど幼稚な人が多くないか? たまごっちとか好きだったり!」
「ドロピザもワンピース好きだったり、ポケモンガチ勢だったりしますからね!」
「普通賢いアピールしたい人はそんな小学生みたいな趣味を持たないし、自分から大々的に喧伝もしないもんだがな。いやだって、軽く矛盾してるじゃないか! 幼稚ってつまり馬鹿ってことだろ? いや、ワンピース考察してる人が偏差値80とか言っても、じゃあワンピース読んでる人は偏差値80くらいなんだろうな、という証明にしかならなくないか? 私は進路を新潟経営大学に決めてから勉強一切やめたから、偏差値40くらいだったし! だから80ってのがどれくらい凄いのかよく分からんし! 指標がドロピザしかない! あとめだかが90だっけ? いや、めちゃくちゃ高い部類なんだろうが、凄いことなんだろうが、結果やってるのがワンピースのネタ潰しだからな! 小説書くとかより遥かに非生産的だし、そもそもユーチューブってそんな儲からんだろ! 普通のリーマンとかの方が遥かに稼げるぞ! やっぱ普通が一番だよな!」
貴央先生は自身の学歴にコンプレックスがあるのだろうか。いや、ゾレトと同じ大学に行きたかったのではないのか。