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俺が彼女を嫁にするまで【はじまり編③】

『俺さ』

『あぁ』


 わざと幼馴染みのドナルドに対しての接し方をすると、ドナルドは俺に応え、口調を崩す。

こういう察しの良さがあるのに、俺が姫様に恋してるだなんて妄言を吐くなんてと思いつつ、俺は今まで隠していた事を話す。


『俺はクラリス様の事は恋愛対象としてみていない。俺がそういう目で見ていたのは、オペラ様の事だよ』


 オペラ様とはクラリス様の姉で、俺とは同い年だ。ある男性と駆け落ちしてしまったが、とにかく素晴らしい方だった。


『……は?』

『知っていると思うけど、俺は昔は入院していてね。その頃、父親からオペラ様がいかに素晴らしい女性か聞いて育ったんだ。そんな女性に仕えられるお前は幸せ者だ、頑張って病気を治せといわれたよ。俺は病室でずっとずっと、オペラ様に憧れていたんだ』

『はぁ』

『病気が治った後、彼女に会って、やはり特別な方だと思ったよ。俺はあんまり人にそう思わないんだけど、尊敬できる方だと思った。話していて楽しかったしね。この方に仕えられるなら、幸せだなと思った』

『はぁ』

『あぁ、もしかしたら、俺が自立していて、気が強く、頭が切れ、コミュニケーション能力が高い、仕事も出来る女性とばかり付き合ってしまうのは、オペラ様を引きずっているからかもしれないな……オペラ様が、そういう女性だったから』


 もしそうだとしたら、俺は存外未練がましい男らしい。


『でも、タナト、お前』

『何?』

『お前が、オペラ様の駆け落ちを手引きしたんだろ? ……それも、オペラ様の側仕えから、クラリス様の側仕えになるために』


 俺の頭は真っ白になる。

 何故こいつがそれを知っている?


『それをどこで知った? ドナルド・ウィンター』

『……っ!』


 俺はドナルドを静かな、しかし冷たい目線で射貫いた。


『……言えません』

『そう? 言わないなら、姫様に本をさしあげるついでに、ホーランド家当主に君たちの計画を全部話してこようかなー』

『は? そ、そんな事させません!』

『俺はこの部屋の見張りをしている者を一言で動かし、君を取り押さえる事が出来るんだよ? 君に何が出来る?』

『……くっ』

『話せば、俺はホーランド家当主にこの計画を黙っていてあげる。悪い話じゃないだろう?』


 ドナルドは「くそっ、失言した」と髪をかきむしった後、仕方ないといいたげな顔で口を開く。


『……オペラ様です』

『え?』

『オペラ様に駆け落ちの寸前に言われたんです。タナト様はクラリス様の事が好きで好きで仕方がなくて、クラリス様の側仕えになりたいのだと。その為にタナトを側仕えとして縛りつける自分が邪魔で、排除しようとしていると。駆け落ちを選ぶしかないのは確かだが、あの男の餌食になる妹の事がしんぱ』

『はー、まさかオペラ様にそんな事を思われていたなんて心外だな。俺はオペラ様の事が好きで、彼女に幸せになってもらいたいという、純粋な気持ちで駆け落ちを助けたのに。自分でいうのもなんだけど、自分の気持ちよりオペラ様の幸せを願うだなんて、純愛だろ?』

『……よく言えますね、そんな事』

『今までコルセット様に黙っていてくれたのには感謝するよ、ありがとう』


 コルセット様、つまりホーランド家当主にバレていたらどんな事になっていたか分からない。


『これからも言いませんよ。あなたはクズだけど幼馴染みなんで。クズだけど』

『ははっ、傷つくなぁ。しかし、君は姫様の次ぐらいにいい子だね。姫様は俺が知る限りでは、この世で一番のいい子だから喜んでいいよ』


 まぁドナルドのいい子さは(俺にとって都合がいいので)好ましく思っているが、姫様のいい子さには苛立ちを感じていたりする。


 いい子だからそれがどうした? 性格が良いだけの女が好かれるなんて、そんなのあまっちょろい少女小説の世界だけの話だ。公爵家から離れたら生きていけない、頭の回転も俺から見れば愚鈍で、コミュニケーション能力が低く、何も出来ない女、それが姫様だ。そんな何の力もない人間の善良さだなんて薄い紙のようにペラッペラの価値な、俺の苛々を煽るものでしかない。

 あぁでも、姫様はよくわからない無駄な方面にはその能力を発揮するな。体を動かす事にとにかく秀でていたりだとか、鍵あけが得意だとか、口笛や歌が上手かったりとか、その他諸々だ。

でもそんな能力、公爵家のお嬢様がもっていても、何の役にも立たないだろう? それなら、頭が良いとか、社交が得意だとか、そんな風な特技をもっていた方がよっぽどいい。


 ドナルドと会話しながら行っていた、出掛ける準備が終わった。


『じゃあ私は出掛けるよ。君も帰ったら?』

『……タナト』

『うん?』

『お願いだから、僕達に協力してくれよ』


 その声はあまりにも切実で、ドナルドには借りがある事が分かった以上、むげにもしにくかった。


『……考えておくよ』


 まぁでもどう考えても、恐らく俺は断る道を選ぶだろうなと思った。


 しかし、オペラ様に俺の考えがバレていたとは気づかなかったな……ドナルドの言う通り、俺は姫様の側仕えになる為にオペラ様の駆け落ちを手伝った。

姫様の側仕えにそこまでしてなりたかった理由は簡単だ。俺以外の人間が姫様の側仕えになるなんて、我慢ならなかったから。

 ……俺以外の人間が姫様の近くにいられる権利をもつなんて、認められるものか。


『返事は待つから!本当によく考えてくれよ、タナト!』

『分かった、分かった』


 めんどくさい奴だな、そんなに言っても俺は頷かないと思いつつ、執務室を出た。




 この時の俺は想像すらしていなかった。

 この数時間後の俺が、意見を翻し、ホーランド家を没落させる為の計画にのる事になるなんて。




次回からがある意味では本番です。

明日21時に予約投稿されますので、続きも読んで頂けると幸いです。

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